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第10章 運動できるカードゲーム系VTuberってありですか?②

 若干のドヤ顔。そう、俺は割と運動には自信がある。前世では仕事に忙殺されて運動なんてする暇がなかった。その上で、あの不摂生であるそりゃ死ぬわ、て感じで。今世ではそんな事故、絶対に起こすまい、と俺はある程度運動する習慣を作っている。

 と言っても、毎日ジムでがっつり運動するとかいうわけではない。週に1回、ジムで軽く汗を流して有酸素運動をするぐらいだ。それでも結構体は目に見えて変わって。

 まず第一に、集中力が続く。座って考えることもやはり体力を使っていたのだろう、カードゲームをしているときも、VTuberとして配信しているときも集中力の持続しやすさが段違いだ。第二に腰が痛くならない……いや、これはもしかしたら歳をとったらまた痛くなったりするのかもしれないが……それでも、ネットを見てる感じ運動をすることである程度改善できるらしい。……ということで、俺は今回の輪っかDEフィットアドベンチャーをやるのもそこそこの自信があった。


『そんなに言うなら当然負荷はMAXだよなあ?』

『カードゲーマーも運動できるところ見せたれ』

『秋城ニキ動けるヲタクやったんか……』

『そのドヤ顔が後悔に歪むまであと』


「お、お、言ってくれるな?お前らこそ、あとで掌クルーすることになるんだから覚えとけよー」


 そう言いながら、改めて配信環境のチェックをする。ゲーム配信一発目が輪っかDEフィットになるとは思わなかったが、しっかりキャプチャーボ―ドは仕事をしてくれているようだ。俺は母親から借りたヨガマットをパソコン机の前に引き、改めて両手両足を広げて動かす。どこにも当たらない、よし。


「あ、技打ってる間はコメント見れないからそれだけご了承な」


『了解』

『合間に返してくり~』

『運動しながらコメ返は化け物w』

『負荷MAX忘れんなよー』


 そうして、輪っかについたコントローラ―のAボタンを押す。まずは、初回なので新規データを作るかと聞かれ、素直に「はい」を押す。まずは当然プレイヤーの名前を聞かれる。


「えーと……名前かーまあ、秋城、でいいか」


『本名ワンチャン』

『秋城 〇〇と予想する』

『〇〇秋城説』

『答えは?』


「誰が本名を答えるか、そんなことをしたらその日から特定班が動いちまうだろ。っと、次の質問は———」


 素直に秋城と打ち込んで、確定をすれば、画面上にテキストが現れる。俺はそれを素直に口に出して読み上げる。


「初めまして、秋城さん。私は輪っか、唐突ですがフィットネスにおいて大事なモノ、分かりますか?……大事なモノ、なんだ、回数とか?」


『体力』

『←それを作るための輪っかDEフィット』

『プレイする時間帯』

『プレイ後プロテインを飲む』 


「確かにどれも大事そうだな……」


 俺は答えを求めて話の続きを見ようと、輪っかをぎゅ、と押す。


「えー、それは姿勢です。なるほどね、確かに姿勢は大事だわ。視聴者の……こういうとき、うぃんたそで言う「信者」みたいな呼称が欲しくなるな」


『とりあえず一時しのぎのお前らは?』

『昔、視聴者をゴミと呼ぶVTuberがおってな……』

『先に決めておかないからよっJ( 'ー`)し』

『秋城……ゲームよりやることあるくね……?』


「ぐう、正論。まあ、とりあえず今日のところはお前らで進行させてもらうわ。つーことで、お前らも筋トレやら運動するときは正しい姿勢を心掛けろよーじゃないと、肉離れやら痛い目に合うぜ」


『センキュニキ』

『そもそも運動することがないw』

『ニキも正しい姿勢でな』

『でも、自分じゃ姿勢なんて分からねーよなあ』


 コメントたちにうんうん、と頷きながら俺は輪っかをぎゅ、と押す。


「正しい姿勢をお見せするため、姿勢のプロフェッショナルをお呼びします。ビブリさーん」


 テキストの進行と同じぐらいの速度で俺がビブリさんとやらを呼べば、大体同じぐらいのタイミングで画面の左側から輪っかを持ったのっぺらぼうなのに清潔感のある男が画面上に表示される。


「ビブリさんは正しい姿勢を教えてくれます。間違えるとビブリさんが凹んでいってしまうので、ビブリさんの真似をして正しい姿勢でフィットネスをしてくださいね!……え、ビブリさん凹むん?むっちゃ罪悪感あるな、それ……」


