ばっ!!
着ていたニットのセーターごと、制服と中のシャツまで一気にたくしあげて。三葉は鼻息荒く、その真っ白なお腹を見せつける。
「ほら、見て!」
「見……れるかんなもん! 早くしまえ!!」
「しまわない! しゅー君がちゃんと確認してくれるまで!!」
「っ……!」
俺は咄嗟に目を瞑ったが、それでどうにかなる状況ではなかった。
なんせ当の本人が全くお腹をしまう気が無いのだ。これでは俺が見ないように務めたところでなんの意味もない。むしろこの状況が延々と続いてしまい、俺が目を開けるまで待たれてジリ貧に陥るだけだ。
こうなる前に阻止できなかった時点で、俺にはもう……目を背け続けることなど、不可能なのである。
「しゅー君?」
「分かったよ。分かったから!」
そしてそこに、トドメの静かな圧。
俺は観念し、ゆっくりと目を開けた。
「どう?」
「……」
席の上に膝立ちになったことによりさっきよりも高い位置に顔がある三葉のちょうど俺の目線の高さにあった部位は、胸元。
この間のデートで「D」だと自称されたその立派な膨らみを一番に見せつけられ、思わず思いっきり目を逸らしそうになりつつも。そのまま、視線を落としていく。
次に見えたのは細い指先。ぐっ、と力を込めて両手で服をたくし上げており、かなりお腹の上の方まで引っ張っているのでもしかしたら胸元の布が見えたり……なんてことも一瞬考えてしまったが。ギリギリ、服の色以外の別の色が顔を出すことは無かった。
そして……いよいよ、服という防護壁から露出された素肌が見え始める。
お腹、という言葉の定義としてはそれなりに広い部位を示していると思うが、まず真っ先に俺を釘付けにしたお腹のそれは、一本の縦線だった。
線と言っても当然、素肌に人工的に描かれているということではない。
その縦線の正体はーーーー三葉のお腹が引き締まっているからこそ生まれた、微細な凹みによる”努力の結晶”。アブクラックスとも呼ばれるものである。
更に、まるで三葉のこれまでの一貫した姿勢を一本の筋に表したかのようなそれに魅了されながら進んでいった先にあるのは、お腹の中央部にぽつりと主張する縦割れのおへそ。
(なんだ、これ……っ!!)
はっきり言おう。
ーーーーえっちだ。
いや待て。はっきり言いすぎた。今のは違う。訂正させてくれ。
ーーーーえっちだ。
(いやだから!! 違うって!!!)
落ち着け俺。胸元のご立派様に対してその感想を抱くならともかく、お腹に対してというのはいくらなんでもおかしすぎる。しれっと新しい扉をゲートオープン解放するな馬鹿野郎。
三葉はそういうつもりで見せたんじゃないだろう。あくまで、ちゃんとお腹が引き締まっているというのを俺に確認させたがってるだけで。
決して。決して自分で服をたくし上げてお腹を見せる行為に対してもえっちだなんて思っていない。あの三葉が無防備な姿を俺にだけ見せつけてくれているのに多少嬉しさがあるのは仕方ないにしても、これはえっちなことじゃないとちゃんと頭では理解しているのだ。
なのに……なんだこの気持ちは。
俺は今、明確に。はっきりとーーーー
「えっちです」
「……へっ?」
「大変えっちなお腹をされております」
「………………へぇっ!?」
ぼふんっ。俺の言葉の後に、何泊か空いて。時間差で三葉の頭が小爆発し、顔から耳、首元まで。真っ赤に染め上げられていく。
「いや待て! 今のは違う! なんか勝手に漏れて……ッ!!」
そしてそこまで時が経ってようやく心の声があっさりと言葉として漏れてしまったことに気づいた俺は、咄嗟に言い訳を考えようとして。見事に事態を悪化させたのだった。
勝手に言葉が漏れた。その言動は即ち、「隠そうとはしていたけれどそれもできないくらいの勢いで本心が飛び出してきた」という自白に他ならず、言い訳どころかむしろ今の発言が本音であると見事に正体までしてしまう言葉。
そしてそれは、既に三葉の耳に届いてしまった。
もうどう足掻いてもその発言を彼女の頭から取り除くことはできない。文字通り”詰み”である。
「え、えっちって。まさかしゅー君にそんなフェチがあったなんて……」
「お、俺をお腹フェチの変態みたいに言うのはやめろ!? 断じて違うからな!?!?」
「で、でも。私のお腹を、えっちって」
「そ、れは……っ!!」
まずいなんてどころの騒ぎじゃない。こんなの三葉が相手じゃなかったら即通報される案件だ。
お、俺はお腹フェチだったのか? いやでも、今まで別に女性のお腹になんて何とも思ったことは無かった。
三葉だけ、なのか? 俺が三葉を好きだから?
仮にそうだとして。結局三葉のお腹を「えっち」だと感じてしまったことにはなんら変わりないわけで。
どうすればいい? なんて誤魔化せば? そもそも誤魔化せるのかこれ?
頭の中で色んな考えと言い訳に使おうとする言葉がごちゃ混ぜになり、絡み合って思考を遮っていく。
ダメだ。どうすればいいのか全く分からなくなってきた。なんとか弁明したいが、もう頭が回らない。
突然爆弾発言をした俺と、された三葉。お互いに訳の分からない状態で、カオスな空気に包まれていく。
だから、だろうか。
「ね、ねえしゅー君」
「な、なななんだよ」
「……触って、みる?」
三葉が……俺に、突如死角から特大カウンターをかましてきたのは。