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第21話 救出、そして

「ぷひゃーっ! アイツ……ははっ、はははっ! 大声で何言ってんだ!?」


「「「「コロスコロスコロスコロス」」」」


 ああ、クソ。やっぱり死ぬほど恥ずかしい。


 少しやりすぎたか? いやでも……効果は出てる。


 雨宮の笑い声とその他クラスメイトたちの悍ましい気配を感じ取りながら。真っ直ぐな視線を中山さんにぶつける。


 これは言わば熱と熱のぶつけ合いだ。


 中山さんの部活にかける熱と、俺がこの場で見せる虚構のイチャイチャに対する熱。


 普通に考えれば中山さんの圧勝だ。なにせ俺のは、そもそもでまかせでしかないのだから。


 でも、俺にはアドバンテージがある。


「でー……と?」


「そうですよ。デートです。部活に入っちゃったら、土日に遠出のデートだってできなくなるでしょう?」


「ちょ、何言ってんの!? そんなのより、佐渡さんならきっと部活で結果を出したほうが……。ね、そうだよね澪ちゃん? ……澪ちゃん?」


「アッ……アッ……」


 とても褒められたことじゃないが、仕方ない。


 よかった。俺の中の想定はしっかりと当たっていたようだ。


 俺が中山さんに狙いを絞ったのには、もう一つ理由がある。


 推薦を貰って強豪の部活がある高校に入部できるほどの実力。それを身につけるために、一体彼女はどれほどの時間を注ぎ込んだのだろう。


 中学三年間……いや、もしかしたらもっと前から。走ることに人生を捧げてきたこの人ならきっと、これだけ顔が整っている美人さんだとしても恋愛経験なんてないはず。


 そう踏んで、心に刃を突き刺した。


「…………きゅぅ」


「へっ!? ちょ、澪ちゃん!?」


「み、みみ澪ちゃんが倒れたぁ!? うわ、身体あっつ!?」


 すると中山さんはみるみるうちに顔が赤くなり、そのままぼふんっ、と身体中で膨れ上がった熱が小さな爆発を起こして。


 茹蛸のようになりながら、その場に倒れた。


 まさかここまで効果があるとは思わなかったが……まあ、うん。結果オーライだな。


「でぇと……いちゃいちゃ……あまあまじゅんじょう……」


「な、なんかやばくない!? 保健室連れてかないと!」


「アンタ……覚えてなさいよっ!


「ははは」


 そんな分かりやすい三下の台詞をまさか直で聞く日が来るとは。思いもしなかったな。


 中山さんには悪いことをした。まさか倒れてしまうまでいくとは。ここからは勢いでなんとか押し切れたら、くらいに思ってたんだがな。想像以上にそういったことに対して耐性が無かったようだ。


 そうして。俺たちを囲んでいた女子たちは一部が中山さんを保健室に連れていくため教室から出て行き、残りも次第に解散していった。


 やがて男子が入ってくると、完全にさっきまでの騒ぎは鎮静化されて。俺にヘイトを向ける奴から鋭い視線は刺さりまくったものの、結果的に全員がホームルームに向けて席についていく。


「よぉ王子様。お疲れぃ」


「ニヤついた顔で言うな」


「ニヤつきもするだろー。あーんな面白いもん見せられたんだからよ」


「うるせぇ。諦めさせる方法があれくらいしか浮かばなかったんだよ」


 全く。雨宮が俺を一人で行かせず、一緒に来てくれていれば。もう少しこう、マシな解決策もあっただろうに。


 思えば所詮はただの勧誘だ。やはり少しやりすぎだったし、ここまで頑張ることでもなかった気が……。


「ほら、三葉もいつまでくっついてんだ? とっとと席に……って、なんだよその顔」


「……」


 そして更に。その後悔を加速させるかのように、俺がここまでして助けた彼女さんは嬉しそうにするわけでもなく、かと言って感謝している様子でもなく。


 とても分かりやすく、頬をふぐのように膨らませて。不満を露わにしていた。


「あの、なんでそんな顔してるんですかね。一応ご希望に沿ってちゃんと助けたつもりなんですけど」


「……ない」


「なんだって?」


「……土日に遠出デートなんて、連れてってくれたこと、ない」


「……」


 ぷいっ、とそっぽを向きながら呟かれた言葉に、思わずクソデカため息を吐きそうになって。すんでのところで飲み込む。


 コイツ、助けてもらっといて……。いや、確かに連れてったことなんてないけども。


 だって俺たち、そもそも付き合ってまだ一ヶ月も経ってないし。そりゃあ元々が幼なじみなわけだからまだ遠出デートできるほど関係が進展してないとか、そういうわけじゃないとはいえ、だ。


 一番に気にするところ、そこなのか……。


「おいおい、私の彼女さんにそんな顔させてていいのかよ王子様。あそこまで言っといて、なあ?」


「雨宮君の言うとおり。嘘はよくない」


「……分かった。分かったよ」


 仕方ない。少々気に食わない部分はあるが、飲み込もう。


 確かに俺たちは仮にも恋人同士。遠出デートの一つくらい、な。


「今週末に連れてく。行く所は三葉が決めていいから。それでいいか?」


「〜〜っ! ん! んっ!!」


「ははっ、すげ。分かりやすくテンション感変わった」


 ぱあぁっ。目が光り輝いていくとともに、三葉の身体は喜びの光オーラで包まれていく。


(……はぁ)



 次回。遠出デート編。

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