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第9章 わたあめ配信に新たな来訪者ってアリですか?②

【オフで会ったことある?そのときはなにをした?】


 お、これはうぃんたそ主導にして余計なことを言わないようにしなければ。じゃないと、秋城の炎上2ndになりかねない。それをうぃんたそも察したのか、うぃんたそが喋り始める。


「秋城さんとはね~初回の、新たな伝説の幕開け配信のときに打ち合わせでカフェに行ったよ~。すっごく暑い日だったから、汗臭くないか心配だったよ~」

「お、俺が触れにいっていいかぎりぎりの話題で攻めてくるねえ、うぃんたそ」

「どうだったかな、秋城さん?」

「振ってきた⁉」


 確かに、下手になにをした、とかいうよりはリスクの低い話題のつなげ方ではあるが。女性の、匂いの話題……俺が困りに困って唸り声をあげているとコメントが擁護しだしてくれる。


『童貞に酷な話題』

『此処でスマートに切り返す秋城は解釈違い』

『ナイス沈黙どうt、秋城』 

『童貞無理すんな』


「ありがとうよ‼お前ら‼悲しいけど事実だ、こんちくしょー!」


 そんな俺の叫び声。もちろん、エコー効果をつけてお届けしました。さあ、わたあめ4個目。


【二人のお互いに知りたいことは?】


「お互いに知りたいこと……うぃんたそのプロフィールはマジで暗記済みだからなあ……」

「そういうデータ上のことじゃないと思うよ、秋城さん。じゃあ、この話題もうぃんたそからいっちゃおうかな?」

「どぞどぞ」


 こういう時に首から下が動かないモデルだと身振り手振りできないからなんか面白くないよなあーとぼんやりと思いながら必死に横に揺れる。


「ずばり!秋城さんの最推しVTuberは⁉」

「お、うぃんたその名前以外上げるのを許されないチョイス!もちろん、うぃんたそです」


『え~本当でござるか~?』

『ご機嫌取りかw』

『ほれほれ、本当は他のVの名前が出てくるんだろう?』

『正直に答えろ~』


「いや、マジで‼マジで、最推しはうぃんたそだよ……まあ、他のVの放送を見たりするのは事実なんだが。最推しはマジうぃんたそ、1周年記念の直筆からグッズはきっちり全部揃えてるよ」

「え⁉」


 うぃんたそのアバターが両手を口元に添えて跳ねる。そう、俺の部屋の隅、数は多いわけではないが、鈴堂うぃんの過去販売したグッズのコーナーが作られている。焼き増し絵のグッズは残念ながら手を付けられてないし、マジで周年や登録者数記念の書き下ろしグッズだけなので誇っていいほどではないが……こんなにグッズを集めるほどのめりこんだVはうぃんたそが初めてだ。


「ちなみに直筆をとり逃したことはないな、マジで直筆の気配を感じたら販売ページ公開時からページ待機してるし」

「はわあ~~~~」


 うぃんたそが嬉しそうに身震いしている。そうして、ぴょんぴょんと跳ねて満面の笑みを浮かべている。


「秋城さんあたしのこと好きすぎ~~~、何か欲しいものはある~~~?」

「お、そういうつもりで言ったんじゃないぞ~」


『圧倒的秋うぃん』

『推しが推しあってるのてえてえんじゃ~~~』

『くっ……(1周年直筆取れなかった弱者)』

『秋城に、負けた……‼』


「あ、と、水分補給するわ」


 俺はいつものことのようにカシュッ、とカフェイン飲料缶のプルタブを開けて、ぐびぐびと中身を口にしてのどを潤す。そうして、缶を置き、コメントをちらりと見る。


『1缶確認』

『今日のカフェイン飲料終了のお知らせ』

『これ以上のプルタブ開封は禁止であります‼』

『用法容量を守って服用しましょう』


「あは、みんな秋城さんが心配だよね~分かるよぉ」

「カフェイン飲料だけじゃ死なんて。むしろ、あれはブラック労働してたせいだろ……。んで、次は俺の番だな。お互いに知りたいことか……」


 ふむ、と一呼吸置く。知りたいこと、知りたいこと。


「ああ。うぃんたその得意料理は?」


 俺がにやり、として問いかける。その問いにうぃんたその言葉が詰まる。


「うぐっ、ぐ、ほ、他の質問ならなんでも答えるよ~?」

「えー、俺、うぃんたその得意料理聞きたいなあ」


 そんな軽い煽り合い。


『あ』

『?』

『??』

『草w』

『ああ、秋城リスナーは知らないか……』 

『うぃんたそに料理の話題はw』


 恐らくうぃんたそ側のリスナーであろう、察したリスナーは察している。


「受け城さん質問変えましょう?」


 うぃんたその目から光が消えて、じっ、と俺のアバターを見つめてくる。心なしか声も低い、というか受け城て。


「さっき俺も答えられない話題振られましたし~~~?おあいこさまだろ~~~~?」

「も~~!んも~~~‼」


 牛のように鳴きながら地団駄をふむうぃんたそ。そう、うぃんたそはこの質問には絶対に答えられない。なぜなら!


