だが、コメントは———。
『伝w説wをw作wるwVTuberw』
『転生とかアニメのみすぎじゃないですかね?』
『しかも、古いアニメなw流行乗り遅れすぎw』
『流石に現実味ないわ~』
『こんなのとつるんでたなんて、うぃんたそにも幻滅』
『ちょっと無理がありますねえ……』
『嘘つき』
そこにあったのは無数の悪意。喉が塞がれた様な感覚に陥る。口をはくはくと動かして、必死に酸素を取り入れようとするが、全く酸素を取り入れられない。苦しい、これだけ手を尽くしても駄目か、駄目なのか。過去を語って、事実を並べても、その事実の一欠片も信じてもらえないのか。胸の内に虚無が広がる。コメントは段々俺に不利な風向きになっていく。人間は性善説でなんてできていない、そのことを骨の髄までわからせられる。それが悔しくて、悔しくて、苦しくて、なんで、———言葉が言葉として零れなくなってくる。涙が出そうになる、これで終わりなのか、俺の二度目の人生、こんな絶望と悪意に飲まれて終わりなのか?そんな問いかけが脳内に響く。だけど、これ以上どうしろと、カフェイン飲料の缶を握りつぶす。なんとか、喋ろうと顔をあげた瞬間だった。
「———だって、アキ健さん。アキ健さん視点、この人は秋城さんだと思う?」
「へ?」
思わず間抜けな声が出る。なんて言った?秋城さんとは呼ばれなかった、俺の名前は呼ばれなかった。だけれど、うぃんたそが誰かに問いかける。そして、コメントはそれ一色になる。
『アキ健⁉』
『マジ⁉本物????』
『どうせ仕込みでしょw』
『え、でも、アキ健Vじゃなくね?』
『↑んなことどうでもいいwマジもんのアキ健がいることが大事』
『喋って喋って‼』
大量のコメントのアキ健の文字。それは俺の古い、前世の友達の名前で。俺は呆然と涙を垂れ流しながら、画面を見つめる。
「え、えーと……声入ってますかね?」
「入ってるよお!無問題!ということで……シークレットゲストのリアルアキ健さんでーすっ‼」
画面には映らないが、その声は俺のよく聞いた声だった。よく、よく聞いた……本物のアキ健の声。ただ、記憶よりちょっと渋くなったかもしれない、だけど、それは、確実に古い友人の声で。
『来ちゃ———————‼』
『マジで⁉声マジじゃん⁉』
『姿見せないの?』
『マジ健じゃん!』
『伝説の配信の影の立役者!』
『やば、え、やば……』
「さてさて、アキ健さん。アキ健さんは今日偽物の秋城さんに一言物申しに来たわけですが……」
え、そんな理由で来てたの?うぃんたそもしかして背後から刺しに来てる?
