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第9章 わたあめ配信に新たな来訪者ってアリですか?

「こんしろ~」


『その挨拶採用なのかwww』

『何度やっても√3点』

『もうちょいマシな挨拶考えようぜ』

『告知見てやってきたやで』


「えー、そんなにこの挨拶変か?俺結構気に入ってんだけどな……」


 人差し指と親指で顎を掴んで首を捻る。そうすれば、カクカクだが僅かに動く秋城のアバター。


「始まりはこんしろ、終わりはおつしろで行くぞ~慣れてくれ~」


『だが、断る』 

『認めないぞ‼俺は断じて‼』

『絶対個性的な挨拶の方がいいだろうに……』

『まあ、設定作りこんでないVぽいっちゃVぽいが』


「ぐ、く……設定作りこんでないはその通りなのだが……無駄に鋭いな、言葉のナイフが……」


 胸を押さえながら鋭い指摘にうめき声をあげる。うぐぅ。さて、今日も今日とていつもの配信……ではあるのだが。


「もう~~~、秋城さん一人で喋ってないで早くあたしを呼んでよ~‼待ちくたびれちゃうよぉ‼」

「あ、悪い。いつもの癖で雑談していたわ」


 そう、今日は記念すべき2回目のうぃんたそとのコラボであった。あの微妙に格好付かなかった配信から数日。あの通話の流れのまま、今日の打ち合わせをし、今日にいたる。


「で、秋城さん。今日はなにをするんだっけ?」


 うぃんたそのよく動くアバターが両手をそわそわと動かす。俺はと言えば、うぃんたそのフリに乗り、バンッ!というSEを鳴らし———。


「今日は‼事前にゆったーで告知していた通り‼わたあめで集めた質問に答えていくぞ~、あ、質問はうぃんたその都合で@ふぉーむさんの検閲が入ってるから読まれなかったらそう言う都合だと思ってくれ~」


 そう、2回目のコラボはわたあめで募集した質問に答えていく配信だ。ちなみに、わたあめとは完全無記名で相手にメッセージを送れる、個人を特定されずに推しにメッセージを送れる素晴らしいツールのことだ。VTuberの間では今回の俺たちみたいにわたあめで質問を募集して、それに答えたり、わたあめで送られてきた文章を読むわたあめ読み配信みたいな使われ方をしている。


『いっぱい投げておいたぞ』

『やっぱり、コラボでは一度はやらなきゃな』

『二人がお互いのことを知るいい機会』

『俺の質問読まれますように』


「ふふ、コメントでも言ってくれてるけど、今回‼本当に‼本当に‼いっぱいのわたあめをみんなが送ってくれたのはあたしも確認してるよ~‼答えられる限り、しっかり答えていくから期待しててね!ちなみに秋城さんは個人勢だしNGなしだったりするのかな~?」


 うぃんたそが秋城のアバターを覗き込むようにじろじろと見てくる。


「NGはその場の判断で……流石に、住所やらは晒せないからな。聖地にされちまう」

「あは、それはそうだねえ。ノーグルマップでピン刺しされちゃうかもしれないし」

「流石に多方面に迷惑が掛かりすぎるからな」


『秋城の命日に押し掛ける場所ができてしまうな』

『前世で住んでた場所聖地にしようぜ‼』

『まだ妹ちゃん住んでるだろうし無理だろ』

『確かに』


 ちょっと目を見開く。妹、その文字が時折俺の胸を刺す。妹のことは、仕方ない、と割り切りつつもやはりどこか喉の奥に刺さった小骨のように時折その存在が俺の心を刺した。アキ健に今を明かした以上、妹に会いに行かない理由はない……ない、が。


(……わざわざ俺が居なくなった傷を掘り返すのもな……)


 もう20年も経った。普通の人間だったら、もう時間の経過がその傷を癒してくれているであろう頃合いだ。そうしてやっと塞がった傷をわざわざ俺がこじ開けに行く必要もないだろう。


