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第119話 一番いい選び方

「う〜ん。どれも美味しそうで悩んじゃうよぉ〜。みんなはどう?」


「俺は照り焼きのやつ食いてえなぁ」


「マルゲリータ! チーズ盛り盛り!!」


「お、好きなの二つ選んで半分ずつで一枚とかもできるらしいぞ? これいいな……」


 というわけで、なんやかんやありつつ。


 俺たちは今ーーーーピザ屋さんに来ていた。


 ああ、ちなみに店内飲食じゃなくて持ち帰りカウンターな。テイクアウトしてこれから行く打ち上げ会場まで持っていく予定だ。


 知っている人も多いだろう。昨今のピザ屋というのは基本的に、デリバリーしてもらうよりも自分たちで持って帰った方が圧倒的に会計を安く済ませることができる。


 ここなんて五十パーセントオフだぞ? ただでさえお金をあまり持っていない俺たち高校生からすれば、もはや持ち帰りは必須レベルなのだ。


「じゃあ四人で一つずつお気に入りのやつ選んで二枚頼む? サイズはやっぱりLだよね!」


「だな。ああ、それとサイドメニューも忘れずにな。ポテトとナゲットは欲しいだろ」


「ん! んっ!!」


 さて、お気に入りか。どれにしたものかな。


 流石は大人気チェーンのピザ屋さん。流石の品数だ。この中から一つを選ぶのは中々どうして難易度が高そうだな。


 とはいえ、ずっと悩んでいるわけにもいかない。他の三人はもう決まっているみたいだしな。俺も早急に選ばないと。


 三葉たちが選んだのはそれぞれ、マルゲリータ、照り焼きマヨ、シーフード。だからとりあえずその三つは除外するとして、それ以外で……か。


 正直、ピザなんてものはどれを頼んでも美味しいからな。逆にハズレが無さすぎるが故に候補が多すぎて一つを選ぶのは難しくなりがちだ。店側もそれを分かっていていろんな種類がミックスされた商品を用意しているくらいだしな。


「しゅー君は? もう決まった?」


「ああ、もうちょっと待ってくれ。どれもこれも美味そうで中々決まらなくて……」


 ならいっそのこと、バランスで考えてみようか。


 確定した三つをそれぞれ大きな分類で分けると、「チーズ」、「肉」、「海鮮」。ここにプラスで一個足した時、程よくバランスが取れるやつがいいな。


 そんなことを考えながら、改めて紙のメニュー表を見つめ、吟味する。


 三つどれにもジャンルで当てはまることがなく、かつ美味しそうなメニュー。そこまで絞ればせいぜい残るのは三択くらいだろう、と。そう読んでいたのだが。


(……全然残ってるな、候補)


 これが思いの外、読み違いで。俺の視界いっぱいに広がったメニュー表にはまだまだ、候補となるピザの写真が広がっていた。


「じゃがマヨにコーン、カルボナーラ、ベーコンマッシュルーム……う゛っ。見れば見るほどどれもこれも美味そうに見えてきた」


「はは、優柔不断な男はモテないぞ駿? こういう時はスパッと決めろスパッと!」


「そうだよ〜。こんなの悩めば悩むほど泥沼なんだから〜」


 そ、そんなことを言われてもだな。


 分かってる。こんなの、考え込んだ時点で負けだ。もうこの先にはどれだけ思考を凝らそうと確実にこれだというものは出てこないだろうし、まさに泥沼。考えるだけ無駄だと。


 しかし、だからと言って適当に決めるのもなんというか……ここまでの一連の流れが全て無駄だったと認めるようで抵抗がある。


 どうすべきか。なにかこう、良い選び方でもあれば……


「あっ」


「? どうしたの?」


 そういえばあったわ。良い選び方。


 俺はいつもいつも優柔不断だ。けれど俺自身と同じくらい、もしくは俺以上に俺のことを理解していて、それでいて一切後腐れが残らないほどにスパッと物事を決めてくれる凄い幼なじみを一人、知っている。


「ふふっ、そういう頼り方してくれるの……嬉しい♡」


「お願いできますかね、彼女さん」


「任せて。彼氏さんのことはこの世界で誰より、他でもないこの彼女さんが一番理解してるから」


「え? えっ? 市川君、今三葉ちゃんに何頼んだの??」


「こっわ。もうわざわざ口に出さなくても分かるフェーズまで来てるのかよ……」


 怖いだなんて失礼な。信頼関係が極まってると言ってほしいものだ。


 三葉が俺の頼み事を言わずとも理解できるのも、その先の最適解を導き出せるのも。それらは全て一重に二人の培ってきた歴の長い信頼関係があってこそのものだ。


 だから怖いことなどあるものか。いやまあ、たまに察しが良すぎて少し怖い時が無いわけでもないが……。とはいえ、やはりこういう時は誰よりも頼りになる。本当に誰よりも、な。


「忍法•彼氏さんの一番喜ぶものを当てるの術! むむ……むむむっ!!」


 そうして。印を組んだ彼女さんは目を閉じて集中ーーーーするのではなく、メニュー表を高速でめくり続けて。行っては戻り、言っては戻りを複数回繰り返すと。やがて一つのページに狙いを絞り、頭の上の電球に熱を込めていく。


「しゅー君が一番食べたいのは、これっ!!」


「「「おおっ……!!」」」


 彼氏さんの一番喜ぶものを当てるの術。それの発動とともに彼女さんが指さしたのは、ページ中央の″人気ランキング四位!″と吹き出しのついたとあるピザ。


「どう? 当たってる?」


「……やっぱり凄いな、俺の彼女さんは」



 それを見た瞬間、これしかないと確信を持たされたことはもはや……言うまでもない。

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