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第42話 校外学習

 と、いうわけで。なんやかんやで六限が終わり、ホームルームの時間。


「はい。んじゃね、みんなもう聞いてると思うけど。校外学習のことについて話すぞー」


「「「「「Yeahhhhhhhhhh!!!!!」」」」」


 担任である桜木先生の言葉に、まるで海外のミーム動画かのような歓声が教室中に響き渡る。


 校外学習。一見お堅そうな授業の延長線上に聞こえるその行事の実態は、言わば学習という名の遠足。


 つまり、日頃平日は授業に追われている学生にとってこの行事は、言わば合法の旅行のようなものなのである。


 しかも何がいいって、開催日が平日なことだ。日帰りとはいえ、普段は授業を受けているはずの時間にクラスのみんなで出かけることができる優越感は他の何にも変え難い。


 とはいえ。実はこの校外学習とやら、学校によってかなり当たり外れが激しいとも聞く。


 校外学習に正解の形などない。集合時間、移動方法、行き先、現地での過ごし方、解散時間。その全てが、学校によって様々なのだ。


 この高校はどうか……


「えー、まず開催日は四月二十八日金曜日。集合時間は朝の十時で、場所はこの学校な。グラウンドにバスが止まるから、それで現地まで移動することになる」


「バス移動マジ!? あっつ!」


「バス……しゅー君の隣に座れば密着し放題。ふふふふふふふふっ」


 よし。今のところは悪くない。


 まず集合時間。行き先が遠ければ普段より早起きさせられる可能性も十二分にあったが、むしろ逆。朝の十時にこの学校集合となれば普段よりも家を出る時間を何時間も遅らせられる。


 次に移動方法。真っ先に浮かんだのは電車とバスだったが、後者か。


 しかも各クラスに一台ときた。席分け次第ではある意味席も位置も自由な電車に劣るものの、もし三葉と隣になることができたなら……。


 密かに胸を膨らませつつ。いよいよ最も重要な本題に入る桜木先生の言葉に、しっかりと身を傾ける。


「はいはい、騒がない。落ち着けガキどもー」


「先生、んなことはいいから行き先! 早く行き先教えてくれよ! もう気になりすぎて授業もロクに身が入らなかったんだからさ!」


「お前が授業に身が入ってないのはいつものことだろ雨宮。ったく、焦らなくてもちゃんと言うって」


 行き先……正直、全く予測がつかないな。


 たしか中学の時は三年は修学旅行だから無いとして、一年生と二年生それぞれ行ったのは牧場とキャンプ場だったっけ? 何したかは……あまり思い出せない。


「今回行くのはーーーー」


「「「ごくっ……」」」


 クラス全員が緊張で唾を飲み込みながら、視線を気だるげに頭をかく桜木先生に集中させて。


 教室に一瞬、わずかな静寂が生まれたその瞬間。行き先が告げられた。


「魚介溢れる夢の場所、三つ目島漁港だ!!」


 三つ目島漁港。なんでもそこは、日本でも有数の有名な漁港なのだという。


 巨大な市場での競りや解体ショーは勿論のこと。そこで食べられる刺身や海鮮丼は絶品なんだとか。それはもう、さっきまでの気だるさが嘘かのように桜木先生が熱く語ってくれた。


「あそこの海鮮はどれも質が高くてな。かく言う私もよく家に届けてもらってるんだよ。あの刺身をつまみにして呑む酒は……げへっ。げへへへっ」


「「「うわぁ……」」」


 漁港、か。かなり意外なチョイスだったな。


 てっきり俺はなんやかんやで中学の時のように無難にバーベキューとかするんだとばかり思っていたが。なるほど、これが高校の校外学習か。


 曰く。この校外学習での目的は、普段触れることの難しい産業に触れ、体感することなのだという。確かに漁港なんてそうそう行く機会が無いからな。そういう命題ならぴったりだろう。


 ただ、そう思う俺や一部生徒とは対照的に。あまり反応のよろしくない奴もちらほらいるようだった。


 おそらく、″学習″の要素が垣間見えたからだろう。あと単純に漁港と聞いて、魚が苦手な奴はそう簡単には喜べない。


 しかし……流石は高校。ここからが凄かった。


「じゅるっ……。さて、じゃあざっくり一日の予定を説明していくぞ。心して聞きやがれ」


 スケジュールとしては、まず俺たちは朝十時に制服姿で運動場に集合し、バスに乗り込む。


 そこからは一時間半ほど時間をかけ、昼前に漁港へ。そして昼ごはんとなるわけだが、まず驚かされたのはここだ。


「昼飯は漁港近くの広場にて取ってもらう。クラスの中で四人組の班をいくつか作って各席でバーベキューだ」


 なんと、今回は無いとばかり思っていたバーベキューがここで姿を現したのである。


 肉が嫌いな奴などそうそういない。おかげでこの話を聞いた瞬間すっかりクラス全員が盛り上がり始め、先生の声がほとんど聞こえなくなるほどのとんちゃん騒ぎである。


 漁港とバーベキュー。全く関係のないこの二つが合わさったのは、恐らく漁港だけでは一部生徒から不満が出ることが分かっていたからなのだろう。流石の配慮だ。


 そして昼ごはんが終わった後は現地の人の案内のもと一時間ほど漁港を見学。その後は自由時間となり、三時間ほど漁港の中も周辺の広場も、観光地のように広がっている商店街まで。行き来が自由なのだと言う。


 なんとなく、途中から察していたことだが。今、それが確信に変わった。




 この校外学習……大当たりだ。

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