『逆に正しい姿勢続けると、むっちゃ喜ぶやで』

『宿り木のポーズ10回連続ブレなしで成功すると花火上げてくれる』

『ビブリさんを泣かせるタイムを計るRTAもある』

『ビブ虐』


「ひでーな、おい。まあ、俺ぐらいになれば?ビブリさんを満面の笑顔にすることぐらい朝飯前なんだがな」


 ドヤ顔その2。そんなことを言いつつ、輪っかをぎゅっぎゅっ、と押し込んで話を進めていく。もちろん、俺の音読付きだ。


「それでは貴方にあった運動負荷を決めたいので、いくつか質問させてください。———そんなの決まってるよなあ⁉」


『視聴者との約束だからな‼』 

『負荷MAX!負荷MAX!』

『途中であきらめろニキ』

『秋城無理すんな』


「えーと……貴方の年齢は?」


 ひゅ、軽く息を飲む。一応、前世でも公開していなかったトップシークレットだ。俺の頭の中を色んな考えが浮かんでは消える。年齢を公開するべきか、否か。年齢を公開するメリットは?非公開にするデメリットは?ぐるぐると考えながら、俺は声を絞り出した。


「あー、流石にこれは……すまん、お前ら」


 ゲーム機からパソコンへ画面を転送しているコードを抜いてから、カチャカチャと打ち込んで次の質問に映ったのを確認してゲーム機にもう一度コードを取り付けて元の位置に戻す。


『くっ、秋城の年齢バレワンチャンあったのに……‼』

『今の年齢なら相当若いハズ』

『まあ、本来の年齢的に負荷MAX出ないはずやからなあ……』

『これで関係ない年齢打ち込んでたら草』


「とりあえず、負荷MAXが出るであろう年齢は打ち込んでおいたぜ……んで、次の質問か。同年代と比べると貴方は普段どれくらい運動をしていますか……?まあ、負荷MAX出すなら、なあ?」


 視聴者にそう投げかければ、コメント欄も一様の返事をし始める。


『そりゃもう‼』

『いうてニキ実際にやってそう』

『腕の筋肉だけは間違いなく発達してる』

『シャカパチし過ぎで手首の筋肉凄そう』


 そんな声を受けつつ、俺はかなり運動しているにコマンドを合わせて、輪っかを押し込む。すると、ビブリさんが驚いた風に飛び上がる。


「おやおや、これは頼もしい仲間ですね。ちなみにどれぐらいのハードさのあるフィットネスを求めていますか?……これも決まってるよなあ!」


 最早コメントを見るまでもなく、俺は即座にガチンコ、にカーソルを合わせて、輪っかを押し込んだ。


「えー、これはかなりキツいですよ?でもその分、引き締め効果も高いです。めげずについてきてくださいね!……おうおう、ビブリさんよお、誰に言ってるんだ?俺がついていけないわけないだろぉう?」


 若干巻き舌で吠えれば、最後にがんばる!にカーソルを合わせて輪っかを押し込む。


『秋城の冒険始まったな』

『1マス目でリタイアに一票』

『ドラゴンまで行けるかぁ……?』

『そういえば、ニキどこまでやるん?このゲーム割と無限にできるやで』


「え、なんかセーブポイントとかあるんじゃないの?」


 俺が輪っかを押し込むのを辞めてコメントに聞き返せば、丁寧にコメントが返ってくる。


『ワールドの区切りはあるけど……』

『セーブポイントwいつのゲームw』

『ニキ、今は基本オートセーブやで……』

『とりあえず、ワールド1は短いしドラゴン倒すまでがおすすめやで』


「ぐう……俺のゲームの知識が古いのが露見したぜ……‼まあ、でも、お前らの意見を見てると————……」


 コメントをちょっとマウスで戻したりしながらどんなコメントが多いかを見る。すると、大体はワールド1を区切りにすることをおすすめしていて。


「んじゃあ、今日はワールド1を区切りにするな。やりすぎもよくないだろうし」


『さあ、ドラゴンまで行けるか⁉』

『どこでギブするか賭けようぜ‼』

『2コース目で敵が出てくるところ』

『ドラゴンにHP削られてリタイア』


「おうおう、言ってくれるな……と、運動負荷でたな」


 画面に表示されているのはMAX!の文字。どうやら、これが無理だと思ったら毎日調整もできるらしい。まあ、確かに一度決めた設定動かせないは親切じゃないわな。


「と、最後の質問?」


『この問いで秋城がガリなのかデブなのか分かる』

『コード抜くなよw』

『これは個人特定されないから‼』

『44.5kg』

『←それは秋城じゃないwwwwww』


 画面に表示される、「貴方の体重は?」の文字。まあ、体重ぐらいなら……言うて、BMIも普通体重だしな。多分大丈夫。俺は70と打ち込んで輪っかを押し込む。


『70……何とも言えない数字』

『身長高くてガリなのか、平均身長でガッシリしてるのか』

『身長も‼』

『年齢も不明だから、どんななのか絞れねえ……‼』


「いや、身長は言わんわ。本当に特定されちまうだろ?……お、それでは新たなる冒険の幕開けです‼頑張ってくださいね‼……おう!」


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