目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第44話 最後の一人は

「ほえー。バーベキューの方の班は自分たちで、かぁ」


 まずい。非常にまずいぞこれは。


 もし仮に、俺と三葉を含めた四人でのグループを作ることができなかったら。その時は俺は男子グループのどこかに引き取られて……


「しゅ、しゅー君! 早くしないと!」


「お、おおおぅ。わ、わわ分かってるって!」


 そうなったらきっと、俺は無事に帰ってくることはできないだろう。


 俺ほど悲惨なことにはならないだろうが、三葉も三葉でシンプルに友達がいない&人見知り発症で惨事になることは目に見えている。


 まともに友達を作れていない俺たちがあと、二人。


 となれば……一人目に誘う相手は当然、決まっている。


「なあ、雨宮ーーーー」


「んじゃ、あと一人だな。誰誘う?」


「雨宮ァァァァァッッ!!」


「うわっ!? な、なんだよ。急に叫んで気持ち悪いな……」


 こ、コイツ! さも当たり前かのように!!


 ああ、人の優しさが染み渡る。今日だけは友達(笑)じゃなく、コイツを心の友とでも呼んでもいいのかもしれない……。


 胸の奥から何か込み上げてきそうになるのを抑えつつ。ほっと肩を撫で下ろした俺は、三葉と視線を交錯させる。


 三葉もまた、緊張の糸が切れたようだった。


「「「「ちぃっ!!」」」」


 ひとまずこれで俺たちはセーフティ。四人は集まっていないものの、三人いればバラされる危険性は無い。


 さて、あとは残りの一枠をどう埋めるかだ。


 俺たちが三人で固まっていればそのうち溢れた奴がやってくるだろうが、できればその展開は避けたい。そいつがもし男子だった場合、最悪単独で俺のことを刺しに来る可能性があるからだ。


 できれば女子……がいいのだが。


「分かってるって駿。女子だろ? とはいえ、誰にするか」


「雨宮ァァァァァッッッ!!!(二度目)」


 どうやら、雨宮は既に言うまでもなく俺の気持ちを理解してくれているようだった。


 やはり持つべきはチャラ男の友達か。普段はチャラチャラしてるだけのふざけた奴が、こうなるとめちゃくちゃ頼もしく見える。


 見た目通り、雨宮の人脈は膨大だ。当然このクラスにも既にそこら中根を張っており、もはや雨宮と話したことがないという奴の方がレアだろう。


「性格がキツくなくて、駿ができるだけ話しやすい奴。それでいて佐渡さんとも仲良くできそうな都合のいい奴は……」


「おい、そんな完璧な人いるのか?」


「いるいる〜。都合のいい、って部分はちょっと癪だけどね」


「「!!?」」


 しゅばばっ! 


 横から声が聞こえたその刹那。俺は驚きで身体をビクつかせ、それよりも早く。まるで驚かされた猫のように飛び上がった三葉が、高速で俺の背後へと身を隠す。


 その声の主は、このクラスで俺が、そしておそらく三葉も。まともに喋ったことのある唯一の女子だった。


「私も入れてよ〜。これで四人揃うでしょ?」


「な、中山さん」


「ぐるるる……」


 そしてこれは、俺からすれば願ってもない話だった。


 おそらく、さっき雨宮が言った条件を完璧に満たせるのはこの人だけだ。俺がある程度面識がある女子であり、そのうえ少しではあるものの、三葉も心を開いている相手。おそらくーーーーいや、間違いなく。最後の一人に最も適した人物と言えるだろう。


 ただ……


「えっと、俺たちからすればもちろんありがたいけど。その……本当にいいんですか?」


 それはあくまで、俺たち目線の話。


 中山さんは雨宮同様、ドがつくほどの陽キャだ。性格は明るく常に周りには人がいて、その人望からきっと引く手数多なはずなのだ。


 ただでさえ色んな選択肢を選べる人が、よりにもよって先週、部活への勧誘をあそこまでこっ酷く断って恥をかかせてきた相手の手助けなんて。そんなことがあり得るのだろうか。


 だが、そんな俺の心配とは裏腹に。最上級陽キャスマイルをその褐色肌の整った顔に浮かべた中山さんは、言う。


「ふふっ、もちろん! 先生言ってたでしょ? このグループ分けは仲のいい人か、これから仲良くなりたい人と組めばいいって。私にとっては二人が完全に後者に当てはまってるもん!」


「う゛っ!!」


「しゅー君、まずい。このオーラ当たり判定がある。眩しいしヒリヒリして痛いっ」


 ま、眩しい。眩しすぎる。


 雨宮の下心で薄汚れたオーラとは全く違う。汚されていない……ピュアを具現化したかのような。俺たち陰の者には触れただけでダメージの入るレベルのものを纏っている。


「おいおい、まさかまた陸上部に二人を勧誘しようってんじゃねえだろうな?」


「あはは、まあ完璧に諦め切れたって言えば嘘になるけどね〜。けどもう無理には誘わないよ」


「本当かねぇ」


「ほんとほんと! 二人には、私にとっての陸上と同じように大切なものがあるんだもんね!」


「えっ? あ……」


 中山さんの言葉に、ふと。隣を見ると。三葉と目が合い、すぐに逸らす。


 彼女の言う″大切なもの″とは、即ち……そういうことだ。


 まあ、うん。ハッタリとはいえあんなこと堂々と宣言した俺が悪いんだけどさ。




 なんだこれ。恥ずかしいったらないな。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?