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第127話 メイド喫茶

「「「「「おおおおおぉッッ!!!!」」」」」


 雨宮の叫びに。それを大きく上回る声量のレスポンスが教室内を埋め尽くす。


 そう。これから俺たちがこの一年三組で挑むことになるイベントとはーーーーズバリ、文化祭である。


「う、うるさい。みんな、テンション上がりすぎ……」


「な。けど、俺も気持ちは分かる」


 みんなのテンションが上がってしまうのも無理はない。


 なにせ、文化祭だからな。特に雨宮や中山さんなんかはもう大好きで仕方のないイベントだろう。


 かく言う俺も。実は結構楽しみにしていたりする。


(文化祭ってことは……出し物の内容によっては、普段とは違った彼女さんの可愛いところが見れるってことだよな)


 文化祭に抱くイメージというのは、人によって様々。


 ただ、おそらく誰もが共通して真っ先に連想するであろう文化祭のシンボルにあたる存在が、このクラスごとの出し物だ。


 劇をやるのか、縁日を出すのか。はたまた何かしらの飲食店か。どうなるかはクラスごとの意向によって無数の選択肢があるわけだが。俺は、できることなら……


「よぉーし、お前らのやる気は十二分に伝わってきた! それじゃあこの熱が冷めないうちに出し物の案どんどん出してってくれ!」


「はい! 焼き鳥とかたこ焼きとかの単価安いやつで稼いでガッポガッポ!」


「売り上げは山分けだな!! ヨシ!!


「クレープ屋さんやりたーい!」


「おしゃれ!! ヨシ!!」


「男装女装喫茶!」


「死ね変態!! でもヨシ!!」


 お、おぉ。そんなことを考えている間に、みるみるうちに黒板が企画案で埋まっていく。


 やはり挙げられているのは飲食店が多いか? っと、縁日と劇も入り出したな。


 およそ数分にして書き出された案の数は実に十以上。雨宮が明らかに無理そうでも絶対にその場では拒否しないせいで、次々とチョークを動かさなければならなくなった長野さんの手は徐々にプルプルと震え始める。


 そして、段々とあがる声が減り始めて。出てくる企画案も他のものと似たり寄ったりになった頃。パンッ、と雨宮が手を叩いて。それと同時に、教室が一時的に静まり返ったのだった。


「っし、一旦こんなもんだな! ええっと? おお、凄え数。どれどれ……」


 最終的に集まった案は十七。その内訳は、以下の通りだ。


《飲食店》

•焼き鳥

•たこ焼き

•ポテト

•クレープ

•フランクフルト

•ジュース


《縁日》

•射的、ヨーヨー釣り等の子供向け縁日

•お化け屋敷

•巨大迷路


《劇》

•童話

•オリジナルストーリー


《喫茶店》

•男装女装

•水着

•制服

•執事

•メイド

•執事&メイド(男女でそれぞれ)


 うん。ひとまず文化祭って言われたら思いつく企画案を全てかき集めたって感じだ。


 奇抜なアイデアこそ無いが……ああいや、水着喫茶は充分ヤバいから当てはまると思うけど。まあそれ以外は基本的にどれもできそうで、かつ楽しそうなものばかり。このラインナップならどれに決まってもおかしくないな。


「おーおー、出揃ったって感じ。どうよ長野さん、ひとまずパッと見て、絶対にできなさそうってのはある?」


「う、うーん。そうですね……」


 そしてここからは、選択肢を″減らす″フェーズへ。


 どれも実際にやる想像ができるし、決まっても反対が出なさそうなものばかりだけれど。とはいえ、それはあくまで感覚の話。物理的にできるかどうかは別問題だ。学校の設備や規則等々を鑑みると、どうしても選択肢から外さなければならない企画が出てくる。


「たしか飲食に関しては、火と油を使うものが駄目だったはずです。なので揚げなきゃいけないポテトは厳しいかも……」


「なるほどね。たしかにフライヤー無しでポテトってあんまりイメージ湧かないな」


「あああと、劇も厳しいかもしれないです。教室での小規模なものならできるにはできると思いますけど、体育館のステージの方は部活の演目とかで使えなくなっちゃうので」


「ふむふむ……」


 本来は桜木先生が行うはずだったのだろう細かい説明が長野さんの口からされ、一つずつ。物理的に実現不可能な企画たちに一本線が引かれていく。


 言われた通り、一番最初に消えたのはポテト。次いで劇全般。劇に関しては行うこと自体は可能だが、この狭い教室でとなるとどうしても難しい。そのうえそんな環境下で入場料のお金が取れるほどの完成度のものを作り上げられるかと言われると、な。同様の面から難しいと判断され、お化け屋敷と巨大迷路もすぐに消えることとなった。


 話していく上で重視されたのは、やはり出し物としての完成度を一定以上のものに仕上げられる企画かどうかと、そして何よりも″売り上げ″だ。


 生徒と教師だけでワイワイやっていた小学校中学校での文化祭と違い、高校では保護者たちや全く無関係の一般の人までを呼ぶことができる。そしてクラスで売り上げたお金に関しては、一度は全て学校側に回収されるものの、純利益が高かった上位三クラスにはなんと打ち上げ費としての賞金が出るんだそうな。


 元々は売上をあまり気にしていなかった層も、その話を聞いてからは分かりやすく目の色が変わった。そして、それによって。高い売上を見込むのが難しそうだという点から、選択肢から完全に「縁日」が潰れる結果となった。


「だいぶ削れたな。残ったのは……やっぱり、飲食店か喫茶店の諸々か」


「しゅー君はどれがいいの? 正直私は、まだどれもあまりピンと来てない」


「え? はは……どうだろうな」


 さて。ひとまず俺のやりたい企画は誰かが挙げてくれて、一本線を引かれることもなかったのには一安心だが。


(い、言えるわけないだろ! 俺が……メイド喫茶で働いてる三葉のメイド姿を見てみたいって思ってるなんて!!)


 飲食店か喫茶店? そんな二択はもはやどうでもいい。端から俺の中の選択肢は一択なのだ。


 頼む。誰か……誰でもいいから。



ーーーーメイド喫茶を、押し上げてくれ!!!

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