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第45話 特別扱い

「と、いうわけで! 改めてよろしくね! 市川君、三葉ちゃん! あと一応雨宮」


「う、うん」


「はい……」


「なんか変なパーティー編成になったなぁ。ま、別にいいんだけどさ」


 言うな雨宮。それは俺たちが一番よく分かってるから。


 本当、改めて見ても不思議なグループになった。俺と三葉、雨宮と中山さんがペア的に同じグループにいるのはまだ分かるものの。側から見ればクラスのド陽キャ二人とド陰キャ二人が集まっているというなんともおかしな状況だからな。


 とはいえ、だ。二人がいてくれて助かった。


 もし俺と三葉がお互い以外誰とも話さないままここまで来ていたらと思うと……ゾッとする。


「ふふっ、楽しい校外学習になりそうだねぇ〜」


「中山さんのおかげですよ。あと一応雨宮」


「うーん。さっきの中山同様、俺にだけなんか雑だな……」


「気のせい気のせい。しゅー君も中山さんも、あまり深く考えてないだけ」


「……ねぇ。ずっと気になってたんだけどさ」


「「「?」」」


 まだグループが決まっていない者も多く、教室内が騒がしい中。前の黒板に四人分の名前を書き込んでしばらく雑談していると、突然。中山さんが首を傾げる。


「市川君と三葉ちゃん、私に対して他人行儀すぎない!?」


「「へ?」」


 そ、そうだろうか。


 いや、確かにまだ距離感を掴みかねているところはあるけれども。特に中山さんに対して意識的に距離をとっているということはないのだが……。


「特に市川君! なんで敬語なの!?」


「い、いやぁ。それは……」


 あれ? そういえば俺、なんで敬語で喋ってるんだろう。


 特別意識はしていないものの、思い返してみれば俺は常に中山さんに対して敬語だ。


 今だってそう。〜です、〜ますと。たしかに、クラスメイトからこんな喋り方で接されれば、他人行儀と受け取られても仕方がないのかもしれない。


「そうだな。言われてみれば駿、中山に対してずっと敬語だわ。なんでだ? 同い年のクラスメイトなのに」


「な、なんでだろうな。完全に無意識だったというか。中山さんに限らず、そういえば三葉以外の女子全員に対してそうかも」


「私以外、全員……?」


 俺の言葉に、全員が頭の上にはてなマークを浮かべる。


 そして、一幕おいて。全員同時に何か閃いたかのように電球を点灯させた。


(なんだ、ただの童貞か)


(これが幼なじみラブラブ純愛! ふふっ、昨日読んだラブコメみたい!!)


(私だけ特別! 私だけ特別ッッ!!)


 なんだろう。全員、ロクでもないこと考えてる気がしてならない。


 特に雨宮。なんだそのムカつく顔。お前、今俺のこと鼻で笑わなかったか……?


「まあその、あれだ。ゆっくり慣れていきゃいいんじゃねえの? ひとまず中山を練習台にしてさ」


「ううん、しゅー君はそのままでいい! 私以外の女とは距離を近づける必要なんてない!!」


「えへへ〜。こういうのこういうの。三葉ちゃん可愛いなぁ〜♡」


「んなっ!?」


 いや、中山さんも相当様子変だぞこれ。


 こういうの、ってなんだ? まるで保護対象を見るかのような目を向けてくるんだが。何考えてるのか分からなすぎてちょっと怖い……。


 しかし、何はともあれだ。


 どうやら俺は三葉以外の女子には無意識に敬語を使ってしまう悪癖があるらしい。一度自覚したからには、ちゃんと直さないとな。


 雨宮の言う通りだ。すぐに直すのは難しいかもしれないが、少しずつ慣らしていけば何とかなるかもしれない。そしてその相手第一号としては、やはり中山さんが一番ハードルが低いように思う。


 それに、中山さんは現状唯一三葉と友達になれる可能性がある人だ。まさに一石二鳥。仲良くしない選択肢など無いに等しいだろう。


「しゅー君! こんな泥棒猫に騙されちゃダメ! 私だけが特別!!」


「と、特別? よく分からんけど……やっぱり敬語はやめるよ。これから仲良くなろうって人なわけだし」


「っ!?」


「ほんと? じゃあいっそのこと呼び名も変えてみない? 澪って呼んでよ〜」


「え゛っ」


 い、いきなり下の名前? 流石にそこまでは想定してなかったんだが……。


「……しゅん」


 ああ、ヤバい。三葉がどんどん萎れていく。


 もしかして俺が三葉にしかタメ語で話してないって知って、結構嬉しかったのか? そういやさっきも″私だけが特別″って訴えてたしな。


 ったく……俺の中で三葉が特別な存在だってことはこの先誰と仲良くなっても変わらないってのに。仕方のない彼女さんだ。


「し、下の名前まではいいよ」


「え〜? なんで〜?」


「そりゃほら、あれだよ」


 ずぅぅぅん、と負のオーラを纏いながら小さくなっていく三葉を横目に。少し恥ずかしい気持ちを抑えながら、言う。


「下の名前で呼ぶのは……三葉だけだから」


「……え?」


 まあその、なんだ。別に三葉のために断ったわけじゃないけどな?


 ずっと三葉に対してだけ下の名前で呼んでいた俺にとっては、少なからずその行為自体に意味というか。特別感が宿るわけで。相手が異性となれば、それは余計に強まるわけで……。


「しゅー君っ!!」


「あ、ちょっ! こんなとこで抱きつくな! やめ、見られてるからッッ!!」


「えへへ。私だけ特別扱いしてくれるの、嬉しい。大好き♡」


 あ、甘い良い匂いと柔らかい感触が……じゃない!


 俺の言葉に即座に反応してオーラを一転させた三葉が正面から抱きついてくると、その刹那。そんな俺たちに四方八方からの殺意のこもった視線と、生暖かい見守るような視線が同時に突き刺さる。


「はぁ。やっぱり俺、他の班行こうかな」


「生のイチャイチャ純情! でへへ……♡」


「「「「@#_/&_/#/####!!!(あまりに汚い言葉のため自主規制)」」」」


 とまあ、こんな感じになんやかんやありながらも班分けは中山さんを入れたことで無事に(?)終了して。クラスとしての決まり事が全て決まると、ホームルームは終了していく。


ーーーーそして、あっという間に数日が経ち。




 校外学習の日が、やってきたのだった。


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