『説明しよう、鈴堂うぃんは産まれてこのかた料理をしたことがないのである!』

『ほえ~』

『やはり天は二物を与えず……』

『まあこのご時世、なんでもデリバリーできるしな』

『家庭科の授業どうしてたんw』


「家庭科の授業は……先生に鈴堂は米を研いだら座っててくれ、て……」


『どんな危険な行動したんだwww』

『それでも貰える成績ェ……』

『でも、お米は研げるんだね‼』

『洗剤入れるまでテンプレ』


「入れてないよぉ‼も~~~秋城さんと視聴者さんの意地悪‼性悪‼受け‼」

「やっていいのはやられる覚悟のあるやつだけって覚えとけ~」


 きゃっきゃっとしたやり取りをしながら、にやにやとしてうぃんたそを見る。


「でも、実際調理はできなくても、作れるものはあるんだろ?何が得意なん?」


 ほれ言ってみ、そんなノリでうぃんたそに動かないアバターで詰め寄ってみれば、うぃんたそが喉の奥から唸り始める。


「ぐ、ぐぬぬ……ぐ、ぅ……ラッシュご飯レンチン……」


 ラッシュご飯。これは今話題の、レンジでチンして食べるだけでお腹いっぱいになって栄養も取れる上に食物繊維が豊富で勝手に痩せていくとものすごくバズりにバズっている冷凍宅配弁当のことである。


『レンチンwwwwww』

『いや、電子レンジが使えるは大きいぞ……』 

『俺はアルミホイルを燃やしたからな』

『まあ、調理できないならメシマズよりマシなので……』


「こひゅっ」


 視線の動き的にコメント欄を見ていたうぃんたそがびくっと動く。


「お、うぃんたそ~~~?なんか引っかかるコメントあったか?」

「や、やっぱり電子レンジさん1回壊したのは駄目なのかなあ……?」

「というと?」


 俺が首を傾げると、涙目になりながらうぃんたそがぷるぷる震え始める。


「その……ゆで卵ってゆでた卵でしょお……?」


 お、オチが見えた気がしたけれど構わず続けてもらおう。


「要は過熱した卵……暖めればいいと思って、生の卵をね、電子レンジでね……」


 ぶるっと震えた瞬間、うぃんたその瞳からは大粒の涙が零れだした。


「暖めている間にコーヒーを入れようと思って、背中を向けた瞬間———パァンッて凄い音がしてね……次の瞬間、あたしが見た時には……」


 地面に向かって逸らされるうぃんたその瞳。


「い、いや待て。流石に卵が破裂した程度で電子レンジも壊れないだろ……?卵1個の破壊力なんてたかが知れて」

「1つだったらね」


 うぃんたそのちょっと生気の抜けた声。


「うぃんたそはあ……卵1パックまるまるパックごと加熱してえ……」


 その惨憺たる状況を思い出しているのだろう、顔を青くしながら額を押さえるうぃんたそ。


「どんっ、ばあんっ……‼そんな音を最後に電子レンジのボタンさんも反応しなくなったよ……」


『卵1パック加熱wwwwww』

『無知過ぎんかwwwww』

『掃除も大変だっただろうなあ……』

『死因:卵1パック』


「で、でもね。それ以来、未知の機械を使うときはちゃんとネットでやってはいけないことを調べるようになったよ。安易な素人判断駄目絶対」


 胸の前で手をクロスさせてバツを作るうぃんたそ。その目はいつになく真剣だった。


「まあでも、それ以来同じこと繰り返してないなら……ていうか、聞いている感じ料理自体が駄目な感じはしないけどな。必要があればちゃんと教えればできそうな」


『それは分かる』

『知らないで爆弾踏んでる感じな』

『知ってればちゃんと回避できそう』

『秋城が教えれば?』


「確かに!秋城さんは料理どう?」

「あー……」


 一瞬考える、正直料理はできる。上手いというレベルではないが、少なくとも妹のために飯を作った10年近くの記憶と経験があるため、少なくとも不味くはないだろう。だけど、如何せん前世で死ぬまでしか料理をやっていない都合上今の便利アイテムが大量に増えた水準で美味しい料理を作れるかは謎で———。


「うーん、作れはする……?」

「疑問形だね?なんか不安要素があるのかな?」

「いや、俺が料理作ってたのって伝説の配信以前でな……今の調理水準で飯を作れるかって言われると微妙なんだよなあ……だから、基礎的な部分は教えられるっちゃあ教えられるけど、今の便利調味料とか調理器具の使い方は知らんぞ」


『以外に家庭的な秋城』

『むしろ料理は基本が大事だからな』

『基礎だけでも教わっておきな、うぃんたそ』

『次のコラボ決まったな!』


 というかそもそも調理ができることと教えられることは別じゃね?そんなことも思わなくはない。


「あ~、でも、コメントでも言ってるよ。『基本が大事』って。それに、これからのためにも秋城さんに料理を教えてもらえたらうぃんたそすっごい嬉しいなあ……‼」

「教え方が下手でも文句言うなよ?」

「もちろんっ」


 にぱっ、と笑ううぃんたそ。これは次のコラボはオフコラボだなあ、なんて遠目に考えながら次のわたあめを表示すべく、恒例のSEを流し、わたあめを画面に張り付ける。


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