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第131話 爆弾投下

 玲那ちゃんに先導され、面倒くさそうにしている桜木先生と宥める長野さん、今にも逃げ出しそうな三葉ちゃんと共に。階段を降り、一階へと向かう。


 ああ、ちなみに。玲那ちゃんとは下の名前で、分かりやすく言うとつい先ほどの回で初登場した「月美さん」のことである。私ーーーーこと中山澪の視点では、彼女のことは玲那ちゃんと呼称するのであしからず。


「っと、ちょっと待っててね。更衣室の鍵貰ってくるから!」


「い、今がチャンス……」


「だ〜めだよ三葉ちゃん。逃がさないからっ」


「んぬぅ」


 一階に降りると、そうして。玲那ちゃんは職員室へと一人で入っていった。彼女曰くこれから行く更衣室とは「家庭科準備室」のことらしく、家庭科部の部員か顧問の先生しか入れないところなんだそうな。


「ささ、入って入って! ここなら内側から鍵もかけられるし、即席の更衣室としては最適でしょ!」


「だね〜。流石玲那ちゃん!」


「ふふんっ、家庭科部の数少ない特権なのだ」


 流石、と言ったのは、″気がきく″という意味だったんだけれど。まあ喜んでるみたいだし、家庭科部への褒め言葉として受け取ってもらってもいいか。


 女子の中には、たとえ女子同士であったとしても着替えや下着姿を見られるのに拒否感のある子は結構いる。私は陸上部の更衣室で散々見られてるからもう耐性ついちゃってるけど、特に長野さんとか三葉ちゃんはそのタイプだろうから。この配慮はとてもありがたい。


 まあそれでも、私たちーーーー最低でも採寸を実際に行う玲那ちゃんには下着姿を見られることになってしまうけれど。女子なら誰でも入れる更衣室で他の学年やクラスの全く知らない子に見られながらというよりはよっぽど気が楽なはずだ。実際念のために長野さんには聞いてみたけれど、私たち相手なら大丈夫だと言ってくれた。


「それじゃあ早速。全員制服脱いでくれる? 下着の上から採寸していくから!」


 え? 三葉ちゃんには聞かなかったのかって?


 いやあ……ね。聞くべきだとは思うんだけど。もし嫌って言われたら採寸を断る口実ができちゃうし。玲那ちゃんだけにしかっていうのもズルーーーーじゃなかった。ま、まあ長野さんで大丈夫なら大丈夫かなって。はは。


「まずは誰からにする? 別にどの順番でも大丈夫だけど?」


「あー、じゃあ私からにしてくれ。早く解放されてぇ」


「か、解放って。まあいいですけども」


「ほいきた」


「「「「!?!?」」」」


 なんて、そんなことを考えながら。ふと背後を振り返った、その刹那。


 聞こえたのは、ばさぁっ! と服が脱ぎ捨てられる音と……もう一つ。聞こえるはずのない、しかし確かに全員の耳に届いた、そんな音。


「ん? あんだ?」


「い、いえ。その……立派なものをお持ちで」


「ははは。まだまだガキんちょには負けんよ」


 どたぷんっ、と。桜木先生の胸元だけ、まるで世界が歪んだかのような。駄目だ、脳が理解を拒否している。


 何あのサイズ。え? いや、たしかに元々大人びた身体をしているとは思っていたけれど、まさか脱いだらあんなになんて。ズルい。ズルすぎる。あんなの、反則だ。


「バスト……G、です。こ、これが大人の……」


 G!? ABCDEF……G!?!?


 へっ? あ、あぇ? お、大人になったらみんなああなるの? 私も……ああなれるの?


 いや、なれない。絶対なれない。いくらなんでもここからあの大きさなんて。なれ……うぅっ。


「先生、ウエストもこんなに細いんだ。前から思ってましたけど、やっぱり顔と身体のポテンシャルはエグいですよね」


「むははははっ。褒めても何も出ないぞ?」


「中身は終わってるのに」


「は、はぁっ!? おま、今なんて言った!?」


 ま、まあでもあれだよね。相手は大人だもん。私はまだまだぴちぴちの高校一年生だし? 既に第二次性徴期が終わった後の人と比べたら負けて当然なわけだし? き、気にしてても仕方ないよね、うん。


 切り替え切り替え。そもそも私は先生の下着姿なんかに興味ないもん。


 そうだ。私は三葉ちゃんの下着姿を堪能するためにここに来たんだ。だから別にあんな巨乳を見せつけられたところでーーーー


「よいしょ……」


「っっっっうっ!!」


 どたぷんっ。


 あ、あれ。おかしいな。あとここに残っているのは私と同年代の子だけなはずなんだけどなぁ。


 今、また別方向から先生が服を脱いだ時と同じ音が聞こえたような。


 き、気のせいかな? そうだよね。まだ第二次性徴を残している私と同い年の子から、そんな音が鳴っていいはずないもん。


 気のせい気のせい。気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい!!


「うお、長野さんも凄いね。……F、かぁ。羨ましい」


「う、羨ましいだなんてそんな。こんなの、肩凝っちゃうだけですよ?」


「_(꒪ཀ꒪」∠)_」


「あ、死んだ」


 違う。こんなはずじゃなかったのに。私はもっとこう……きゃっきゃうふふな展開を待ち望んでいたのに。


 下着可愛いね〜とか、恥ずかしいよ〜、とか。そんな乙女のやりとりはどこへやら。待っていたのは持つ者から持たざる者への爆弾投下だなんて。



 こんなの……あんまりだ。

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