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第43話 千里眼もどき

「はいはい。静かにしろって言ってんだろお前ら。楽しみなのは充分伝わったから。説明も終わったし、このまま次にいかせてくれ」


「しゅー君しゅー君! バーベキューに解散だって! しかも三時間も自由! デートし放題!!」


「お、おぉ」


「おい駿、テンション低いぞ! っし、去年は外れだったって聞いてたからどんなのがくるかと思ったが……天は俺たちに味方した! 待っててくれよ麗美ちゃんせんせ!! 一緒に海鮮丼デートじゃぁ!!!」


「だぁもうっ! 静かにしろっつってんだろ! ぶち◯すぞ!!」


 それから。先生の叫びも虚しく、しばらくどんちゃん騒ぎは続いて。


 ようやく数分後。少しだけ教室内の熱狂が落ち着いたタイミングで、先生は言葉を続ける。


「はぁ……。ったく、私も忙しんだよ。とっとと決めること決めるぞ」


「決めることってもしかして!?」


「ああ。バスの座席と……あとはバーベキューの班な」


「来たぁ! 定番イベンツッ!!」


 再び沸き始めたみんなを見てもう静止するのは諦めたのか。先生は黒板にチョークで手書きのバスの座席表を作っていく。


 クラスの人数は三十人。席は三十ニ席で、まず一番前の右に桜木先生。その隣は空席で、残りの三十席にそれぞれ番号が振られた。


「ひとまずバスの方から決めてくぞ。くじはもう用意してあるから。適当に引きに来てくれ」


 そして、教卓の上に置かれたのは、折り曲げられた紙が幾つも入った小さな箱。


(くじ引き……ね)


 まあこれも、定番っちゃ定番だよな。


「しゅー君」


「ああ。分かってるって」


 よかった。定番で。


 例えばこのくじ引きがスマホアプリでの抽選とか、あとは中のくじが一切見えないような箱に手を突っ込むスタイルなら。それは純粋な運否天賦の勝負になったかもしれない。


 だが、桜木先生はそこまでこだわった仕事はしない。あのくじなら……ふふふ。


 駄目だ。まだ笑うな。笑うのは勝ってからだ。


「くじ引きかぁ。おい駿、別に俺は隣誰でもいいからさ。もし佐渡さんの隣引いたら変わってやるよ。勿論タダでとはいかねえけどな」


「ふっ、その心配は無用だ雨宮」


「? まさか策でもあるのか?」


「まあ見てろって」


 われ先にとくじの前に人が押し寄せる中。俺は三葉と改めて座席表を確認し、立ち上がる。


「狙いは十四、十五と二十九、三十の最後列セット。これだけは誰にも譲れない」


「いつもの、お願いしますよ。三葉さん」


「御意」


「な、何する気だ……?」


 現時点、くじを引いて黒板に自分の名前を書いたのは十二人。未だ、俺たちの狙いの四席には手がつけられていない。


 よかった。俺たちの番が来る前に席を埋められたらどうしようもなかったからな。


 けど、これなら大丈夫。勝ち確ってやつだ。


「ほい、次はお前らだ。とっとと引いて書いてある数字のとこに自分の番号書いてってくれ」


「じゃあ私は……これ。先生、しゅー君はくじ運悪いから、二人分選んでもいい?」


「んぉ? まあ別にいいけど。市川はそれでいいのか?」


「はい。俺はいつもこうしてもらってますから」


 そうして。三葉が俺の分も合わせた系二枚のくじを引き、片方を俺に手渡す。


「どっちにしたんだ?」


「右の方」


「ってことは……」


 もはや、くじを開くまでもないのだが。それじゃ周りに疑われるからな。念のため確認はしておかないと。


「十四、ね」


「ん。私が十五」


「よし」


 ふふんっ、と自慢げな三葉の頭をそっと撫でながら。チョークで二人分の名前を書き込み、席へと戻る。後ろから男子の舌打ちが幾重にも重なって最赤のハーモニーを奏でていた気がするが、気にしない気にしない。


「ちょーいちょいちょい。何涼しい顔で隣同士引いてきてんだよ。しかも最後列て。おま、何したんだ?」


「いーや何も? 俺はただ、三葉の幸運に乗っかっただけだ」


 無論、嘘である。


 これにはしっかりとタネがある。まあ、それを見破るのは誰にも不可能だろうが。


「ふふっ。忍法•千里眼もどき。今回も上手くいったね」


「……だな」


 忍法•千里眼もどき。このくじ引きには、外的要因のタネや仕掛けは一切無い。


 あるのは、三葉の超人的な″眼″の力のみだ。


 三葉の視力は「2.0」。動体視力も、常人のそれではない。


 だから、この忍術のタネは至ってシンプルだ。


 まず、三葉がくじの中に手を突っ込む。そしてシャッフルするような動作を見せつつ、僅かに紙の裏から透けているものや少しだけ開いた隙間から覗く番号を視認。


 そこまですればあとは目当ての番号を一瞬で識別し、手に入れるだけだ。


 本当にシンプルだろう? ただ、言うは易し。真似できる気はしないけどな。


「ほれ雨宮、お前もとっとと引いてきたらどうだ? どんだけ疑っても時間の無駄だぞ」


「ぐぬぬ。なんか調子乗っててムカつくなぁ……」


「なんとでも言いたまえ。どうせ証拠なんて無いんだからな」


 さて、ひとまずこれでバス座席の問題は解決した。


(残るはバーベキューの班、か)


 確か四人組だったよな。くじ引きになったとしてもひとまず三葉と離れるようなことにはならないが……問題は、あとの二人だ。


「よし。これで全員引いたな。んじゃ次はバーベキューの班分けな」


 と。考えている間に、クラスの全員がくじ引きを終えて。どうやら最後の方に引いたらしい雨宮が手についたチョークの粉を払いながら着席するとともに、回収されたくじが全てゴミ箱へと放られる。


 新しいくじは出てこない。つまり……


「座席はくじで決めたが、こっちは話し合いで決めてもらう。仲良い奴らで組むもよし、これから仲良くなりたい奴らで組むもよし。あ、人数的に二人余るからどっか二グループは五人な」


「「!?」」


 おいちょっと待て。今なんて言った?


 そうか。このクラスの人数は三十人。四の倍数でいくなら二人余る。


 そしてもしそうなったら。その二人は分断され、どこかのグループに一人ずつ……


 ゾクッ、と。背中に正体不明の悪寒が走る。


 そして、振り返ると。


「「「「( ◠‿◠ )」」」」


「ひぃっ!?」




 まるで、俺を地獄に導かんかとするように。クラスメイトの男子たちが……貼り付けたような笑顔で、微笑んでいたのだった。



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