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第4章 推しからのコラボのお誘いってアリですか?

『初めまして』


 そんな書き出しからうぃんたそのDMは始まった。


『平素より……というのもおかしな話ですが、配信アーカイブの方見させてもらっていました。@ふぉーむ所属のVTuber鈴堂 うぃんと申します。』


「お、おぉ……」


 普段の配信からは考えられないぐらいしっかりとした文面だ。これ本当はうぃんたそ本人ではなく、マネージャーさんからの文章なのでは?そんなことを考えつつ、文章を読み進める。


『まずは配信に復帰されたこと、お祝い申し上げます。真摯にバトマスに向き合う姿は私も当時、とても胸を打たれました。』


「ふ、ふーん……?」


 素直な誉め言葉についつい胸がそわついてしまう。いい意味で居心地が悪い。


『本題に入らさせていただきます。私が週一で配信している、「うぃんの今週のうぃんどう」、略して「うぃんまど」はご存じでしょうか?』


 知っている知っている。うぃんたそがその週にあったうぃんたそ周りの事件や、@ふぉーむ内で起こったちょっとした出来事などを金曜の夜19時からちょっとお酒を飲みながら語る……そんな内容の放送だ。


『うぃんまどの詳細に関しましては、こちらで文面で説明するより、実際の放送を見ていただいた方が分かりやすいと思いましたので、URLの方添付させていただきます。ご確認いただければ幸いです。

URL:https://Utube.com/watchXXXXXXXX』


「て、丁寧だ……」


 でも、なんで俺にうぃんまどの詳細なんか?うぃんまどはうぃんたその周囲で起きた事件や、@ふぉーむ内のちょっとした出来事を取り上げる番組だ。超外部の俺に関われる要素なんて何一つない。首を傾げながら、とりあえずうぃんまどの詳細に関しては知っているのでURLを飛ばして、下の文面を読み始める。


『是非、秋城様にはこちらのうぃんまどにご出演いただけないか、と考えております。』


「ぶふっ」


 待て、待て待て待て。なんで?why?うぃんまどに出演?絶賛炎上中のVTuberが?なんの得があるの?……いや、視聴数は稼げるか。数字にはなりそうだが……。ずきずきと痛み始める頭を押さえて、俺は更にメッセージをスクロールする。


『もちろん、無理にとは言いません。ですが、秋城様は現在扇動的なコメントの数々に頭を悩まされており、まともに放送を行うことができなくなっていると思われます。そこで、私のチャンネルでコメントのワードブロック機能などを使い、所謂荒らし行為を無力化、その上で秋城様と今回の復活についてのお話ができれば、と思っております。』


 ワードブロック機能、それはチャンネル登録者数がある程度の水準に達したチャンネルが生放送を健全に運営するための機能だ。……ちなみに現在秋城のチャンネルは70万人、いまだにワードブロック機能は実装されておりません。


『お返事の方お待ちしております。

 鈴堂うぃん』


 ありきたりな締め括り、ひと段落した文章に緊張感も解け俺は肩の力を抜いた。


「おん……?」


 だが可笑しい、文章が締めくくられたのにその下にまだスクロールバーが下がれるようになっている。首を傾げながら、そのスクロールバーを下降させる。


「は、え、……マジで言ってる?」


 そこには、———楪羽のマイページの画像とP.S.から始まる文章。


『P.S. 復活配信後、初回からリアルタイムで拝見させていただいています。凄く応援しています。これからも頑張ってください。』


 そんなちょっと雰囲気が砕けた文章。


「うわあああああああああ‼」


 そんなもの推しから貰ったら大絶叫不可避だ。俺は端末を放り投げ、ベッドの上をごろんごろん、と顔を押さえてローリングする。俺の心の中でさっきの文章が何度も何度も再生される。


『P.S. 復活配信後、初回からリアルタイムで拝見させていただいています。凄く応援しています。これからも頑張ってください。』


「うわあああああああああッ」

 もうどこにテンションを着地させていいか分からずに、俺はベッドからついぞ転がり落ち、床の上を転がることになる。そうしていると———。


「うるっさい‼隼人‼いい加減にしなさいッ‼」


 当然のように母親が俺の部屋の扉をガンガンと叩き文句と苦情を寄越すのであった。




「テイクツー……」


 母親によって強制的に着地させられた俺の感情はそれでも揺れに揺れていた。


「推しからのコラボのお誘いで……?推しが俺のことを応援していて……?」


 そして、添付された楪羽のマイページの画像。あれは恐らく、この名前で見ているよ、ということであろう。へえ、うぃんたその名前はウィングから取ったっていうのは聞いたことがあったが、此処にも羽の文字を入れてくるなんてうぃんたそは羽が好きなん———……。


