三葉の考えたデートプランには、電車とバスでの移動が必須である。
遠出デートと謳うだけあり、やはりそれなりの距離があるらしく。まずは最寄り駅まで歩いて向かい、そこから電車に乗ることとなった。
「あそこ、空いてる」
「座るか」
「ん」
週末だというのに、意外と電車内に人は少なかった。
まあ言っても朝だしな。いるのはおじいちゃんおばあちゃんや子供を連れた家族が少し、あとは俺たちのような私服の学生らしき奴らが数人くらいなもの。
そのおかげで、ちょうど二人組の背もたれ付きな席を確保できた。後々電車内が人で満タンになることもまあ無いだろうし、これなら目的地までゆったりと座っていられそうだ。
「第一の目的地まではこの特急で一本。大体一時間かからないくらい」
「ってことは……終点らへんか」
「正解。せっかくの遠出だし、思い切ってみた」
開通している電車の一本線上における終点駅。一見すればさほど遠出とも感じない人もいるだろうが、日帰りとしては充分遠出の部類だろう。
窓から外を見ると、俺たちの見知った街がすぐに見えなくなり、知らない住宅街やお店の横を通り過ぎていく。気分はちょっとした冒険だな。
「本当……電車が空いててよかった」
「? まあ確かに、終点まで立ったままはちょっとしんどいもんな」
「……違う」
「へ?」
窓の外を眺める俺に向かってそう呟いた三葉は、気づけば拳二つ分は空いていた二人の隙間を物理的に詰めていて。ショートパンツからさらりと伸びる真っ白な太ももが、俺のものとぴったりと密着する。
「もう、デートは始まってるから」
「〜〜っ!?」
ふわりと甘い匂いが鼻腔をくすぐり、太ももだけではなく上半身までもが密着し、腕に巻きついていく。
「今日の服装……どう? 一応、気合い入れてきたんだけど」
「えっ、あ……」
当然ながら。今日の三葉はいつもの制服姿ではない。
白色の無地の服の上から黄色みのあるパーカーをだぼっと羽織り、下は素足の見えるショートパンツ。
一言で言うと、「三葉らしい」服装だ。
そして……なんと言っても可愛い。
薄地のシャツや短いショートパンツでそのスタイルの良さを強調しつつ、それでいて大きめの服を羽織っていることで完璧にバランスを保ったファッション。
三葉の元々の顔やスタイルの良さも相まって、最高に美少女だ。
「か、可愛いと……思います」
「ならよかった。好きなだけ見惚れてメロメロになってね」
「っ……」
落ち着け。惑わされるな。
確かに? いつも以上に可愛いのは認めるけども? 見惚れてメロメロだなんて。いくらなんでも俺はそこまでチョロくないぞ。
「しゅー君も、今日を楽しみにしててくれたの? いつもより服に気合がこもってる気がする」
「えっ!? い、いや俺は。いつも通りだよ」
「ふぅん」
むぎゅっ。ぎゅ〜〜っ。
腕に巻きついていた三葉の身体が更に俺の方に寄り、俺を窓際の一番端へと追いやってそれでもまだ、密着度を高めていく。
もう色々と柔らかいものは当たってるし、いい匂いがしすぎておかしくなりそうなのだが。そんな俺の気持ちも知らずに、耳元で。三葉は呟く。
「いつも通りのしゅー君でも……かっこいい」
「……」
思わず叫びそうになるのを、太ももをつねることで無理やり抑え込む。
だが、三葉の攻撃は止まらない。
「かっこいい。好き……大好き。もっとぎゅっ、てしたい」
「おま、やめっ……落ち着けって……」
「身体、火照ってきた。ほら。私の手、どんどん熱くなってる」
「んぐぁぁ……ッッ!!」
三葉の冷たい目にハートマークが浮かび、とろんと力が抜けて。好意全開の百パーセント甘えんぼモードのスイッチがオンになると、溢れ出る俺への好き好きオーラが止まらない。
体温も上がっているのだろう。押し付けられた身体から発せられる熱を感じるのはもちろんのこと、そっと俺の左手に重ねてから絡めてきた指の一本一本、そしてその手のひらが甲に触れた途端、俺の方まで吊られて心拍が上昇していく。
当然、熱いものに触れているからというだけじゃない。
ーーーードキドキさせられてしまっているのだ。
「ん。しゅー君の身体も、ちょっとずつ熱くなってきた。きっと私の送った好き好きパワーが身体中を巡ってる」
「へ、変なパワー送らないでもらっていいですかね」
「溢れ出ちゃったものは仕方ない。私を見惚れさせてメロメロにしたしゅー君が悪い」
「関係入れ替わっちまってるじゃねえか」
「私がしゅー君にメロメロなのは元々。そして今日が終わる頃にはきっと、両想いになってる」
「好き勝手言いやがって……」
三葉の考えたデートプラン一つ目は、どうやらこれだったらしい。
よく小学生の時に「遠足は帰るまでが遠足」なんて言われたものだが、口にはされなかっただけで、行き道もまた遠足。即ちデートが始まるのは目的地についてからではなく、家を出たその瞬間から。
三葉はまさに、その考えを体現していた。
目的地に着くまでの数十分。見事に二人席の窓際で捕獲された俺はもう、逃げられない。思えばさりげなくこちら側に座らされた時から術中だったのだ。
(これが、終点駅まで続くのか……?)
まだまだ、電車は走り始めたばかり。
「もっとくっつこ? しゅー君♡」
可愛すぎる彼女の猛攻は……留まるところを知らない。