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第123話 チャラ男の講習会

「わあぁっ! ついに! ついに私のスマホにイノスタがぁ……っ!!」


「よくやった。褒めて使わす」


「使わす」


「だからっ……やりたくっ……なかったんだよぉっ!!」


 いやあ、やればできるじゃないか雨宮君。見事俺たち三人にイノスタのアカウントを作らせて見せたな。


 ちなみにそれまでの過程はまあ……うん。大変そうだったなぁ。中山さんの機械音痴は俺の想像より遥か上どころか、もうなんか変な方向に突き抜けてるレベルだったし。


 しかし、だ。彼女のあの笑顔を見れたならコイツも本望だろう。あんなこと言って、照れ隠しが下手な奴め。


「ね、ねっ! それじゃあ早速ID交換しよ! ほら、雨宮も!!」


「はあ。お前は頑張った俺への労いは無しか?」


「えへへ、勿論感謝してるよ。ありがとっ!」


「……ふん」


 ID交換ね。えっと、たしか自分のQRコードを出して相手に読み込んで貰えばいいんだっけか。


 SNSアプリなんてどれも似たり寄ったりなものばかりなのだろうと思っていたのだが。いざ使おうとしてみると、イノスタはLIMEともツオッターとも違って。試行錯誤しながらようやくQRコードを出すための操作を発見し、タップする。


 すると画面一面に大きく表示されたそれを、読み取り係の中山さんに向けて。やがてそれがカメラ機能によって認識されるとともに、中山さんのスマホの画面には俺のアカウントが映し出された。


「アカウント名、下の名前そのままなんだ?」


「まあツオッターもそうしてるし。中山さんは?」


「私もそのまま〜。あだ名とかあればそれにしたりするんだけどね〜」


 アカウント名はそれぞれ「しゅん」、「みお」、「みつば」。SNS初心者あるあるなのかもしれないが、下の名前をそのまま登録することにした。


 こういうので本名を使うのはあまり良くないことは知っている。しかしまあ、俺たちは別にこのアカウントで何か活動的なことをするわけでもないからな。こうやって内輪で楽しむ分にはこれでいいだろう。


 ああ、ちなみに雨宮はというと、読みこそ同じ下の名前でも「yuusuke」なんて風にアルファベットを用い、その上でよく分からない文体で表示させていたな。流石はSNS上級者といったところだろうか。


 それにアカウントのアイコンも随分とオシャレだ。これは……何か旅行先の風景写真か? LIMEのとはまた別のを使ってるみたいだな。


「よしっ。これで三人ともフォロー完了、っと。あ、フォロワーも三人になってる! 全員返してくれたんだ〜?」


「もちろん。フォローしてもらったならし返さないとな」


「しゃーなしだぞしゃーなし。こんなアイコンも初期画のままのアカウント、いつもならフォローなんて返さないっての」


「なら変え方教えてよぉ! あと自己紹介の欄の書き方も!」


「うげっ。とりあえずはアカウント作れたんだからそれでいいじゃねえかよ」


「えぇ〜。そんなこと言わずにさあ!」


「近い近い! ああもう、分かったって! 教えてやるから離れろ!!」


 なんだろうな。LIMEの交換と、していることはさして変わらないはずなのに。


 なんかこう……独特な嬉しさというか。友達としてもう一段階階段を登れたみたいな、そんな感覚がある。


 みんなしてイノスタをやる理由はこれなのだろうか。実際はプライベートなメッセージのやり取りとかで使うのはLIMEの方なはずなのに。いや、むしろだからこそか。事務的な交換ではなく、″友達だから″と。ある意味軽く、ある意味重い。これには、そんな力が篭っているような気がした。


「……」


「よかったな、三葉。俺の他に二人もフォロワーがいるぞ」


「…………ん」


 どうやら、三葉もそれをひしひひと感じているらしい。


 さっきまでは俺に乗っかっただけで、特に興味無いって顔してたのにな。いざ入れてみるとこれだ。嬉しそうにフォロワー一覧見つめやがって。


 イノスタの交換というのは、俺たち高校生にとっては一種の″友達の証″。だからたとえそれが、普通の人にとっては幾度となく繰り返される行為の一回に過ぎなかったとしても。特に三葉には、良い意味で重く受け止めることができたのだろう。


 いや、他人事じゃないか。


 俺もそうだな。恥ずかしい話、このたったのフォロワー三人の欄を見つめるのがまさかこんなに嬉しいことだなんて。夢にも思わなかった。


「そうだ、せっかくだからヒストリー撮ろうよ! 初めてのヒストリー、この四人で!」


「ヒストリー……って、なんだっけ」


「ヒストリーはね! なんかこう、投稿の二十四時間限定版みたいな! とにかくエモいやつ!!」


「「???」」


 ヒストリー。名前だけは聞いたことがある。あと一応、それがイソスタの何かしらの機能を指す言葉だってことも。


 しかし当然、その内容までもを俺と三葉が知っているはずもなかった。そのおかげで頭の上にははてなマークが大量発生である。


 とりあえず分かったのは、それが″とにかくエモいやつ″だということのみ。二十四時間限定の投稿? というのはなんというかピンと来ない。


「く、詳しい説明は私には無理だから。お願いします、先生!」


「はぁ。ったく、仕方ないな」


 と、どうやら中山さんもヒストリーに関しての知識は俺たちに毛が生えた程度のものだったらしく。流れるように説明役を押し付けられた雨宮が、ため息混じりにその内容を語る。


「本当、手のかかる奴らだ。いいか? ヒストリーってのはだな……」



 雨宮先生のイノスタ講習は、どうやらもう少し。続きそうだ。

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