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第24話 恋人繋ぎ

『まもなく〜終点〜河川町〜〜河川町〜〜』


「しゅー君しゅー君しゅー君♡♡」


「暑い暑い暑いッッ!! いい加減離れろぉ……ッッ!!!」


 三葉の甘々イチャイチャ攻撃を喰らうこと、数十分。


 初めはかなりドキドキさせられ、正直色々とヤバかったのだが……。


「ほら、もう終点だって! 電車止まったぞ!」


「ん、もう一周。とりあえず反対側の終点についてからもう一度戻ってくればいい」


「それ犯罪だからな!?」


 今はもう、この有様である。


 まだ四月だというのに、ゼロ距離であつあつの身体を擦り付け続けられたせいで暑すぎて堪らなくなり、ついには初めの方に感じていたあれやこれやも消えてしまった。


 とうの三葉さんはまだまだくっついていたいようだが、このままでは俺の身が本当の意味で危ない。意地でも引き剥がして電車を降りなければ。


「むぅ……。どうしてもダメ?」


「ダメなものはダメだ! ほら、早く降りるぞ!」


「はぁい……」


 せっかく良いところだったのに、みたいな顔しないでもらっていいですかね。俺の中での良いところはもう結構前に終わってるんですよ。


 ぷくっ、と少しだけ頬を膨らませる三葉の手を引き、そのまま電車を降りて駅のホームへと立つ。


 河川町。俺たちの乗っていた本線の終点駅であるここは、様々な観光地にあたる場所の最寄駅だ。


 そのため当然のように週末の今日は人が多い。見渡す感じ外国人の人も結構いるみたいだ。


「で、最初の目的地はどこだよ?」


「えっと……確か駅を出てすぐだったはず。マップ開くからちょっと待って」


 スマホを開き、慣れた手つきでマップアプリを開いた三葉は、とととっ、と目的地の名前を打ち込み、ルートを表示させる。


「まずはモーニング。ここら辺だとこの喫茶店が一番有名らしい」


「へぇ。星空コーヒー……か」


 生憎と俺はそういうのに疎いから店名は聞いたことないが、確かに店の写真を見る感じ「ザ•喫茶店」って風貌だな。


 モーニング……にしては少し遅い時間な気もするけれど、まあ細かいことは気にしないでおこう。朝からまだ何も食べてなくてお腹自体は空いてるしな。


 マップでの確認が終わり、約五十メートルの単調なルートを頭に入れた三葉はスマホをポケットにしまって、俺の方に手を伸ばす。


「ん」


 繋げ、ということだろうか。すました顔して目力が強すぎる。


「圧が凄いなぁ」


「早くっ」


「はいはい」


 まあ普段、登下校する時は俺が恥ずかしいからという理由で基本的に手繋ぎは断ってるしな。今日くらいはいいか。


 人こそ多いものの、クラスメイトやその他生徒共に見られない分ここでなら気分的には随分とマシだ。


 そう考え、差し出された手を握ったのだが。


「……あの、三葉さん? なんで不満そうなんですかね」


 喜んでもらえるだろうという予想とは一転。三葉はさっき電車を降りた時同様、少し不満そうな表情を見せて目元に力を込めている。


 何か問題があっただろうか。言われたとおり繋いだだけなんだが……。


「しゅー君。今日はデート」


「え? あ、おお。分かってるけど」


「なら、私がしたいのがこの繋ぎ方じゃないのも分かるはず」


「……ああ、そういう」


 なるほど。そういうことか。


 俺は差し出された手をそのまま握った。普通の、ごく一般的な繋ぎ方だ。


 だが、三葉が求めていたのはそれではない。


 今日は普段と違い、恋人同士としてのデートなのだ。そしてこの世には恋人関係にある男女のみがすることを許される″特別な繋ぎ方″というものが存在している。


 即ちーーーー恋人繋ぎである。


「けど、あれって結構恥ずかしくないか? たとえ周りに見知った奴がいないと分かっててもさ」


「ん」


「見た奴全員に俺たちカップルですって名乗るみたいなもんだぞ?」


「ん゛っ!」


「……はい」


 三葉の強すぎる圧に負けて。俺は一度繋いでいた手を解くと、改めて繋ぎ直す。


 あまりに細い五本指の一本一本、全てに交互に自分の指を挟んでいき、最後には開いていた指の隙間を閉め、完全にお互いの指で埋めあって。


 そうして深く、俺の右手と三葉の左手が結ばれた。


「これが、夢見てたしゅー君との恋人繋ぎ……」


「お気に召したか? って、聞くまでもないな」


 さっきまで纏っていた怖いオーラはどこへやら。繋いだ手を見つめる三葉の目から、キラキラとした光が零れ落ちる。


 まあ、うん。これだけ喜んでくれるならいいか。普通に恥ずかしいけど、カップルは何も俺たちだけじゃないしな。よく見渡せば恋人繋ぎでイチャイチャしながら甘々オーラを振り撒いてる奴なんてそこら中にいる。これなら俺たちだけが悪目立ちすることもないだろう。


「ほら、とっとと行くぞ。今日はスケジュール詰まってんだろ?」


「わ、分かってる。分かってる、けど……もう少し余韻に浸りたい、かも」


「浸るな浸るな! せっかく気にしないようにしてる恥ずかしさがまた湧き上がってくるから!!」


 嬉しすぎるあまりなのか、一度目をキラキラさせたあとは少しぽーっとして繋いだ手を見つめ始めた三葉を現実世界に引き戻し、改札を通る。


 第一の目的地、星空コーヒーは駅の西出口を出たところ。




 このまま行けば、すぐだ。

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