「……アキ健さん視点、秋城さんは偽物でしたか?」
どこかしんみりとした声でうぃんたそが静かに問いかける。俺はそのやり取りをただ茫然と聞くしかできない、頭の中の情報処理も何が起こっているかの理解も全然追いついていなかった。……そんな中、ずびっずずっと鼻を啜る音が聞こえてくる。
「いや……本物っすよ。俺との出会いも、VTuber始めた理由も、あの罰ゲーム、俺が言い出したんスもん。……それにいざとなったら、強気に立ち回ってはったりを言う。無茶苦茶アイツのプレイイングらしくて……らしくて……なんで連絡しなかったんだアホ」
多分、いいおじさんの年齢になった男のガチ泣き、それは俺の心を大分現実に引き戻した。俺は震える声で喉で必死に音を絞り出す。
「だ、て……俺が連絡したって、信じねーだろ……⁉俺、死んでるんだぜ?お前の目の前で、ゲロ吐いて……」
「そりゃ、信じねーけど……でも、だったら、今みたいに語れよ、語って、行動して、俺がアキ健の親友の秋城だッ‼って啖呵切れよな……」
「うゔゔぅぅう……」
放送だっていうことを忘れてガチの嗚咽を漏らす。こんなことが待っているなんて、知らなかった。パソコンの前に崩れ落ち、泣く。
「友情って、いいものですね。……アキ健さん、くどいようですが。……アキ健さんは彼を本物の約20年前の秋城さんだ、そう認めるんですね」
うぃんたそが静かにもう一回問いかける。その声はまるでその場を取りまとめる裁判官の様で。
「認めるッ‼こいつは……秋城だよ。誰が何と言おうと、俺はそう言う。……親友が帰ってきたんだ」
その声に涙を両目からぼとぼと落としながら、画面を見つめればコメントがとてつもない勢いで流れる。
『異議なしッ』
『秋城の復活だ‼』
『アキ健が言うなら本物に違いないッ』
『アキ健もサクラだろw』
『サクラとかどうでもいいんだよな、こんな熱い物語見せられt(ry』
『なんちゅーもんを見せてくれたんや、秋城さんは……』
『熱い……熱いッ‼』
『はいはい、仕込乙』
『オモンネー』
コメントは一気に俺を信じる方向へと流れる。……いや、まだ、信じない奴も正直いる。だけど、格段にコメントは俺を信じる方向へ流れた。すると、チャット欄がピコン、と受信を告げる。そこには何の言葉もなしに、ピースサインの絵文字。もちろん、相手はうぃんたそだ。
「さあ、秋城さん。めそめそと泣いてないで、なんか言ったらどうかな?」
「あ、ああ……」
「声ボロボロ~、もー、お水でも飲んで?」
そう促され、俺は机の下のミニサイズの冷蔵庫を足で開け、カフェイン飲料を取り出すのであった。そして、それをカシュッ、という音を上げて開ける。
「って、ストーップ!」
その音を聞いてなのか、うぃんたそもコメント欄もカフェイン飲料を飲むのを止めようとする。
「秋城さん、ほら、それをゆーっくり置いて……で、お水を台所から取ってくるんだよ?駄目だよ、死んじゃうよぉ……」
「おい、秋城。俺の前で二度も死ぬのは辞めてくれ……」
うぃんたそとアキ健の声、手に持っているカフェイン飲料を置いて苦笑いを浮かべる。
「……だな、アキ健に二度も看取らせる気ねーよ。飲み物は……あとで取ってくるわ。今は放送中だしな」
今度からミニサイズの冷蔵庫には水のペットボトルでも入れとくか、そんなことを頭のどこかで考えながらゆっくり喋る。
「はは……俺、前世からだけどほんと、大事なところ全部アキ健に助けられてる気がするわ……いや、ていうか、うぃんたそ。これ俺聞いてないんだけど?」
「言ってないからねぇ。うぃんたそ流サプライズ?」
「デカすぎんだろ、サプライズにしては……んで、うぃんたそ。時間時間、今日のうぃんまどまとめは?」
カスカスの声でうぃんたそに進行を促す。すると、うぃんたそは右目の前でピースを作りウィンクを一つ。
「今日のうぃんまどまとめ!現代に復活した秋城は本物‼異論は……まあ、うん。でも、あたしも言うよ。秋城さんは本物だって‼長年のファンの勘と、アキ健さんが言ってた!ってね」
そして、とびきりの笑顔をうぃんたそは画面越しに届ける。
「では、今週のうぃんまどもご視聴ありがとうございました!チャンネル登録、高評価、アーカイブコメント、どしどしお待ちしておりまぁす!秋城さん、アキ健さん!最後のアレ行くよ~‼」
うぃんたそに振られて、俺はなんとなく背筋を正すのであった。そして、うぃんたその「せーの」の声が入り———。
「「「おつうぃん~~~~」」」
『おつうぃん~~~~』
『おつうぃん』
『お疲れ様~~~』
『っお茶』
『いい回だった』
『神回』
『なんか俺まで泣けてきたよ……』
『これで終わりとかねーわ』
『うぃんたそのファン辞めます』