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第102話 相棒な被害者

 ニンモンは、ゲームの分類で言うとRPGに該当するものである。


 まあざっくり言うと、ニンモンを使役して共に協力し、敵を倒していく……みたいな感じのストーリーなのだ。


 だから、初代から一貫して必ず最初に主人公には初期装備のような形でニンモンが一匹与えられる。


 つまり俺たちにとって、このプロローグは既に四回目の経験なわけだ。初代から2、3も漏らすことなく全て一緒にプレイしているからな。


 だがその度に、必ず躓く問題がある。そしてどうやら、今作も決して例外ではないらしい。


「ん……」


「あの、三葉さん? そろそろどのニンモンにするか決めてもらえませんかね」


「待って! 今真剣に考えてる!!」


「……はぁ」


 かれこれ十分以上、こんな状態だ。


 忍の家系である主人公が試験を乗り越え、一人前の忍として自立することを認められたプロローグ。そしてその最後にお題館様からニンモンを贈呈されるというのがここまでの流れだ。そしてここから、ようやくメインのストーリーに入っていくところなのだが。


 初代から一貫しているのはニンモンを一匹貰えること。そしてその選択肢が″三匹″いること。これが問題なのだ。


 流石はニンモン。毎度毎度その三匹のどれもビジュアルがよく、今作でもしっかりと三葉の頭を悩ませている。


 まあ正直ここで躓いて時間がかかる光景は何度も見てきたし、慣れっこではあるのだが。にしてもそろそろ決めて欲しいものだ。


「スイトンにクナイヘビ、それからヒナワドリ……か。まあ確かにどれも可愛いけども」


 水遁の術をモチーフにしたのであろう水色の豚、スイトン。苦無を加えた緑色の蛇、クナイヘビ。火縄銃のような紋様が刻まれた雛鳥、ヒナワドリ。


 ぱっと見た感じで一番可愛いと思ったのはスイトンだろうか。だが、可愛さだけで選ぶと後悔するのもまたニンモンの良いところであり悪いところだ。


 どのゲームにもあるモンスターの″進化″ってやつが、当然ニンモンにもある。つまり現状一番可愛いスイトンが進化すればムキムキな怖い奴になる可能性もあれば、クナイヘビが妖艶な見た目になる可能性も。ヒナワドリがめちゃくちゃかっこいい不死鳥のようになる可能性だって。どのニンモンも進化の可能性は無限大だからな。慎重になってしまうのは仕方ないと言える。


 と、俺もどのニンモンが良さそうかなんて頭を回していると。ようやく三葉が、呟くように言う。


「今のところ、クナイヘビかヒナワドリの二択」


「おっ、スイトンが消えたのか。俺はてっきりクナイヘビが消えるもんかと」


「この三匹を純粋に比較したらそう。けど……」


「地雷臭、か?」


「ん」


 流石はこれまで一緒にプレイを続けてきた仲だ。感性もよく似ている。


 だからこそ俺も同じことを考えた。スイトンからは進化でとんでもないことになりそうな″地雷臭″がする、と。


「俺も同意見だ。その二択でいいと思うぞ」


「ちなみにしゅー君はどっち派?」


「俺か? うーん、そうだな……」


 これまでゲームをしてきた俺たちの勘を信じて絞った、残りの二択。どちらかと言えば俺はヒナワドリ派、だろうか。


 なんかこう、やっぱり推測なんだけどな。ヒナワドリは進化でかなりかっこよくなるような気がするのだ。現状でもクナイヘビより可愛いし。スイトンが選択肢から外れた時点で、やはり俺はこちら派だな。


「そっか。私も同じ」


「早い早い。まだ口に出してないって」


「でも、分かる。大好きな彼氏さんの考えることだから」


「ならなんで聞いたんだよ……」


 彼氏さんの心を読むの術をさも当たり前かのように使った三葉は、少し身体をのけ反らせながら自慢げに俺の顔を見ると、そう言って。手元のコントローラーを操作し、ヒナワドリを受け取る。


 どうやら腹は決まったようだ。これでようやく先に進めるな。


「ふふっ、この子が今作の記念すべきニンモン第一号。名前、何にする?」


「三葉さんのお好きなように」


「分かった。じゃあ……」


 お、相変わらず名付けは早いな。


 三葉はいつも、手に入れたニンモンには絶対にニックネームを付ける。本人曰く、その方が愛着が湧くんだとか。


 そして実はこれ、俺にとってニンモンをやるうえでの一つの楽しみだったりする。


 何故かって? それはだな……


「今日からこの子の名前はーーーーちゅんちゅん!」


「ぶふっ!?」


「……笑った?」


「い、いえ。そんなことはっ」


「声震えてる! やっぱり笑った!!」


「笑ってない! 笑ってないから! ちゅんちゅ……ぷふっ」


「んっ!!!」


 だ、駄目だ。抑えられない。


 こんなの反則だろ。ちゅんちゅんて……ちゅんちゅんてっ!


 そう。俺がコイツの名付けを楽しみにしているとは、つまりこういうことだ。


 三葉のつける名前はいつも、俺の予想の斜め上をいく。変なのとか謎なのとかばかりで、的確に俺の笑いのツボをついてくるのだ。


 しかもそれを自信満々に言ってくるからもう。このレベルのを新規のニンモンを捕まえるたびオールウェイズ提供してくれる三葉さんには、もはや尊敬しかない。


「ちゅんちゅん……可愛いのに……」


「い、いいと思うぞ。その、凄く三葉らしくてっ」


「本当に思ってる?」


「思って、ますともっ……!」


「むぅ」



 未だ声が小刻みに震えてしまいながらも、なんとかそう言って三葉を宥めると。ニックネームの欄に『ちゅんちゅん』の文字が打ち込まれ、被害者ーーーーじゃなかった。愛らしいニックネームのついた俺たちだけのヒナワドリが、ニンモン図鑑に登録されたのだった。

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