「へ……?」
みるみるうちに顔が真っ赤になっていく三葉を横目に。思わず声が漏れる。
ずっと自分だけを見ていてほしい。そんなのまるで……
「えっと、告白?」
「こ、ここ告白ならもうしてる! 今のはそうじゃ無くて……っ!」
だ、だよな。告白どころか、俺たちもうすでに(仮)とはいえ付き合ってるんだもんな。
「しゅー君!」
「は、はい? なんでしょう?」
「私はきっとーーーーいや絶対、世界で一番しゅー君のことが好き! だから、その。えっと……」
きっと三葉自身も、自分で自分が何を言おうとしているのかまだ整理がついていないのだろう。
だからこうやって、漏れ出るように言葉が飛び出す。″嫉妬″という純粋な感情だけが、コイツを動かしているのだ。
「こ、こんなにしゅー君のことを愛してて、可愛くてしかも強い忍者な彼女さんなんて他にいない、から。そ、それに……」
「それに?」
「……その人たちほどじゃないけど、おっぱいも……ある。さ、触れないダイナマイトよりも、触れるDの方がいいはず!」
そしてこんな、爆弾発言まで。
そうか。Dなのか。高校一年生というまだまだ伸び代のある時期でD。しかも触れる、D。
……なんだろう。誘惑するのやめてもらっていいですか? そんなこと言われたら本当に触っちゃいますよ? その押し付けてる柔らかいの、一揉みしちゃいますからね??
SSS級美人の彼女さんにそんなことを言われて興奮しない男など、存在するはずも無い。もはやデータなど無くとも分かる当たり前のことだ。
だから本当に、俺たちが真の意味での恋人同士だったなら。手を出してしまっていたかもしれない。
(仕方のない奴だな。ほんと)
本当の恋人で……そして、三葉が錯乱した状態でなければ、な。
「だからーーーー!」
「よし、そこまで」
「ひにゃっ!?」
ぽむっ。まだまだ暴走が止まりそうにない三葉を諭すように。頭の上に手のひらを大きく広げ、軽く力を込める。
撫でるのとは少し違う。どちらかといえば大きなスイッチを押したようなイメージだろうか。
三葉は何が起こっているのか分からないといった様子で、数秒フリーズして。その後ゆっくりと、視線をこちらに向けてくる。
「きゅ、急に、なでなで?」
「違う。これはお前を落ち着かせるためのあれだ」
「……落ちついてる。私はいたって平常!」
「いーや落ち着いてないね。お前が一番よく分かってるだろ」
「っ……!」
いい反応だ。図星だということをしっかり認めた証拠だな。
全く、何をそんなに焦っているんだか。
そんなに不安だったのだろうか。まあ確かに俺たちはまだ恋人(仮)だし、三葉からすればいつも誰かに取られてしまうかもしれないという漠然とした不安感があったりするのかもしれないが。
ただ、な。
「まあでも、あれだ。そんなに不安なら別に、約束くらいしてもいいけどな」
「えっ? そ、それって……」
「だからあれだよ。……なんか改めて言うの恥ずかしいな」
俺にはこれまで、女の影なんてこれっぽっちも無かった。
そしてそれはこれからも。俺なんかを好きになる物好きはきっと、三葉くらいしか現れない。何かのバグでいたとしても、もう俺と三葉が付き合っていることはかなり大々的に知れ渡ってるからな。それを知っていてもなお、なんて。青春漫画顔負けな展開にもなることはないだろう。
大体なったとしても、だ。正直……三葉以外をそういう目で見れるかというと、答えは限りなくノーに近い気がする。
本当に面倒な幼なじみを持ってしまったものだ。
全てはコイツのせい。コイツが、俺の中の女子の基準レベルをめちゃくちゃ押し上げてしまったばっかりに……。
「い、一応俺はお前の彼氏、だしな。お前しか見ないよ。……って、わざわざこんなこと言わなくても、元々目移りするような相手なんていないんだけどな」
可愛くて、俺の前ではとても甘えんぼで。スタイルも良く、何より俺のことをこれでもかというくらい好きでいてくれる。あと一応忍者で強い。
本人も豪語していた通り、三葉以上に俺にとって魅力的に映る女子などこの先、多分現れない。
俺は恵まれている。生まれてからずっと一緒にいる″幼なじみ″という存在がここまで最高な相手なんて事例、世界中を探して一体何件見つかるのだろうか。
「……そっか。えへへ」
「ご満足いただけましたか?」
「ん。これ以上ないくらい」
「お、おぉ。そんなにか」
「ふふっ。だって、世界一大好きな人が私以外の女の子には絶対目移りしないって宣言してくれたんだもん。これはもう結婚しかない」
「話がめちゃくちゃ飛躍してませんかね!?」
「? 何か違った?」
「いや、俺らまだ恋人としても(仮)だからな!? け、結婚て!」
「安心して。しゅー君は私が幸せにする」
「そ、それもなんか……っ! はぁ。もういいわ」
「結婚してくれるってこと? じゃあ早く十八歳になってね♡」
「ほんと、無敵かお前は……」
どうやら完全に不安感は消え、大変満足したらしい三葉さんはそうしてハートマークの愛を振り撒くと、好感度百二十パーセントで愛を囁く。
そして忍者ミュージアムが閉園するまでの一時間半。
それはーーーー途絶えることがなかった。