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第130話 彼女さん、連行

 それから、一週間後。


「はいお前ら、静粛に。ついさっき各クラスの文化祭での出し物内容が決定した。んで、私ら一年三組は……」


「「「「「ごくりっ」」」」」


「第一希望で提出していた、メイド喫茶だ」


「「「「「Yeahhhhhhhhhh!!!!!」」」」」


 俺たちの文化祭での出し物が、正式に。メイド喫茶で決定したのだった。


 当然、他の出し物をさせられる可能性もあった。他のクラスと希望が被った場合、どちらのクラスがそれをするかは抽選で決められるためだ。


 しかし幸いにも、一年生から三年生のどのクラスでも、総意がメイド喫茶に決定することはなかったらしい。もし抽選に漏れた時のために俺たち一年三組では第二希望を「執事喫茶」、第三希望を「執事&メイド喫茶」として、意地でも喫茶店ができるように画策したりしていたのだが。その必要はなかったようだな。


「むぅ。執事&メイド喫茶になればしゅー君の執事姿を見られたのに」


(た、助かった……)


 最初は、クラスの第一希望は「執事&メイド喫茶」だった。


 なにせうちには雨宮がいる。メイドさんで男子人気を掴み、執事さんで女子人気もーーーーと。そう考える者が多かったのだ。


 しかしそれは、実現には至らなかった。何故かって? 情けないからこれはあまり言いたくなかったのだが。


 ……いなかったのだ。雨宮の他に、執事さんになって女子人気を掻っ攫えそうな奴が。


 まあクラスメイトに彼女がいると知った途端嫉妬して殺意を向けてくるような奴ばかりだからな、うちのクラスは。女子人気以前になんか問題を起こしそうって懸念もあるし。それならもううちはメイドさん一本で勝負しようと。そういうわけである。


 まあありがたいことに、「市川君ならワンチャン」と言ってくれる人もいたのだが。流石に雨宮と二人でってのはな。ムカつくけどやはりコイツはイケメンだから……どうしても、俺が悪い意味で浮き彫りになってしまう。


 そうなったら他の誰でもない俺自身が耐えられそうにない。というわけで丁重にお断りさせていただいた次第だ。


 あああと、他にもう一つ。明確な理由がある。


「よぉし、それじゃあ早速採寸しなきゃね! 澪ちゃんに佐渡さん……あとは長野さんに先生! ひとまず四人の分から作っていくよ!!」


「は〜いっ!」


「うへえ、マジで私もやんのか? 衣装の無駄遣いだと思うけどな……」


 そう。なんと今回のメイド喫茶で使うメイド服は、レンタルでも市販品でもなく。我がクラスの誇る家庭科部員ーーーー月美さんを筆頭とした女子たちによって。手作りでの製作が決定したのである。


 彼女曰く、何やらこういうのを作るのに憧れがあったのだとか。それに材料費だけでの手作りとなれば、同じ値段でもかなりのクオリティのものを仕立てられるのだという。まさに願ったり叶ったりな話だ。


 しかしやはり、手作りには作れる量に限度がある。ズバリこれがもう一つの理由だ。


 今回メイドさんをやるのは八人。オーダーメイドということで一人一人の体型に合わせて服を作るため、最低でもメイド服八着が必要になる。


 そこに加えて執事服も……となると、負担がとんでもないことになるのだ。服の使い回しでサイズが合わない奴が出てくるのは家庭科部員のプライドが許さないらしいし、それならやはりメイド服に専念してもらった方がいいだろう。


 そんなわけで。


「さ、採寸?」


「ほら三葉ちゃん、更衣室行くよ! うぇっへへ……」


「待って、なんか凄く嫌な予感がする! しゅー君、助けーーーー」


「うちの彼女さんをお願いします」


「!?」


「じゅるっ。任へて!!」


 ちょっ、よだれよだれ。中山さんの顔面じゃなかったら即通報されてるくらいとんでもない表情してるぞオイ。


 とはいえ、可愛い彼女さんメイドを誕生させるためだ。身柄を預ける他ない。


 ま、まあ大丈夫だろ。変なことはしない……はず。多分。maybe。


「さあ行こ、三葉ちゃん! 女の子同士裸のお付き合いだよ!」


「裸!? そ、それなら行かない!」


「あれ? ああ、そっか。裸じゃなくて下着かな?」


「なんか、変態の波動を感じる。怖い……」


「変た……はぅっ!!」


 ほ、本当に大丈夫なんだよな!? なんか見てれば見てるほど不安になってくるんだが……。


 なんだよ今の。明らかに三葉に変態って言われて喜んでたよな? ゾクゾクゾクッて感覚に身悶えしてたよな??


 三葉同様に″変態の波動″を感じた俺は、助けたい気持ちが溢れてこないよう必死にそれから目を逸らしつつ。やがて後ろから来た先生たちに先導されてそのまま連れて行かれた彼女さんの背中を、手を振りながら見送る。


 更衣室へと向かったのは三葉、中山さん、長野さん、桜木先生、月美さんの五人。まあ桜木先生は頭数に入れないとしても二人、監視役になってくれそうな人がいるもんな。まさか女子更衣室についていくわけにもいかないし、俺はここで大人しく待っているとしよう。


「おう駿。俺は帰るけど。お前は佐渡さん待っとくのか?」


「そうだな。採寸なんてそう時間はかからないだろうし」


「ふぅん……。だといいけどな」


「っ!? ど、どういう意味だよ」


「いやあ、なんでも。んじゃお疲れ」


「ちょっ!?」


 あ、雨宮の奴。意味深な言葉だけ残していきやがって。


「はぁ」


 なんだかこの考えそのものが、雨宮によって増幅させられたものなような気がして。非常に不愉快だが。



 …………やっぱり、不安だ。

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