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第10章 運動できるカードゲーム系VTuberってありですか?

 それはある日のゆったーでの視聴者からのリプライから始まった。


『秋城欲しいモノリスト公開せん?やってほしいゲームがあるんだが』


 そんなちょっと慣れ慣れし……親し気なリプライ。だが、次の配信ではなにをやるか悩んでいた俺にはちょっと嬉しいリプライであった。

 ちなみに、なんで欲しいモノリストを公開すると相手が任意の送りたいものを送れるか、というと、namazonのカートに欲しいモノリストから1個と自分の送りたいものを一緒に購入すると、欲しいモノリストの配送先住所にカートに入れたモノ全部お互いに匿名で届けてもらえる、という謎システムだからだ。なんでこんなシステムになっているかは知らん。知らんけど、みんな便利だから使っている。まあ、そんなところだ。

 ということで、俺はカフェイン飲料やら水やらカップ麺やらオーバースリーブやらインナースリーブやらその手の消耗品をリストにぶち込んで、住所を設定し、それを匿名にする設定をしてからゆったーに公開した。……それから数日後。


「あんた、こんなにネットショップでなに買い込んだのよ……」


 母親は玄関に溜まりに溜まった段ボールの数々に額を押さえながら俺に文句を言う。


「いやー、ね。備蓄、備蓄。災害があったら使うだろ?」


 その数、なんと10箱近く。欲しいモノリスト公開から3日でこれである。嬉しいやらなんなんやら……だけど、これらを全部俺の視聴者たちからのプレゼントです、なんて言うのは憚られるというか……。俺は、親にVTuberをやっている、ということを言っていない。でも、多分こそこそなんかやっているのはバレているのであろう、みたいな塩梅で活動をしている。故に、全部をつまびらかに話すことはできなくて。当たり障りのない嘘でごまかすことになっている。


「備蓄って……ゲームやらこのカードで使う袋やら備蓄してもしょうがないでしょ……」

「そ、それは一緒に買っただけ。家族で備蓄した方がいいものはリビングに運ぶから、もういいだろ?荷物マジマジと見られんのは恥ずかしいって……」


 俺がそう言えば、ぶつぶつ言いながらリビングに引っ込んでいってくれる母親。なんだかんだ言いながらも、過干渉にはならない。マジでいい母親だ。……決して、都合がいい、というわけではない。マジでいい人だ。

 ということで、namazonの箱を一つ一つ開封していく。中身にぎっしり水が入っている箱やら、オーバースリーブの山やら、視聴者からの謎の贈り物やら。俺の部屋に運ぶものと、母親にああいった以上備蓄してもらうモノを分ける。そうして、リビングまで何往復かして運んで、次に自分の部屋にnamazonの箱を運び始める。ちなみに、欲しいモノリスト以外で届いたものは綺麗にラッピングがされており、配信で開けてくれ!と言わんばかりだ。


「と」


 俺は最後の箱を自分の部屋に運べば、自室の扉を閉める。さて。


「放送で開けるべきか、一応中身を確認するべきか……」


 多分、リアクションとしては先に中身を見ない方がいいリアクションができる気がする。だけど、万が一、万が一、画面に映ったら生放送がBANされるようなものが入っていたらを考えると、うーん、と唸ってしまう。


「でもなあ……」


 正直、俺の視聴者層はかなり悪乗りすると思っている。男子高校生がギャグで友達に誕生日プレゼントって言ってオナホールを渡すような、そんな悪乗りを。それを考えると、かなり中身を確認した方がいい気もして。


「ううん……」


 そう唸っていると、プレゼントの一つ一つのリボンに四角いカードが付いていることに気づく。試しに、一番手前にあるちょっと大きめの箱のカードを開いてみる。


『おっす、秋城ニキ。ゆったーで欲しいモノリスト公開お願いした奴やで。このゲームで一枠立ててくれ~応援してるで』


 どうやらメッセージカ―ドだったらしい。と、いうことは……。


「プレゼントだけじゃなくメッセージまで……?」


 それはなんと嬉しいことだろうか。いや、全部がメッセージとは限らず、当然ながら嫌がらせのメッセージなんかも入ってはいるだろう。それでも、やはり、少しでも応援をこうして目に見れるだけで嬉しいものだ。


「よし」


 とりあえず、この始まりのひと箱は開けてみようではないか。これで枠を立てて欲しいという希望も見たしな。それ以外は、放送でお礼でも言いながら開けていくとしよう。




 ということで。


「こんしろ~、秋城の生放送はっじまるよー。ゆっくりしていってね」


『こんしろ~』

『こんしろ』

『いきなりの枠立て』

『今日は何やるん?』


「いきなりって言っても、予告はしただろ?つーことで、今日は欲しいモノリスト経由で頂いたゲームをやっていこうと思う。はい、拍手」


『888888888888』

『888888888888888』

『パチパチ』

『シャカパチシャカパチ』


「シャカパチ混ぜんなよー」


 そう視聴者のボケに笑いながら突っ込んでいく。拍手の中で、シャカパチ……これもカードゲーム用語のうちの一つだが、カード同士を擦り合わせるように入れ替えてパチパチ鳴らす、主に手癖のようなモノのことを言う。……もっと言うなら、このシャカパチという行為は定期的にマナー違反だのなんだの、物議を醸しだす行為であるため、よい子は真似をしないように。俺はやるが。


「んで、なにをやっていくか。気になるよな?」


 そう俺自身が歯を見せてにやり、と笑えば秋城が同じ表情を浮かべる。


『ホラゲー?』

『秋城TCG以外のゲームできんの?』

『あれだろ、かなり前に出たバトマスのGBBソフトとかいうオチ』 

『あ、そういうオチ……』


「おいおい、俺だって現代のVTuberだぜ?流石に、バトマス以外のゲームもするって……というかGBBソフト送られてもGBBがねーわ、いや、生前なら持ってた気もしなくはないが……」


『それはそう』

『なら、妹ちゃんに送ってもらおうぜ‼』

『解決』

『GBBバトマス配信はっじまるよ―』


「はじまらんて、ていうか、今妹と接点がねーよっ」


 当然だが、視聴者はこっちの事情なんか知らない。だから、ちょっと刺さる言葉に内心どきどきとしながらもできるだけ自然に返す。


「ということで、今回は、輪っかDEフィットアドベンチャー6をやっていくぞー」


『輪っかフィット⁉』

『秋城が運動をする、だと……⁉』

『秋城の体重がバレますね』

『誰得wwwwwwwww』


 輪っかDEフィットアドベンチャー、それは俺が死んで1年後……2019年、コロナ禍という外に出て他人と密になってはいけない期間に日本人に運動を促した伝説のゲームである。それから20年。何度も何度も改良され、何度も何度も敵役のドラゴンが洗脳されたり騙されたりでそろそろ実質の主人公である輪っかも「なんで助けてるんだろう」って気持ちになってくるであろう頃合いの最新作だ。ちなみに今作でもまた、ドラゴンが何回目かの洗脳に合い、また輪っかと俺たちプレイヤーの前に立ちはだかる。———そろそろコイツ諦めてよくない?


「えー、メッセージカ―ドも改めてありがとな。書いてあった通り、これから俺の枠でこのゲームをやっていくから、楽しみにしててくれー。ということで、画面どーん」


 そんな掛け声とともに、秋城のアバターを横にずらし、ゲーム画面を写す。画面に映るのは、輪っかDEフィットアドベンチャー6のでかでかとした文字。


「あ、俺が運動できるかどうかは是非、放送を見ていって判断してくれー。ちなみに、俺的にはそこそこ自信がある」



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