「そこ、窓の装飾足りる!?」
「全然足りないよぉっ! もっと飾り作ってー!」
「そもそもダンボールとテープ足りねえって! 買い出し班はまだ帰ってこないのかよ!?」
文化祭まで、あと三日を切った。
「どこも騒がしくなってきたなあ」
「ね。てんやわんやって感じ」
そんな平日の放課後。他クラスの前を、パンパンになったレジ袋を二人で持ちながら歩く。
各クラス出し物が決定し、それに向けて準備を進める中。やはり本番まであと三日となるとどのクラスも忙しなくて。お化け屋敷や縁日、俺たちも同様の喫茶店のような教室の飾り付けがかなり必要になるところは特に。クラスの生徒が総動員されても尚、まだ人手が足りないくらいだ。
「あっ、二人とも帰ってきた! ちゃんと買えた!?」
「全部そこの百均で買い揃えられたよ。念のために全部ちょっと多めに買っといたけど、どう?」
「助かる助かる! お金は文化祭終わったらちゃんと経費として返ってくるから絶対領収証無くさないでね! ほんとありがと〜!!」
そして当然、そんな状態だと仕事は腐るほどあって。ちょうど今、俺たちは任された買い出しから帰ってきたところである。
買ってきたのはテープ類にペン、布に紐等々……まあとにかくたくさんだ。とりあえずメモにしてもらってそれの通りに買い足してきたが、正直種類も数も多すぎて自分でも何を買ったのかあまり覚えていない。
(にしても……うちのクラスも中々に切迫してるな)
一年三組の現時点での準備進行度をパーセントで表すなら、そうだな。七割といったところだろうか。
まず衣装班は言わずもがな。月美さんを筆頭にした全員が、血眼になりながら家庭科室に篭りきりでの作業を続けている。どうやら聞いたところでは八着全て大元は完成していて、あとは微調整だけといった段階まで来てはいるらしいが。いかんせん、そこにもまた時間がかかるんだそうな。
次いで装飾班。俺と三葉はここに属しているのだが、まあとにかく作らなければいけない飾りやら看板やらが多いことこの上なくて。誠意製作中ではあるものの……まだまだ終わりは見えてこない。
そして最後、飲食班。ここは雨宮や長野さんが全面協力し、実際に当日の喫茶で出すメニューの様々な計算や調整を繰り返している。原価のことや味のことなど、考えることが一番多いのはここだと言えるだろう。しかし流石はクラスの学級委員二人が集結しているだけある。どうやらここが一番進みはいいらしく、おそらく明日にはメニュー表が完成するとのことだ。
「むう、こんなに大変だとは思ってなかった。買い出しデートもできなかったし……」
「そ、それは仕方ないだろ。呑気にデートなんて言ってられる状況じゃないんだから」
「(T_T)」
「そんな分かりやすく拗ねられてもなぁ」
まあでも、三葉の言いたいことも分かる。俺もまさかここまで準備が大がかりで大変なものだなんて、思いもしなかったからな。
高校の文化祭は小学校中学校のものとは全く規模感が違う。だからその準備も当然大変になるって、頭では分かっていたけれど。しかしいざ実際に経験してみるとその想定を遥かに超えてきた。
ここ数日、特に俺たちのような帰宅部はもう働き詰めだ。六限が終わる三時半から学校に生徒がいられる上限の時間である夜の八時まで、拘束され続ける日々を送っている。
つまり当然、俺たちが二人きりでイチャイチャできる時間はめちゃくちゃ減っているわけで。彼女さんは大変ご立腹なのだ。
俺たちだけじゃなく、中山さんたち部活組も。部活が終わる六時半になったらすぐに着替えて教室に戻ってきては作業を手伝ってくれているんだけどな。全員でそうやって力を合わせても終わらないほどやることがあるのだから恐ろしい。当日が来る前に三葉の欲求不満が爆発しないといいんだけどな。
「とりあえずやることは無限にあるんだし、俺らも手伝いに戻るぞ」
「ん……ならせめて座ってできるやつにしよ。ひっつきながら作業して少しでも充電したい」
「はいはい。分かったよ」
全く。相変わらずの甘えんぼだな。
ぴとっ、と肩をくっつけて甘えたいアピールをしてくる三葉のその可愛すぎる行動に、思わず頬が緩みそうになりながら。そんな幸せそうな俺たちを妬ましく思っていそうなモブ男子クラスメイトAに作業用のセット一式を貰い、近くの椅子に腰を下ろす。
「ねえ、しゅー君」
「なんだ?」
そして、横並びにしたもう一つの椅子にまた、三葉も同時に座ると。机の下で俺の左手を握りながら、言う。
「えへへ。なんでもない」
「えぇ。なんかありそうだったくせに」
「文化祭、絶対一緒に回ろって。そう言おうと思ったけど……言うまでもないことだった」
「なんだ、そんなことかよ。そりゃたしかに、言うまでもないな」
「ん♡」
準備だけでこんなになっているんだ。きっと本番も店はてんやわんやになるだろうし、自由時間ばかりの文化祭とはいかないかもしれない。
けれど、当日のシフトを決めるのはたしか雨宮だと聞いているからな。最大限三葉と二人きりで文化祭を回れる時間を取れるよう、融通は利かせてくれるはず。というか利かせてくれないと困る。
せっかく、こんなにも可愛い彼女さんがいるのだ。一緒にお店でバイト気分を味わうのもいいが、やはりそういう時間は必要不可欠。シフト漬けにされてしまってはたまらない。
やはり文化祭というのは出店を回ってこそ。一年に一度しかないこのお祭りを、存分に楽しみ尽くさなくては。
「まあでも、そのためにはまず目の前に無数に転がってる仕事を片付けないとな」
「ふんすっ。しゅー君との文化祭デートのためならいくらでも頑張れる!」
「はは、頼もしいな」
俺も、彼女さんと全くの同意見だ。
全ては文化祭デートのため。あと三日、頑張るとしますかね。