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第8章 うぃんたその掌の上ってありですか?


 うぃんまどの放送を経て、降夜さんとの焼肉の翌日。俺は今後どういった方針で放送をしていくかに悩んでいた。


「うーん……」


 なにをやるにしても準備は必要だし、なにをやるにしても視聴者の期待には応えたい。俺らしい、放送。そんなことを悩みながら、ゆったーに書き込めば、ものの数分で大量のコメントがつく。


『まずは死んでた分の環境追い』


 分かる。


『新弾開封』


 来週特殊弾出るのにぃ?


『デジタル版バトマス配信』


あー、視聴者参加型とかいいよね。


『方針決めの雑談配信』


 俺はその文字を見た途端、ガバッと起き上がった。


「それだ‼‼‼」


 思い立ったが吉日。俺はベッドから勢いよく起き上がり、パソコンを立ち上げて、放送の準備をする。無論、ゆったーでの告知も忘れない。

『今後の方針決め雑談枠。方針以外にも決めてほしいことあったら言ってくれ~30分後 https://~~』



 ということで、始まった雑談枠。


「秋城の生放送、はっじまるよーゆっくりしていってね」

 いつも通りの挨拶をすれば流れ始めるコメント。


『っ お茶』

『わこつー』

『わこつ』

『わこつー』

『わこつー』


「んじゃあ、ゆるゆると始めていきますか。んで、お前らなんか方針以外にも決めてほしいこととかある?」


 俺が配信画面にメモスペースを作りながら問いかければ、コメントでは様々な意見が流れ始める。


『ファンネーム』

『ファンアートタグ』

『配信中タグ』

『開幕挨拶』 

『終わった後の挨拶も欲しい』 


「お、おう……そうか、確かに俺が始めた当初はそんなの決めてなかったしな」


 言いながら俺は視聴者の意見を大量にメモ欄に打ち込んでいく。これ、今回の放送で終わる?


『決めることじゃないけど、秋城の設定とかあったら改めて聞きたい』


「え、せ、設定?」


 俺は素直に困惑した。秋城自体はガワと名前はVTuberとして必要だから作ったが、正直他のVほど細かい設定を詰めていなかった。なんたってやってたの俺の趣味放送みたいなもんだったし。


『確かにあったら聞きたいかも』

『秋城ニキの設定聞きたい』

『楪羽:秋城の三面図もキボンヌ 10000円』


「う……さ、三面図……ええ……」


 うぃんたそ、と言いかけて咄嗟にその言葉を飲み込む。いけないいけない。


「いや、えー……三面図は流石にないな。モデル作るときもよくありげなスーツ程度にしかオーダーしてないし、顔もそれっぽいイケメンみたいなオーダーしかしてないしな……」


『うわ、一番害悪みたいなオーダー』

『絵師とモデラー泣かせ』

『それでいて、雰囲気が違うとか言い出すんだぜ』 


「言わんわ‼」


 コメントにツッコミを入れながら、俺はカシュッ、とカフェイン飲料の缶を開ける。今回はマイクに音が入らないようにマイクから離して開けたが———。


『ニキ、今日何缶目?』

『秋城死なないで』

『伝説作るんだろう⁉』


 耳ざとい視聴者には聞こえていたようで、飲むのを必死に止められる。


「まだ、1缶目だよ。流石にセーブするから安心してくれ~、ンで、秋城の設定だっけ?」


 俺は唇を湿らせて、缶を机に置いてから両腕を組んで考える。


「いやさ、聞いてほしいんだけど」


『なんぞ?』

『何?』 

『急に改まってどうした』

『早速伝説作りに来た?』

『暴露?』


「いやしないが。秋城の設定とか言われても、ないんだよなあ。俺がやりたい放送をやるってことしか決めてなくてな……」


 俺は悩まし気に息を吐きだして、頬を膨らませる。いや、マジで悩ましい。あった方がいいのかな?