「秋城さん?大丈夫―?熱中症?」

「あ、いや。悪い、コメント追ってたわ」


 と、いかんいかん。今は放送中、しかもコラボの途中だ。意識を今に戻して、口を開く。


「じゃあ、早速記念すべき1個目のわたあめ行くぞー」

「わぁい」


『俺のこい‼』

『まあ、まずは小手調べだな……』

『面白かったら次もわたあめ読んでくれ』

『100本ノック?』


「秋城さん、わたあめ100本ノック行けるかな?」

「うぃんたそ何時間やる気?」


 そんな会話をしながら、マウスを動かし配信画面上に一枚目のわたあめをデンッ、というSEと共に表示する。


【まずはお2人の配信開始の挨拶をどうぞ】


 そんなわたあめに真っ先に動いたのはうぃんたそだった。うぃんたそはそのよく動くモデルを最大限に駆使して、瞳の前でピースサインを作り決めポーズをする。


「勝利を運ぶっ、鈴の音鳴らすVTuber‼鈴堂うぃんだよ~~‼さあ、秋城さんもビシッ、と挨拶しちゃって!」

「うぃんたそのあとやり辛ッ!え、こんしろ~秋城の生放送、はっじまるよーゆっくりしていってね」


『こんしろで終わらない、だと……‼』

『流石うぃんたそ輝いてるゥ‼』

『ふ、これは勢い負けしたな、秋城』

『うぃんたその方が慣れてるねえ』


「流石にねえ~、ということで、配信開始のあたしの挨拶がなかったのはこのわたあめが来ていたからなのです」

「始まりに相応しいわたあめだったな。流石、視聴者。分かっている」


 うぃんたそと秋城のアバターがうんうん、と頷く。


「でも、秋城さん。折角こんしろ、まで考えたのならその後の挨拶もちゃんと考えればいいのに。言い方悪いかもだけれど、コピペ感ない?」

「うぐっ……誰もが触れなかった部分を触れてくるな、うぃんたそ」

「流石にね~、プロ意識?ってわけではないけれど、気になりはするな~って。それとも秋城さん的にはこだわりがある感じかな?かな?」


 うぃんたそが首を傾げながら、人差し指をくるりと回した。


「んー、こだわりというより癖?初期の初期からずっと使ってた挨拶だしなあ……」

「やっぱり挨拶募集安価するしか……‼」

「しないからな⁉今日はわたあめ配信だからね⁉」


 嫌に爛々と輝くうぃんたその瞳。そんなうぃんたそにノリツッコミを入れながら、次のわたあめの準備をする。


「ていうか、挨拶募集安価なんてしてみろ……100とんでもない挨拶が飛んでくるに決まっている」

「え、でも、それが面白いんだよ~」

「じゃあ、うぃんたそやる?」

「え、え~~~!そんなことしたらうぃんたそ@ふぉーむさんの社長室行きだよぉ……」


 ちなみに@ふぉーむのVTuber内では社長室に呼ばれることは大方お説教を意味するらしい。この社長室行きというのは@ふぉーむ内でも一番破天荒な、@ふぉーむ一期生一人目の星羅セイラ セイラが実体験に沿って作った言葉である。


「分からないぞ?安価配信バズって社長室行き(褒められる方)になるかもしれないぞ?」

「絶対ならない!絶対、社長室行き(怒られ)だよぉ‼絶対やらないんだから!秋城さんわたあめ2個目‼」


 ぷんぷん、と怒っている風な煙のようなエフェクトを出しながら、体を振るうぃんたそ。そんなうぃんたそに、はいはい、と言いながら2個目のわたあめをデンッ、というSEと共に張り出す。


【秋城‼おま、おまっ、よくも信者よりも先にうぃんたそに近づいたなあ‼ぶっ××××‼‼】


「お、綺麗に伏せられてるな」

「@ふぉーむさんこれ通したの⁉これアウトでしょ⁉」

「ほら……@ふぉーむが守るのはうぃんたそであって俺じゃないから……」

「そうだけどぉ~~~~‼これからコラボいっぱいしていきたい相手も守ってほしいよぉ……」


 ちなみに信者、とは鈴堂うぃんの視聴者のことを指す。決して怪しい集団のことではない。


『コラボをいっぱいしていきたい相手』

『ここ秋城ときめきポイント』

『秋うぃんうめえ~~~~』

『天然か、天然なのかうぃんたそ‼』


 多分計算だよなあ。そんなことをぼんやりと考えながら、次のわたあめの準備をする。ちなみにわたあめの準備と言っても、@ふぉーむさんが選別してくれたわたあめの画像を順番に張るだけなので特にこれといった難しい作業はない。そうして、恒例のSEを鳴らして3個目のわたあめを張り付ける。


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