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第41話 ぼっち予備軍とアホ面

「おいっすー。今日も相変わらずお熱いねぇ」


「そういうお前は相変わらず今日もアホ面だな」


「ん。アホ面」


「ひでぇっ!?」


 教室に入って早々。入り口から一番近い最前列の席で俺に手を振ったのは、エナジードリンク片手に眠そうな目を擦る雨宮だ。


 数週間このクラスに通っていて分かったことだが、どうもこのチャラ男は朝が弱いらしい。このアホ面を拝んだ回数ももはや数えきれない。


「あのさぁ。唯一の友達に対してアホ面ってのはどうなわけよ。そんなんだから友達できないんだぞー」


「ゆ、唯一!? おま、俺をそんなぼっち予備軍みたいに……」


「え? 違うのか?」


「……」


 いやまあ、うん。違わないけども。


 認めたくはないが、雨宮の言う通りだ。三葉を友達としてカウントしないのであれば、俺に今友達と呼べる存在はコイツしかいない。


 なにせクラスメイトの男子からは友情はおろか、向けられるのは殺意ばかりだし。女子とはそもそもほとんど喋ってないし……。


 あ、あれ? 俺、もしかして三葉のこと心配してる場合じゃないのか? 


「安心して、しゅー君。しゅー君がどれだけぼっちでも、隣には私がいる。世界一可愛い彼女さんさえいれば友達の数なんて大した問題じゃない」


「は、はは。そりゃどうも」


「ぷふっ。彼女に慰められてやんの」


 むふんっ、と誇らしげに胸を張る三葉とは対照的に、なんとも惨めな気分になりながらも。雨宮の後ろの席に着席し、鞄を下ろす。


 大体、よくよく考えたらこの状況って三葉にも責任があると思うんだが。そのことはどうお考え……いや、コイツは絶対自分がずっとそばにい続けることで責任取りにくるな。というかもはやそれをイチャイチャの口実にしそうまである。どうやら余計なことは言わない方が身のためなようだ。


「まーまー。そう落ち込むなよ。彼女か友達か、なんて質問、普通なら友達取った方がいいんだろうけどさ。相手が一生の伴侶になってくれるなら話は別っしょ。ねー、佐渡さん」


「ん」


「はぁ……もうほっといてくれ」


 全く。なんで朝っぱらからこんな惨めな思いをさせられなきゃならないんだか。


 あと三葉さん? 「ん」じゃないんだわ。そりゃあなたがずっと一緒にいてくれる宣言してくれるのは嬉しいですけどね。俺がぼっち予備軍だという現実は何変わらないんですよ。


 ずんっ、と少し心が重くなるのを感じながら。隣で目をキラキラさせている彼女さんは視界に入れないようにしつつ、鞄の中から教科書やら筆箱やらの授業に必要なものを取り出していく。


 今日は魔の月曜日。ただでさえ一週間のうちで一番学生がやる気を出せない曜日でありながら、時間割は一限に古典、四限に現代文等々、もはや確実に俺たちを殺しにかかるような魔の時間割だ。


 俺は三葉ほどではないものの、あまり勉強が得意じゃない。唯一の友達(笑)の雨宮はろくにノートを取っていないし、テスト前に大慌てすることにならないよう、せめて板書くらいはしっかりしておかないとな。


 そんな風に心の中で絶対寝ない宣言をして頭を徐々に勉強モードに切り替えていく俺を横目に。雨宮がエナジードリンクの残りを全て飲み干してゴミ箱に空き缶を投げ入れると、三葉に声をかける。


「そういえば話は変わるけど。聞いた? いよいよ今日のホームルームで行き先発表らしいよー」


「!? それって、例の?」


「おうとも。今年はどこになるんだろなー」


 ん? 急になんの話だ? 行き先……?


「私はしゅー君といられるならどこでも。場所も大事だけど、どちらかと言うとちゃんと自由時間があるのかどうかの方が不安」


「あー、それはそうかも。自由時間が無いと麗美ちゃんせんせとデートできないし」


「……それは、多分どれだけ自由時間があっても無理だと思うけど」


 ああ、そうか。


 高校に入学してかれこれ数週間。四月もほぼ終わりかけとなったこの時期は、中学同様であれば″あれ″が行われるはず。


 どおりで今日はやけにそわそわして浮かれてる奴が多いわけだ。きっと俺と三葉にまともな友達がいないから情報が回ってこなかっただけで、他の奴らはみんな朝からその話題で持ちっきりだったのだろう。


 まあ、そりゃそうか。高校入って初めての一大行事だもんな。興奮すんなって方が無理な話だ。


 実際、俺も。一度は勉強モードに入ろうとしていた頭が、あっという間にそれを諦めてそわそわし始めてしまった。


 なにせ、今回はこれまで小、中学校で毎年行ってきたそれとは訳が違う。


(今回は……彼女さんがいるんだもんな)


 こんなことを口にしたらクラスメイトの殺人者予備軍の男子たちに埋められること間違いなしだろうが。今の俺には、(仮)とはいえ彼女さんがいる。


 しかも仮とはいえ、俺はもうしっかりと三葉のことを好きなわけで。反対に向こうも俺のことをとてつもないくらい好いてくれている。


 三葉と基本的にずっと一緒に行動するというのはこれまでと変わらないものの……お互いの心中も、行動も。これまでとは何もかもが違う。


(三葉と、イチャイチャしながら……)


 ああ、ったく。早くホームルームになれ。




 こんなの……授業に集中なんてできるわけないだろ。煩悩まみれだ畜生!!


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