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第121話 機械音痴のお願い

 店員さんに案内されたのは、「08」と書かれた角の部屋。


 案内の途中で三葉がめちゃくちゃ大きな腹の音を鳴らしてしまいかなり恥ずかしかった……なんて話は一旦置いておいて。即座に荷物とピザをテーブルに置いて部屋を出た俺たちはドリンクバーに直行し、コップをジュースで並々満たしてから再び戻って。ようやく乾杯の準備を整えていく。


 乾杯の音頭を取るのは中山さん。彼女がコップを頭上に掲げるのと同時に俺たちも同じようにし、今か今かと言葉を待つ。


「ごほんっ。それじゃあ早速。全員の赤点回避を祝して〜、乾杯ッ!!」


 カコンッ。プラスチック製のガラスが重なり合い、そんな軽い音が鳴る。


 そして次の瞬間。全員の喉に同じドリンクが流し込まれ始めると、ほんの数秒にして。その中身は、あっという間に半分以上が各々の胃の中へと消えていったのだった。


「ぷはぁっ! コーラうんめぇ!!」


「しゅー君しゅー君! もうこれ食べていい!?」


「よぉし、好きなだけ……ああいや、そんな言い方したら本当に一人で全部食べるか。あれだ、適度にな」


「ん!」


「ふふっ、好きなだけもぐもぐしていいよ〜? 足りなくなったらまた買いに行けばいいんだもんね〜!」


 はは、分かりやすく気が大きくなってるなあ、中山さん。


 いや、この場にいる全員似たようなものか。ようやく当面の不安材料だった中間テストが終わり、束の間の平穏が手に入ったのだから。そりゃあ浮かれるくらい当然のことだったな。


「じゃあ俺も早速……彼女さんの選んでくれたペパロニピザを、っと」


 事実、やはり俺も心が軽くなっているというか。テスト返しが終わるその時まで、こうして全員で打ち上げに来ることができる結果かどうかは分からなかったからな。ほっとしたのと、嬉しかったのと。そんな感じの感情で心の中がいっぱいになり、やはり無意識のうちにかなり舞い上がってしまっている。


 こういう時、大人なら居酒屋にでも行って生ビールをクイッと飲み干したりするのだろうか。まあそんなことができるようになるのは、俺たちにとってはまだまだ何年も先の話だが。


 十五歳にはコーラで充分。本当にこれだけで、充分すぎるくらい幸せだ。……なんて。発想がガキすぎるだろうか。


「のび〜。見て見てひゅーふん。チーズのびう〜」


「ぷふっ。なんだよそれ、ハ◯ジかよ」


「んぅまぁ……♡」


 なんて。そんなことを考えたが。どうやら俺よりも、彼女さんの方がまだまだ子供らしいな。


 マルゲリータピザに齧り付いてその断面から伸び続けるチーズに翻弄される三葉の様は、まさに某アルプスの少女のそれ。ほっぺたを赤く塗ってしまえばもう完璧だな。


 とはいえ、やはりめちゃくちゃ可愛い。三葉の見せるこういった子供っぽい面もまた、俺にとってはあまりにも魅力的で。思わず写真を撮ってしまいたくなる気持ちをグッと抑えーーーー


「シャッターチャンス!」


「ん゛んっ!?」


 おっと、どうやら押さえても意味はなかったようだ。


 勘違いしないでほしい。俺自体はちゃんと我慢できたのだ。しかし彼女が、あまりに可愛すぎる被写体を前に思わずシャッターを切らずにはいられなかったらしい。


「えへへ〜、三葉ちゃんの可愛い写真ゲット! あとでグループ送っとくね!」


「け、消して! しゅー君だけならまだしもっ!!」


「やーだよっ。こんなに可愛いんだもん。ちゃんと思い出として残さなきゃ!」


 ありがとう中山さん。謹んで保存させていただきます。


 流石は陽キャ界きってのエース。素晴らしい仕事っぷりだな。正直お金を出してでもほしいレアショットを無料配布してくれるなんて。ーーーー今はただ、君に感謝を。


「んなこと言って。写真の送り方分かんのか?」


「なっ……バ、バカにしないでよ! ちゃんと履修済みだもん!」


「どうだか。前にバーベキューの時撮った写真は結局俺が代わりに操作して送る羽目になったじゃねえか」


「あ、あの時はまだ知らなかっただけだから! 今は違うのッッ!!」


 っと。そういえば中山さん、機械音痴なんだっけ?


 なんか雨宮が言ってた気がするな。正直にわかには信じ難いのだが。ああでも、そういえばバーベキューの写真撮る時、自撮りの方法が分からないとかで雨宮に代わりにスマホを握らせていたような。なら本当のことなのか。


 あの中山さんだ。LIMEもイノスタも巧みに使いこなしていてなんの違和感も無いというのに。実際には機械音痴でスマホの操作がおぼつかないなんて……ギャップが凄いな。


 もしかして、陸上に身を捧げてきた弊害だったりするのだろうか。まあでも、確かに中山さんの場合たとえプライベートの時間であっても、スマホを弄っている姿よりも外に出て走っている姿の方がよほど想像はつきやすいかもな。


「って、そういえば! 写真の送り方云々で思い出したけど、雨宮″あのこと″ってちゃんと二人に伝えてあるの? テストとかのせいですっかり忘れてた!」


「ん? あのことって……ああ、なんかあったな、そんな話」


「言ってないの!? 約束したのに!!」


「すまんすまん。ほら、あの日は色々あったしさ。お前も言った通り、その後すぐにテストもあったから。俺も今の今まで完全に忘れてたんだって」


「「??」」


 なんだ、突然。一体何の話をしているのだろう。


 あのこと? 約束した? 俺たち二人にはさっぱり見当がつかないが。


 しかし、二人してきょとんとした顔を合わせたのも束の間。


「二人にお願いがあるの!」


「お願い……?」


「ふももも?」


 何やら気迫に満ち満ちた表情で。中山さんは、言った。



「私に……イノスタを教えて!!!」

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