ピザやポテトを頬張りながら、一通りイノスタを遊び尽くして。その後もせっかくカラオケに来たのだからと全員で歌を歌い楽しむこと、数時間。
「ん〜っ! 楽しかったぁ!!」
「……なんか俺はどっと疲れたよ」
「そりゃあんだけシャウトすればな」
「ほんとに。廊下まで声筒抜けだった」
夜の十時まで居ることのできる夕方フリータイムパックが終わる一時間半前。俺たちは、店をあとにした。
即ち、現在時刻は八時半。え? 三葉の門限はって? ああ、そのことなら安心してほしい。
三葉曰く。クラスの友達とテストの打ち上げに行くからと門限延長の打診をしたところ、おじさんとおばさんどちらにも「あの三葉に友達が!?」と喜ばれ、快くOKされたらしい。
まあ、うん。本人は気に食わない反応だと言っていたけれど。三葉のこれまでを誰よりも近くで見てきたおじさんおばさんなら、そうなっても仕方ないよな。
とりあえずそんなわけで。今日は門限が九時まで伸びているからな。このまま電車通学でこっちに来ている中山さんを駅まで送り、そこで解散しようとなったのだ。
「みんな、本当にありがとね。私のワガママに付き合ってくれて!」
「ワガママなんて。楽しかったしむしろこちらこそというか」
「まあたまになら……こういうの、してもいい」
「市川君! 三葉ちゃぁんっ!!」
「でもくっつくのはダメ。ハグ禁止」
「ひぅん……」
ぷふっ、と。三葉に静止されてしょんぼりする中山さんを見て、俺と雨宮の顔から笑みが溢れる。三葉の中山さんへの塩対応ももう見慣れたもんだが、やはり何度見ていても面白いな。
駅までの道を、そうして談笑しながら歩く。外はもうすっかり暗くなっているが、できるだけ明るい道を進んでいるからな。店や電灯の光がかなり明るく、人通りも多い。おかげで″夜の街の怖さ″的なものは一切なく、だらだらと進めている。
「まあとりあえず次の開催は期末テストが終わってからかね。その時も今回みたいに中山が赤点無しで生き残れる保証は無いけどな」
「むぅ、なんでそんな意地悪言うのさ! もっとこう、ほら。私の先生なんだからさ? 次も俺が赤点回避させてやる〜とか、かっこいいこと言えないわけ?」
「だーれが先生だ誰が。次も助けてやるなんて一言も言ってないだろが」
「助けてくれないの!?」
「はっ、お前の態度次第だな。そうやって生意気言ってたら助けてやんねー」
はは、またやってら。痴話喧嘩。
なんて。口が裂けても絶対に言えないけれど。そう、心の中で呟く。
こんなこと言って、雨宮は結局次のテストだって中山さんを助けることだろう。次も、その次も。本気で頼まれたら、きっとコイツは断ることができないから。
「おっ、そんなことより。さっきあげたヒストリー結構反応ついてるぞ。……って、コメントでダブルデートとか言われてら。不名誉すぎるぞオイ」
「ふ、不名誉!?」
ガーン! と。中山さんから聞こえないはずの効果音が聞こえてきたかのような感覚に襲われながら。俺も少し気になって、雨宮のアカウントから上げられているヒストリーを覗く。
たしかに、そこには幾つかのコメントが来ていた。パッとアカウント名を見ただけでは誰が誰なのかさっぱりだが、まあおそらくそのほとんどはクラスメイトの奴らなのだろう。
「コメントとかあるの?」
「みたいだな。ほら、ツオッターのと同じ感じでみんなの反応載ってるぞ」
「ぐぬぬぅ。不名誉って……不名誉ってぇ……!!」
ヒストリーに載せられた写真。それは、中山さんが自撮りするような形で撮られたものだった。
手前から中山さん、雨宮、俺、三葉、と。四人全員がしっかりと映ったそれは、言われてみるとたしかにダブルデートのような雰囲気で。ただでさえ付き合っていることがクラス全員にバレている俺と三葉が隣にいて、そのうえで薄々そうなんじゃないかと思われているであろうこの二人だからな。そう言われても仕方のない構図だ。
「はは、ボロカス言われてら。どうやら雨宮、お前も俺と同じく男子に恨まれる側に来たらしいな」
「ご、誤解だってのに。俺には麗美ちゃんせんせっていう絶対的存在がいるってのに!!」
雨宮のあげたヒストリーについたコメント。その数はおよそ十と少しなのだが、正常なものはほとんどなくて。そのうちの大多数が、雨宮への嫉妬で溢れていた。
読み上げるとーーーー
『とうとう手を出したな』
『万死に値する』
『どこに埋める?』
『お前は踏み超えてはならない一線を破った。明日の保証はできない』
『そうか。お前はそういうやつだったんだな』
とまあ、こんな感じで。
中にはもはや、◯害予告に近しいものまである。
まあ当然か。ただでさえ、うちのクラスってのは可愛い子代表である三葉の彼氏枠が埋まってるんだ。そのうえで全く系統は違くとも、男子から同じように大人気な美少女の中山さんとデートした疑惑のある奴が出てきた。それだけで叩く理由には充分過ぎる。
加えて、そいつには常日頃からアタックしている別の本命がいるというのだから。まさに嫉妬民からすれば雨宮という存在は叩きやすい的に他ならない。
ほら見てみろ、とくに最後の奴。もう義務教育を通った者なら誰でも知ってるレベルの某エー◯ールと酷似した発言をしている。これは多分相当だぞ。
「ようこそ、こちら側へ」
「ふっざけんな! 麗美ちゃんせんせと付き合えた後にこの嫉妬されるならまだしも、ありもしない奴との恋愛でこんな仕打ちにあってたまるかっての!!」
「……ありもしないのか?」
「無い!! 絶対!!!」
ほほーん。まあ本人が言うなら、別にそういうことにしておいてやってもいいが。
どうせ、それを決めるのは俺じゃないからな。ひとまず先に地獄で待っておくとしよう。全男子から可愛過ぎる女の子が彼女だということに対して殺意にも似た嫉妬を向けられ続ける、この日常でな。
「ありも、しないの?」
「……は?」
「な、なんでもない! やっぱり忘れて!!」
「お、おぉ?」
どちみち、雨宮がこちら側に来るかどうかは、俺にどうこうできる話じゃない。
ただ、確かなことが二つ。一つは、少なくともその可能性がゼロではないということ。そして、もう一つは……
(本当、退屈しないな。この二人を見てると)
この二人にとってーーーーそして、俺と三葉にとっても。実際に″そんな関係性″になる可能性を格段に引き上げるイベントが、すぐ側まで迫っていること。
それらは……紛れもない、事実だった。