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第30話 魅惑の展示

「・:*+.\(( °ω° ))/.:+」


(楽しそうだなぁ……)


 なあ知ってるか? これでも中学では、無表情で近づきづらいだの、怖いだの言われてたんだぜコイツ。


 それがどうだ、この表情。新しいおもちゃを買ってもらった直後の子供みたいにキラキラしてるぞ。


「生の忍び六具……。かっこいい!」


「六具、ってことは、これが忍者の基本装備みたいなことなのか?」


「ん! 言わばこれは忍者のスターターセット!」


「へぇ……」


 確かに、展示の横の解説板にも同じようなことが書いてある。


 被ることで中に文書を隠したりすることを目的とした「編笠」、火を使うための「火種」、顔を隠すための「三尺手拭い」等々。確かにコイツの言った通り、そのどれもが忍者の隠密活動に必須そうな物だ。


「お、この印籠ってあれじゃないのか? これが目に入らぬか! みたいなの言うやつ」


「正解。流石しゅー君」


「よっしゃ」


 まあ言っても、ドラマ自体は見たことないんだけどな。


 たしか台詞としては印籠ではなく「紋所」、とかだったか? へぇ。これって薬とか入れるケースだったのか。なんだかお酒を入れるスキットルみたいで、正直かなり男心がくすぐられる。


「しゅー君もこのかっこよさが分かるみたいでよかった。小さい頃から英才教育を施してきた甲斐がある」


「え、英才教育て。男はみんなこういうのに唆られるもんなんだよ。これはあれだ、本能ってやつだな」


「ん、その本能欲しい。ちょーだい」


「初めて聞いたわそんなフレーズ。安心しろ。お前にはもう充分すぎるくらいその本能は備わってるから」


 高校生になっても自分の好きなものが全くブレることなく、ここまで目を輝かせられるのだ。俺なんかよりよっぽど、コイツの方が男心に近い感性を持っているのだろう。頼むからずっとそのままでいてほしいもんだ。


「ふふっ。そんなに褒めても何も出ない」


「褒め……まあ、うん。喜んでくれるならそれだけでいいですよ俺は」


「彼氏さん、かっこいい。ぎゅっ、てする」


「何も出ないって言ってませんでしたかね……」


「特別サービス。私の彼氏さん限定」


「ああ、そう」


 ぎゅっ。その言葉通り身体を寄せ、柔らかいものを押し付けながら。改めてショーケースの中の忍具に視線を落とした三葉は、うっとりとした様子でそっとガラスに手を置く。


 本当、どれだけ好きなんだか。


 綺麗な横顔を見せられ、思わず笑みをこぼしながら。俺も同じようにして、目の前の古びた道具を眺め続ける。


 できれば手裏剣や苦無以外にも、こういう道具を作ってやれればいいのだが。


 ある程度手先が器用な自信はあるが、ここまでとなるとどうだろうか。いつものように材質を紙や木材に頼っているようじゃ、多分ここまでの物は出来上がらない。こういうのはやはり金属製で重厚感があればあるほどカッコよくなる気がする。


 って考えると……やはり厳しいか。


 いくらなんでも金属加工まではできない。そもそもそういうのって何も資格の無い個人がやったら法にまで触れてしまいそうだしな。


 心の中で諦めをつけつつも、一応何かの参考になるかもしれないと写真だけを撮り、三葉と共に次の展示へと向かう。


 気合を込めて作られていたのは外観だけではなく、この建物全てだ。まるで観光名所のお寺に来た時のように靴を脱いで廊下を進んでいくスタイルのここでしばらくまっすぐ奥へと進んでみると、次に現れたのは忍者おなじみと言っても過言では無い、武器の数々。


 そして、流石は忍者の象徴とも言える展示。他のお客さんたちもみんなそこで足を止め、キャッキャキャッキャと盛り上がりながらシャッターを切り続けている。


「やっぱ外人さん多いなぁ。あと子連れも。高校生なんて俺らくらいか」


「外人さんは中々見る目がある。語り合いたい」


「やめとけ。お前英語壊滅的なんだから」


「っ!? しゅん……」


「ああごめん。つい本当のことを」


 三葉は残念ながら、あまり勉強ができる方ではない。


 そしてその中でも英語はとびっきりだ。高校受験の時それはそれは教えるのに苦労した。


 忍者という日本文化に脳を焼かれ過ぎたせいだろうか。どうやら本人曰く″体質的に″英語を受け付けないらしい。なんともまあこの先かなり苦労しそうな体質だ。


「まあまあ。とりあえずあれでも見て元気出せって」


「? ……わぁっ!? もしかしてあれ、手甲鉤!?」


「お、おぉ? 当たり前のように名前知ってるのな」


「それに握り鉄砲、こっちは角手に猫手!!」


「いてっ、いでで。引っ張るなって。ったく……」


 三葉が簡単に元気を取り戻して舐めるように見ているそれらは、分かりやすく殺傷力の高そうな武器たち。


 見た目の特徴を簡潔に言うと、手甲鉤は五本の大きな爪のような刃物がついたウ◯ヴァリンみたいなやつで、角手と猫手はそれぞれ指に嵌めるミニ刃物といった感じだ。


「やっぱり武器は良い。かっこよすぎる……」


「ゴリッゴリの刃物眺めながらうっとりしてるの、犯罪臭凄いな」


「欲しい……。チラッ、チラッ」


「そんな目で見られましても」


 いや、うん。手甲鉤はともかく、他のなら作れんことはないんだろうけども。


「作ってもいいけど、安全仕様にするからな」


「んっ! 大丈夫、それでいい!」


「まあそれなら……考えとく」


「やった!」


 まあ、今までも忍具を悪用はしてこなかった三葉のことだ。



 大丈夫だろ。……多分。


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