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第125話 次のイベントは

 怒涛のテスト、テスト返し、打ち上げというイベントの連鎖を終えて。俺たちは、数週間における束の間の平穏な日常を過ごしていた。


 特に何の変哲もない、文字通り一般的な学生生活。そこに彼女さんの存在というスパイスを加えた、俺にとってはまさしく理想的な日常だったのだが。


 高校というのは、そう……平穏ばかりの生活はできないもので。良いイベントか悪いイベントかは置いておいても。必ず、短いスパンで何かが起きるものなのである。


 その証拠にほら。校外学習を前にした時と同じようなそわそわオーラが、朝っぱら登校したてなはずの雨宮から溢れ出ていた。


「……ああ、いいぞ言わなくて。どうせ何かあるんだろ?」


「な、なんで朝一そうそうに冷たいんだよ!? 俺なんかしたか!?」


「してない。してないけど、何かあるって顔してる。波乱の予感」


「波乱って……。言っとくけどな、お二人さんにとっても俺にとっても、というかこの学校の学生全員にとって良いことでしかないイベントが迫ってるんだぞ?」


 良いイベント、ねぇ。


 まあ、嘘ではないか。なにせそわそわしているのはコイツだけじゃないからな。


 クラス中、オーラが浮ついている。これは十中八九、俺たちにとっても何かしらの″良いこと″が起こる予兆だと思っていいのだろう。


 しかし……その良いこと、言い換えれば良いイベントとは一体なんだろうか。


 校外学習はしたばかりで、良いことと言うならばテストも当然違う。そもそも夏休み前にあたる一学期期末テストは七月末に行われるはずだから、六月な今からするとまだまだ先の話だしな。


「え、なんだよその反応。もしかしてだけど、検討ついてないのか?」


「全く」


「左に同じく」


「おいおい……それでも高校生かよ」


 失礼な。俺たちは立派な高校一年生だぞこの野郎。


 とはいえ、ここまで言われるとは。よっぽどのことなのだろうか。


 六月……良いイベント……うぅむ。


 小学校、中学校の時の記憶をたどりながら。それぞれにおける六月に何があったかを思い出そうと、頭を回す。


「……あ」


 そして、思考すること十数秒。たしかに雨宮の言う通り、俺たちにとって良いことでしかないかつ、学生という身分に身を置いているものとして忘れていてはいけない、そのイベントの名を。ようやく、思い出したのだった。


「やっと分かったのか?」


「ああ。そういえばあったな、そんなの」


「そういえば、ってお前。学生にとっては結構な一大イベントな気がするけどな」


「まあ、それはそうなんだけどな。いかんせんあんまり積極的に参加するタイプじゃなかったから。すっかり頭から抜け落ちてたわ」


 そういえばあったな、そんなイベント。


 イベント……というよりは行事の方が当てはまるか? ほら、六月といえば。そろそろあの学校行事の季節だろう。


 学生にとっては良いことしかない、ね。まさしくその通りだ。これは言うなれば普段勉強漬けにされている学生に対する″ガス抜き″として用意されたもの。校外学習と同じように、言わばご褒美的な行事だ。


 さて。ここまで言えばそろそろ察しのついてきた人は多いんじゃなかろうか。俺たちの目の前に迫っている行事の名前。それはーーーー


「み〜つばちゃ〜んっ! おは……ふぎゅぅっ!?」


「忍法•アイアンクローの術」


「ふぬぉぉぉぉおっ!? もげる!! 顔がもげちゃうぅぅぅぅぅううううっ!!!」


 と。その名を口にしようとした、その瞬間。刹那に俺の耳に轟いたのは、俺の彼女さんによって顔面からみしみしと、とてもじゃないが人体から鳴ってはいけない音を発生させられている褐色女子の悲鳴。


 これはこれは。新技だな。まさかプロレス技まで忍法に落とし込んでくるとは。流石は三葉……って、言ってる場合じゃないか。


「ストップ。頭蓋が割れる前に離してやれ」


「ん」


「ひぃ、ふうっ。あ、ありがとう市川君。本当に頭蓋骨無くなっちゃうかと思ったよ……」


 もはや言うまでもなく、三葉の身体能力は超人の域に達している。


 そしてそれは、握力も例外ではなく。握力ーーーー即ち何かを握る力もまた、常人とはかけ離れた威力を誇る。きっと女子の頭蓋骨を割るなんてこと、彼女さんが本気を出せば簡単にやってのけられるだろう。


 だからいい加減、中山さんには学習してほしいものなのだが。しかしながらどうして、毎日のようにこのような光景が繰り広げられている。本当に懲りない人だな。


「もお、なんで毎日毎日攻撃してくるの!? いつも市川君が止めてくれるからなんとか一命を取り留めてるけどさぁ!!」


「な、なんでってお前。すげえな、やっぱ天然バカなのか」


「なにをぅっ!?」


「は、はは」


「乾いた笑い!?」


 なんで、って言われても。もはやその理由は語る必要もないだろうに。


 ほら、三葉も言葉は発していなくとも、顔でそう言ってる。……ああいや、この顔はもはやそれどころじゃないな。まあ訳したら中山さん泣いちゃうだろうし、言わないでおこう。


「はあ。相変わらず懲りない。ハグは禁止って言ったのに」


「むぅ……いいじゃん! 女の子同士だし、減るものでもないんだしさあ!!」


「減るもんじゃないもなにも、私が嫌だからしない。私がしたいのは、しゅー君とだけ」


「(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)」


 って、突然の乱入で話が逸れたが。ああ、そうだ。あの件についてだったな。


 まあクラス中がここまでのムードになっているということは、きっと今日のホームルームで何かしらの発表があるはず。



 ……楽しみにしておこう。

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