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第126話 出し物決め

「えー、はい。今日のホームルームはね。はぁ……クソッ、面倒臭ぇ。帰っていいか?」


「せ、先生? できればその、せっかくのクラスで初めて協力できる行事なので……」


「あーはいはい。わーったよ。たしかに先生としての業務に私情挟むのは良くなかったな。私が昨日ケ◯シロウに弄ばれて四万失ったのも、そのままじゃ帰れねえと思ってユニ◯ーンに三万託したら一回も出撃すらすることなく宇宙の藻屑にされたのも、私のプライベートな話だもんな」


「???」


「何が可能性の獣だクソッ!! 『それでも』の一言も言えずにパイロット名乗ってんじゃねえよボケ!! ケ◯シロウもよぉ……パンチ一発でノックアウトされてんなよ!! 演出規制のせいで血の表現ができないからって口からゲボみたいなの吐きやがってよ!! なぁんで四万払って男の腹パンとゲボ見なきゃいけないんだよあ゛あ゛ん゛ッ!?」


「ひ、ひぃっ……」


 迎えた、念願のホームルーム。


 てっきり″あれ″のことについて、明るい発表が行われるのであろうと思ったのも束の間。実際に披露されたのはそんな、桜木先生の訳の分からない日本語の数々だった。


 えぇと……なんだって? ケ◯シロウとユニ◯ーン? 四万に三万? 駄目だ、怪文書が過ぎる。とてもじゃないが俺には解読できそうにない。


 そしてどうやら、それはクラス中の総意らしく。段々と勝手に一人ヒートアップして全てを吐き出した後で出し切ったとでも言わんばかりのクソデカため息をする先生を前に、全員が黙り込むことしかできない。


 かわいそうに。委員長なんて涙目だぞ? 全く、この間のテスト回ではそれなりにいい感じの先生像を見せていたくせに。相変わらず、乱高下の激しい人だ。


「えっと……えっとぉ……」


 ああ、駄目だ。見ていられない。


 委員長ーーーーもとい長野さんは、桜木先生のせいでシーンとしてしまったこの空気を何とかしようと拙い身振り手振りをしながら言葉を絞り出そうとするが。ただでさえ緊張しいな彼女には中々上手くいかず。涙目のまま、やがて黙り込む。


「もーまぢ無理。病む」


 更に最悪なことに。桜木先生はそのまま病みモードへ。


 いやなんだその語彙。突然一世代前のギャルみたいに……って、そんなことはどうでもいいのだ。


 問題なのは、このホームルームを仕切る人間が一人もいなくなってしまったこと。先生も委員長もあの様子じゃあ、進行のしようがない。


(助け舟を出すべきか? いやでも、どうやって……)


 長野さんを助けたい。その気持ちは確かに俺の中に芽生えたのだが。いかんせん、そのやり方が浮かばない。


 いや、正確には浮かんではいるのだ。しかしそれを実行できるかはまた別の話。最も簡単で、それでいて最も難しい。そんなこの方法は、俺には……


「はあ。ったく、仕方ねえなあ」


 そう。俺には無理だ。俺にも、三葉にも。というかクラスの奴らのほとんどが、頭ではその方法を思いつくことができても実行には移せない。


 しかし……それを簡単にやってのけられる男を、一人。俺は知っている。


「まあいつもは仕切るのとか怠いから長野さんに任せてたんだけど。たまには副委員長も働きますかね」


「あ、雨宮君……っ!」


 俺たちの通うこの高校には、様々な″委員会″が存在する。そして、どこにも属さない生徒というのは存在しない。必ずクラスの中でそれぞれの委員会への人の配分を行い、全員が何かしらの委員会に入ることを義務付けられているのだ。


 当然、俺と三葉もそう。全く仕事が無いと言っても等しい「保健委員」に、一応名前を入れている。


 というか正直、委員会というのはそのほとんどが名ばかりで……。ちゃんと仕事があるのはクラスの代表に当たる学級委員と、あとは当番がある図書委員くらいなものだろうか。


 そして、たった今口に出されるまで誰もが忘れていたことなのだが。その本来であれば忙しいはずーーーーというか実際に長野さんがいつも忙しそうにしている学級委員というのは、彼女一人の役職ではなかった。


 もう一人。じゃんけんに負けたことによってその役職についた奴がいた。彼女を隠れ蓑にすることによって実質的に仕事のほとんどをサボることに成功していた、雨宮という男が。


「もお、駄目っすよ先生。ギャンブルで負けたからって担任としての業務を放棄しちゃあ。おかげで面倒臭い二人目の仕切り役、俺がやるしかないじゃないっすか」


「うぅっ。私の七万円……」


「駄目だこりゃ。いい歳した大人が泣いてら」


 誰もが分かっている。雨宮がしていることは遅れて出てくるヒーローの登場と同義ではない。むしろこれまでサボっていた奴がようやく働こうとしている、まさしくニートの立志に等しいレベルのものだと。


 しかし、それでも。一度前に立った雨宮に対し、台頭しようとする者はたの一人として現れない。


 何故なら、全員が願っていたから。自分の代わりにあそこに立てる……勇敢な人間の誕生を。


「おほんっ。んじゃまあ早速。ここからは俺と長野さんの二人で進めさせてもらう。今日の議題、それはズバリーーーー」


 そして。一瞬にして進行役の座に着いた雨宮は、すぅっと大きく息を吸って。民衆を鼓舞する王の如く、叫ぶ。



「文化祭のぉぉぉおっ!! 出し物決めじゃぁぁぁぁああああああっっ!!!」


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