「は?楪羽?」


 俺はのそのそと冬眠明けのクマの様に立ち上がり、さっきシャットダウンしたばかりのパソコンを再度立ち上げる。そうして、ブラウザからUtubeを立ち上げて俺の配信アーカイブを立ち上げる。そうして、ピックする赤スパの数々———。


「これ、うぃんたそってこと?」


 俺に説明を求めたり、他の視聴者を宥めたり、時には行き過ぎたコメントに注意して……その度に俺に1万円を投げてくるこの正体も立ち位置も不明のコメントの正体がうぃんたそ……?いや、マジでなにしてるん?そんな気持ちでいっぱいになりながら、今度はベッドの上に放置した端末を手に取る。そして、再度最後の文章を見るのであった。


『P.S. 復活配信後、初回からリアルタイムで拝見させていただいています。凄く応援しています。これからも頑張ってください。』


「……応援してくれてるってえ……」


 つい、げへげへとそんな擬音が付きそうな笑みを浮かべてしまう。と、そこではない。俺の復活についての特集を組みたい、と言っていた。そこは失礼だが数々のUtube動画作成者と大差はない。だから、こんなことは断る一択なのだが。


「でもなあ……」


 推しからのメッセージ、その重みたるや。推しからのメッセージで、推しからのコラボのお誘いで、推しからの———真剣なメッセージだった。真剣に、自分の身分を明かして、応援メッセージを書いて、……これを送ったときうぃんたそはどんな心境だったのだろう。きっと、送信ボタンを押す指は震えていて、心拍も上がっていただろう。その様子を想像するだけで、十数分前の「マネージャーが書いてんじゃね?」なんて疑った自分を張っ倒したくなる。楪羽のスパチャだってそうだ、好意的に解釈するのであれば、死んだはずの秋城が生きている、その理由を誰のカバーストリ―も通さない俺の口から聞こうとしたのだ。だから、質問して、宥めて、注意して。俺のために舞台を整えようとしてくれていた。でも、楪羽の力じゃダメだった、駄目だったから、俺のために舞台を用意してくれた、と。


「うぃんたそむっちゃ俺のこと好きじゃん……」


 知っている、別に高山 隼人のことを好きなわけじゃない。秋城というVTuberのことをうぃんたそは好きなんだ。


「でも、それでよくね?」


 推しに好かれていて、推しが応援してくれていて、———それ以上はないだろう。だったら、俺はこの依頼を受けるべきだ。受けるべきではあるのだが。


「どう話したものか……」


 あの日俺は死んでいて、転生して、今がある。それだけのストーリーだ。だけれど、到底普通の人間には信じられないストーリー。頭を悩ませるのはそこだ。実際、配信中もそれを言うのが憚られて説明ができなかった。そんなとき、メッセージの受信を告げるポコンという音が端末から鳴り響く。


「あー……?今俺はいそがッ」


 舌を噛みそうになった。追加のメッセージはうぃんたそ当人からで。え、こんなリアルタイムにメッセージ来るの?ヤバくない?そんなことを思いながら、端末のメッセージを読む。


『五月雨式に申し訳ありません。様々な、放送上では整理しないとお話しできない理由などありますと思います。なので、もし、このお話を受けるか少しでも悩んでいただけるようでしたら、1回オフでの打ち合わせをしませんか?こちらのお話をお受けしていただける場合は、都内の個室のカフェにてお話ができたら、と思います。その際の料金、交通費に関しましては私の方で持たさせていただきます。なにか、配信時の心配事などその時に気軽にお話していただければ、と思います。お返事お待ちしております。』


 そんな文章。今の俺の悩みを見透かしたかのような文章。


「はは、……うぃんたそってエスパー?」


 乾いた笑いを零しながら、端末を閉じて、パソコンの方でゆったーを開く。うぃんたそもこう言っている。それなら、今の俺のリアルを一回うぃんたそに言ってみるのもありだろう。それで揶揄っているとあしらわれたらそれまでだ。でも、もし、なにかこの状況の打開策が生まれるのであれば、それはきっと意味のある事。


「……うぃんたそのリアルか……」


 気にならないと言えば嘘だ。超気になる。そんな真剣さ9割の好奇心1割、俺はそわそわとしながら返事の文章を作り始めるのだ。とりあえず書き出しは———。


『初めまして、DMありがとうございます。』

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