『秋城の設定を自由に作れる会場はここですか?』

『安価しようぜ‼秋城‼』 

『安価で秋城の設定を決める会』

『今日の安価会場』


「安価⁉」


 俺は声を上げる。そんなんで決めたのでいいの⁉内心動揺しながらも、盛り上がるコメント欄の勢いに気圧される。ちなみに此処で言う安価とは、安価スレの内容に近いモノだ。スレ主……此処で言う生放送主、つまり俺が指定した番号のコメントの通り行動する。此処で言うなら、俺が指定した番号のコメントが秋城の設定になる、ということだ。


「いや、お前らがそれでいいならいいが……つっても、設定を安価ねえ。……じゃあ、〇〇・〇〇・〇〇系バトマストVTuberとかにする?」


『お、いいねえ』

『設定は分かりやすくだな』

『カオスなの来ても名乗り続けろよw』

『ふざけた設定つけてやるぜ‼』


「おうおうー、じゃあ、俺のコメントから20コメ目なあ」


 そうして、俺がコメント欄にコメントを投下する。そして、待つこと5秒。


「お、埋まるの早いな。生前の放送じゃ想像つかないぐらいだ……えーと……過労死……過労死⁉いきなり?不穏過ぎませんか⁉」


 ついつい敬語が出てしまう。いや、いきなり過労死なんて設定が付くなんて思っても居なかった。


『妥当』

『伝説の放送のインパクトでかいからな』

『とりあえず、なにをしたか分かりやすいよな』

『分かりやすさ大事』

『過労死といえば秋城ニキ』


「いやいやいや、今世はピンピンに生きてるからね⁉いきなり不穏だーけーど……うーん、とりあえず過労死ね、過労死」


 眉間を押さえながら、画面に過労死と打ち込む。いや、いきなり不穏過ぎるだろう。え、まさかずっとこんなんが続くん?みんなの中の秋城のイメージ暗くない?


「じゃあ、次行くぞ次。次は俺のコメントから100コメ」


 そして、さっきの安価で俺は学んだ。割と幅をとらないとすぐ安価の数字に辿り着くことに。そうして、大幅に幅をとって待つこと20秒弱。


「お、決まったみたいだな……どれどれ……マグロ⁉」


 マグロ?何故⁉画面の前で混乱する俺をよそに進んでいくコメント欄。


『マグロニキ』

『まあ、止まると死ぬしな、マグロ』

『動き続けろ秋城ニキ‼』

『マグロニキはニキがマグロ(意味深)みたいですねえ……』 

『秋城ニキマグロ(意味深)なん⁉』

『まあ、この間うぃんたそが受けって言ってたしなあ……マグロ(意味深)なんやろ』


 段々普通の魚のマグロの意味からマグロ(意味深)に寄っていくコメント欄。俺がまたもや眉間を押さえて苦虫を嚙み潰していると赤いコメント———赤スパが流れていく。


『楪羽:マグロニキで決定ね 10000円』


「最早原型なくない⁉マグロニキは原型ないじゃん‼」


 だけど、そんなうぃんたその赤スパコメントを拾ったが最後画面を埋め尽くすマグロニキ。


「あー、もー、ほらあ。あーもー!とりあえず、書いていくぞ!マグロ(意味深)じゃないからな‼マグロ、な‼」


 俺は困ったように頭をぶんぶん振りながら、過労死の次にマグロと書く。え、これ本当に俺名乗り続けるの?1週間限定とかじゃなくて?


「じゃあ、ラスト!俺の設定のラスト!俺のコメントから150コメ!どうぞ!」


 エンターを弾き、コメントを投下する。すぐさま流れていくコメント。そうして、俺の指定した150コメント目———。


「ギャンブラー……おいこれ、コメントしたのアキ健だろ?」


『アキ健言ってたしな』

『プレイイングギャンブラー』

『バカ勝ちかタコ負けか』

『※なおタコ負け比率の方が多い模様』


「いや、何を知っていってるんですかねえ。お、俺がね、負けが多いなんてそんなね……」


 若干声が震える。なんか本当に負けの方が多かった気がするけれど、大事なところは勝ってますしおすし。


『負けの方が多そう』

『声震えてっぞw』

『負け城』

『負けニキ』


「またもや名前の原型が消えてるじゃん!消えちゃってるじゃん!えー……過労死・マグロ・ギャンブラー系バトマストVTuber秋城になるの⁉」


 もはや意味が分からん。最高に意味が分からん、これを公式設定にしなきゃいけないの?本当に?


『まあ、3分の2は自己紹介になっているから』

『マグロ(意味深)も自己紹介だろw』

『ちゃんと名乗り続けろよ』

『とりあえず、秋城のwikiに書いとくか』


「え?」


『どしたん?』

『何秋城ニキ困惑しとるん?w』


「ちょっと待て……俺のwikiなんてあるの?」


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