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第101話 ニンジャリモンスター

「ふふんっ。しゅー君の席はここ。それで彼女さんの特等席は……」


「うおっ!?」


「ここっ♡」


 むにっ。柔らかい感触が、あぐらをかく俺の脚全域に広がっていく。


 部屋に入るなりいきなり座布団の上に座らされ、そのうえ座り方まで指定されたかと思えば。どうやらこれが目的だったらしい。


 え? 重くないのかって? これがな、全然重くないんだ。多分同じことを男とかにされたら数分と持たないだろうが、この華奢な彼女さんなら話は別。体重自体かなり軽そうなうえに体格差もあるおかげですっぽりと俺という椅子にフィットしているからな。これならそうそう疲れることもないだろう。


「今日はずっとひっつく。テスト期間中の遅れを取り戻さないと」


「遅れって……。イチャイチャにはノルマでもあるのか?」


「ある!」


「あるのかよ」


 初めて聞いたぞ、イチャイチャの量にノルマを設定してる奴なんて。


 かなり気になるし深掘りしたい話題ではあるが、同時に少し怖くもある。これ以上触れるのはよそう。


 どの道、今日は打ち上げと称して本気でイチャイチャしまくるつもり満々らしいしな。その証拠にほら、もう既にテーブルの上にはジュース用のコップもお菓子用のお皿も用意されているし。これはきっと″できる限り部屋から出なくて済むように″しておいたんだろう。分かってはいたがやはり、本気だ。


「さて、舞台は整った。あとは仕上げだけ。しゅー君、例の″ブツ″はちゃんと持ってきてくれた?」


「ブツて。法外な薬物みたいな言い方しないでもらえませんかね」


「ん、あれは法律で禁止されてないだけで立派な薬物。現に世界中で数えきれないほどの人を中毒にしてる」


「いやまあ、そうだけどさ……って危ねえ。認めてたまるかそんな暴論。誤解招く言い方はやめろって言ってんだわ。まあ持ってきてるけどさ。ほれ」


「・:*+.\(( °ω° ))/.:+」


 ″例のブツ″なんて危ない呼ばれ方をしたそれを鞄から取り出して見せると。みるみるうちに、三葉の目が光り輝いていく。


 なんか色々言われていたが、決して危ない物ではないから安心してほしい。こんなの今時小学生でも使ってるしな。


「好きだよなぁ、Smitch」


「ん、んっ!」


「喜んでもらえたようで何より。モニターに繋いでやるからちょっとどいててな」


 三葉曰く法律で禁止されていないだけの薬物らしいこれの名は、『Smitch』。大人気家庭用ゲームハードである。


 実はこう見えてコイツはかなりのゲーム好きだ。本体を持っていないから自分の部屋ではやらないものの、俺の部屋に来た時は結構な頻度でプレイさせてくれとねだってくる。


 そしてそんな彼女さんが待ち望んでいたSmitchのゲームが、ついにこのテスト期間中に販売されたのだ。だから俺たちはソフト代を折半してそれを購入し、テスト終わりにプレイするため今日まで密かに我慢し続けた。


「えっと? ここをこうして……」


「しゅー君しゅー君、早くっ!」


「分かってるって。落ち着け落ち着け」


 発売日を迎え、すでに購入しているというのにプレイできない。そんな状況はさぞ、コイツにとって焦らされているような感覚だったのだろう。


 その証拠にあの三葉が、モニターにゲームを接続している俺の後ろでぴょんぴょんと飛び跳ねながら、ソワソワが溢れ出るのを止められないでいる。めちゃくちゃ可愛い。


 と、そんなことを考えながら作業すること数分。配線が完了し、電源を入れたモニターにゲームのホーム画面が映し出された。


『てれててってて〜! ニンモン4〜』


 そしてそれと同時に流れるのは軽快なBGMと、タイトルを読み上げる女性の音声。


 そう。この『ニンモン4』こそ。俺たちが待ち侘びていたニンモンシリーズ最新作である。


「っし、設定完了っと。ほい、コントローラー」


「えへへ、この日を待ち侘びてた。まさかあのニンモンの続編がプレイできるなんて……夢みたい」


「だなぁ。俺はもう正直続編は諦めてたから。新作発表がされた日はマジでビビったわ」


 さて、どうして俺たちがこんなに感慨深さを全開にしているのかって? それは一重に、このゲームの″人気の無さ″が原因である。


 ニンジャリモンスター、略してニンモン。似たようなタイトルは幾つか聞いたことあれど、これを聞いたことがある人がどれだけいるだろうか。


 ほとんどいないだろう。それもそのはず、ニンモンは所謂″マイナーゲー″というやつなのだ。


 だから正直、2や3が出ただけでも奇跡なタイトルだったと言うのに。俺たちのような根強い物好きが意外と多く需要があったのか、3発売から四年の月日を経て。ついに大人気ゲームハードSmitchの専用ソフトの新作として、この4が発売されたというわけだ。


 そんな背景を知っていて、かつ新作を今か今かと待ち続けた俺たちだからこそ。タイトルが表示されて曲と共にオープニング映像が流れているだけのモニター映像を見ているだけで込み上げる思いというやつがあった。そりゃあ感慨深い表情にもなるってもんだろう?


「……ふぅ。そんじゃまあ、やりますか」


「ん。スタートボタン、一緒に押そ」


「もちろん」


 だが、当然いつまでも眺めているだけってわけにはいかない。やがてオープニング映像が終わり、同じものが二周目として流れ出した頃。俺たちは一つのコントローラーを二人で構え、力強く。



ーーーースタートボタンを、押した。

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