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第8章 うぃんたその掌の上ってありですか?②

 俺がコメントを見ながら困惑の声を上げれば、コメント欄に張られる大量のURL。だが、直リンクを素直に叩くのは正直馬鹿のやることなので、ちゃんと自分で検索窓を叩く。「秋城 wiki」こんなワードで出てくるだろう、そうして待つこと数秒。


「うわ、本当にある……」


 そこに表示されたのは俺のwikiページ。しかも初配信の恥ずかしいアレソレからこの間の啖呵を切った放送まで———というか、あの放送「新たな伝説の幕開け」とか言われてるの?略して幕開け放送?へえー。


「すげえ、俺の一挙手一投足がしっかり書かれてるわ……」


『本人知らなかったんかw』

『秋城のこと調べたら一発目に出てくるんだけどな』

『ニキエゴサしないタイプ?』

『リアルタイムで更新してるやでw』


「え、リアルタイムってことは……」


 俺がブラウザの更新ボタンを押す。すると、ページが再読み込みして再表示される。


「うぉ、ぉおお……過労死・マグロ・ギャンブラー系バトマストVTuber秋城って書かれてる……やべえ、もう俺迂闊なこと言えないじゃん……」


 全部wikiのネタにされる。俺のwikiがカオスなことになってしまう。


『むしろお漏らし大歓迎やでw』

『wikiのスクロールバー短くしてこ』

『ネタに溢れてるVTuber……いいですね』

『まあ、他のVに比べて大分長い気もするが』

『そりゃw他に過労死したVがいないからw』


「ひょええ……と、まあ、脱線したわ。とりあえず決めることその1~俺の設定は決まったな」


 場を仕切りなおすように手をパンパンと叩く。そうして、俺はカフェイン飲料を手に取り一口飲み込み喉を潤す。


「っていうかこれ全部今日決めるの無理だな……何時間放送やる気だよ」


『ニキが事前に決めておかないから……』

『秋城の見切り発車のせい』

『むしろ、当分この安価放送でよくない?w』

『これはこれでネタになる』

『まあ、秋城に関わる全てがネタになるが』


「うん、それはよくない。何故って俺が検索するときに困るから」


 俺だってするときはするからねエゴサ。いや、するでしょ。ね?


「じゃあ、今日はあと一つ決めてあとは持ち帰りにするか。この中で何が何でも早めに決めてほしいものある?」


 俺が背もたれに体を預けて問いかける。こういうとき古いlive2Dなおかげで体の機微が反映されないのがいいよね。どんなことしてても、多少体が揺れて首から上が動くだけなんだもん。


『ファンアートタグ』

『ファンアタグ』

『俺はこの秋うぃんをどこに投稿すればええんや……』

『秋うぃん投稿タグ』

『ファンアタグにCPイラストはありですか⁉』


「……ファンアートタグね。そういえば、気になってたんだが」


 俺がコメント欄を眺めながらふ、とした疑問を口にさせてもらう。


「秋うぃんって……えー、お笑い芸人的な……?コンビ名……?」


 俺が戸惑いながら必死に俺の灰色の脳細胞をフル回転させて出た結果を口にする。コンビでもないのにコンビ名があるのか?そんな疑問はあるが、それ以外に辿り着く答えもなかった。


『あーね』

『CPやで秋城ニキ』

『公式の目に止まるの不味くない?』

『秋城ニキなら問題ないやろ』

『↑うぃんたそも巻き込まれてるんだよなあ』


「ん?ん?」


 CP……?また新しく出てきた単語に頭を捻る。ヲタクではあるのだが、何分Vとカードゲーム以外のものを追っていなかったせいで、ヲタク文化への疎い部分があるのだ。俺が検索用にブラウザを立ち上げようとしたところでまたもや赤スパが入る———今度はガチのマジの、うぃんたそから。


『鈴堂うぃん:あたしと秋城さんのカップリング(CP)のことだね~あたしたちが仲良くすると一部の人たちが燃え上がるんだよぉ! 10000円』

『うぃんたそきちゃ————‼』

『うぃんたそ秋城の放送見てるって言ってたもんな』

『秋うぃんマジやん』

『秋うぃんは公式認知CPということでよろしいか⁉』


 うぃんたそのコメントに大盛り上がりするコメント欄。


「な、なるほど……?え、仲良く……?まさかこの間の放送も仲良くになるのか……?」


『なるなる』

『絡んだだけでも俺らからすれば餌』

『割と仲良かったと思うぞw』

『低音うぃんたそ……ごちでした』


 初対面放送ですらカップリングとやらの餌食になるのか……そんな浅い接点でいいのか、ヲタク。となりながらも俺はふむふむと頷く。


「ちなみにさっき公式の目に~とか見た気がしたけど、それ俺が検索したら不味いやつ?」


 俺も疎いとはいえヲタクの端くれである。公式に見られたくないヲタク心は理解しているつもりだ。故に聞く、さあ、教えてくれ視聴者‼


『別にいい気もするけど』

『秋城は個人だしな、企業じゃないし』

『でもうぃんたそも結構見てるらしいよね』

『秋城が「訴えてやる!」ってならなきゃ見てもいいと思う』

『別時空の俺がうぃんたそといちゃついているぐらいの認識でどうぞ』

『現実と混同すんなよw』

『鈴堂うぃん:あたしは結構見るよ~』


「見るんかい。というか、ほお……見ても、問題はなさそう……?ない、でいいのか……?んじゃあ、ためしにゆったーで見てみるわ。ちょっと静かになるぞー」


 俺は自分の端末をベッドの上まで取りに行き、パソコンの前まで戻る。そして、ゆったーを開き、検索窓に「秋うぃん」と打ち込む。するとそこには———。


「わ、わ、わ————⁉架空の俺がうぃんたそとイチャついている⁉⁉⁉」


 文字通り。文字通り、うぃんたそと俺がイチャつくピクチャが大量に流れてくる。中にはその……R18的な絵も流れてきて。


「え、こ、こんなのが許されちゃうんですか……?え、え、童貞には刺激がつおい……‼」


『秋城ニキ童貞』

『童貞マ?』

『それは今世で童貞なんですか、前世から童貞なんですか‼』

『スケベピクチャに脱童貞越されちゃったね……』

『秋城ニキ童貞は解釈一致』

『天真爛漫なうぃんたそに筆おろししてもろて』


「お、お、お、お前ら‼俺が童貞なのは事実でいいとして、その妄想にうぃんたそを巻き込むな‼あ、あ、でも……ふう、秋うぃんごちそうさまです……」


 あまりの過激さに俺はゆったーを閉じて、端末を裏返して机の上に置く。こんなの見ていたら心臓がいくつあっても足りん。


『完璧ヲタクサイドの感想w』

『てえてえやろ?てえてえやろ?』

『これは秋うぃんタグ公式認知ということで』

『ふうの賢者タイム感ヤバイ』

『ニキ抜いてないよね?wwww』


「抜いとらんわ‼……そうだな、でも、いい文化だし、俺にうぃんたそとの絡みをごり押すのは構わないけど、うぃんたその放送でごり押すのはやめてくれなー。ただでさえ、俺の名前悪い意味でもまだ広がってるんだから」


 俺がそう注意を促すと、コメントが一様に「はーい」で埋まる。こういうところ凄く聞き分けがいいな……と思ってしまう。でも、分かる。公式に駄目って言われたことは絶対だもんな。


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