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第37話 のんびり帰り道

 忍者ミュージアムに閉館まで居座り続けた俺たちは、その後再び河川町に戻って夜ごはんを食べて。しばらくゆっくりしてから、帰りの電車へと乗り込んだ。


 時刻は午後八時半。既に日は落ち切っており、特急電車の窓の外には人工的な光に灯された夜景が広がっていた。


「はぁ……今日一日動きっぱなしだったな。もうへとへとだわ」


「私はまだまだいける。なんなら明日も休みだしーーーー」


「馬鹿たれ。こっちは明日筋肉痛で動けなくなるの確定してんだよ」


 そこら中を歩き回ったせいだろう。もう既に俺の足はボロボロで、ふくらはぎやら足の裏やらがかなり痛い。


 やはり俺も三葉を見習って日頃からもっと運動するべきなのだろうか。いやまあ、この体力バカを基準にしちゃいけないことは分かってるけども。


 とにかく家に帰ったら一度湿布を貼ってしっかり足を休ませておかないとな。筋肉痛は確定としても、せめて早く治るように処置くらいはしておこう。


「筋肉痛……懐かしい。私も昔はよくなってた。最近はもう全くだけど」


「羨ましい身体してんなぁ」


「しゅー君もちゃんと修行すれば今からでもこうなれる。こんなにか細い女の子でもなれたんだから間違いない」


「……か細い、ね」


 自分で言ってしまうのはどうなのだろうか。


 いや、か細いってのも間違いではないのだ。確かに身体の線はびっくりするほど細いし、体重だって軽い。


 しかしだな。なんというかこう、三葉は幼少期から既に常人とは身体の作りが違ったというか。言葉を選ばないのであれば化け物の片鱗があった。それを知っているからこそ、俺からすればびっくりするくらい言葉に信憑性が無い。


「ふふっ。しゅー君も強くなれば、きっと私たちの子供はもっともっと凄くなる。忍者と忍者のハイブリッド」


「なんじゃそりゃ。もうどこからツッコめばいいのか分かんねえよ」


 何やら不敵な笑みを浮かべながら呟く三葉を横目に小さくため息を漏らしながら、言う。


 子供て。コイツの中では今日だけで随分と話が進んでいるようだ。子供はおろかそういうことをしたことも、そもそも付き合ってすらないというのに。そういえばさっきも結婚がどうとか言ってたっけな。


 まあそれだけ、覚悟というか。そういった類のものは、とっくの昔から固まっていたということなのだろう。相変わらず溺愛してくれているようで何よりだ。


 この遠出デートを流れで提案してしまった時は一体どうなるのかと気が気じゃなかったもんだが。終わってみれば、ただひたすら楽しんだように思う。


 喫茶店から始まり、食べ歩きにショッピング……そしてやはり一番は、忍者ミュージアム。


 くノ一の映画を見れなかったことだけは少し心残りだけどな。まあそれを差し引いても有り余りすぎるくらいには楽しかった。


「あ、そういえば。話は変わるけど」


「ん?」


 左腕は未だ俺の腕に巻きついたまま。三葉は何かを思い出したかのようにショーパンのポケットを右手で漁り始めると、小さな袋を取り出して言う。


「これ、どうする?」


「……ああ。それのことか」


 その袋の中身は、忍者ミュージアムでのお土産だ。


 と言っても、それは両親や友達に対してのものではなく。俺たち宛の、いわば思い出を形に残すという意味での買い物である。


「しゅー君とのお揃い♡」


「なあ。やっぱり普通、こういうのって色違いを買うもんじゃないのか?」


「同じ色の方が一目でお揃いって分かっていい。それに他の色は微妙だった」


「左様で。ま、三葉がいいならいいけどさ」


 袋から取り出されたのは、二つのキーホルダー。


 忍者ミュージアムのお土産で手裏剣のキーホルダーとはなんともベタだが……。三葉にお揃いで付けたいと言われ、正直俺もまんざらではなかったのだ。


 ただ、驚いたのは購入しようとしていた二つがどちらも全く同じ形同じ色の同一商品だったこと。


 一番スタンダードな黒以外にも青やピンク、緑等々カラーバリエーションは大量にあったというのに。この通り、三葉がどうしてもと言ったもんだからな。つい流されてしまった。


「しゅー君はどこに付けるの? スマホ? お財布?」


「そうだな……。スマホや財布にはストラップ付けたら邪魔に感じそうな気がするし、家の鍵か学校の鞄あたりが有力候補だな」


「なら学校の鞄にするべき! 二人でお揃いを付けて見せつけ!!」


「……そう言われると嫌になってきたな」


「なんで!? こういうのは周りに見せつけてなんぼ!!」


 お、おぉ。グイグイ来る。


 まあ三葉にお揃いキーホルダーなんてものを与えたらそりゃ、こうなるか。


 見せつけ……ね。もうそんなことをする必要はこれっぽっちも無いと思うんだけどな。


 なにせ元々曖昧な扱いにされていた俺たちの関係は、この間の中山さんとの一件で完全に″恋人同士″ということで周りから確定されてしまった。


 つまり、今更アピールするまでもないのである。まあ正直なところコイツの場合は周りへの威嚇や牽制というより周りに″見せつける″ことそのものが目的だろうから、言っても聞かないだろうけど。


「うーん……じゃあ、前向きに検討するという方向で」


「(((o(*゜▽゜*)o)))」


 何はともあれ。こうして、初めての遠出デートは幕を閉じていく。


 このまま電車に揺られ、しばらくしたら最寄駅で降りて。あとはのんびりと家まで歩いて帰るだけーーーーの、はずだったのだが。


(今日は本当、楽しかったな……)


 ″それ″は、突然やってくる。




 俺の身に大きな変化が訪れるまであと、十分。


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