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第八十一話【帰って来たドナベさんな模様】

「人形の頭の検査が漸く終わったから返しに来た。なんせ、大魔王の一部だ。危険が無いか念入りに調べてたから時間が掛かったらしい」

「それは分かったけど、何でトムが?」

 私と一番付き合いの長い男子生徒ではあるが、一般学生であるトムにこんな危険物を任せるのは明らかにおかしい。いくら、王家の人達が無能でも、それは公爵家と比較した場合の話であり、彼らには一応の常識はあるはずだ。

「トム、この風呂敷の中身はね。忘れたお弁当届ける感覚で返すものじゃないんだけど」

「知ってる。陛下から説明を受けたからな」

「…ゑ?」

 一国の王が、平民の学生に直に頼み事?

「トム、嘘は止めてよ。アンタみたいなモブが国王から直接話をされる訳無いじゃない。あ、私は大魔王倒したから例外だよ?」

「そうだな、嘘はもう止めよう。陛下からも話しておけと言われている」

 トムは風呂敷を机の上に置くと、私に向かって頭を下げた。

「今まで黙っていてすまなかった」

「何が?」

「俺は本当は陛下が送り出したスパイだったんだ」

「スパイ?」

「この国で最も強い影響力を持つフリーダ様が王家にとって益となるか害となるかを探る為に、彼女と同い年のスパイを何人か入学させていた。その一人が俺だ」

「…ふーん」

 私の反応は、私自身が驚く程に淡白だった。いや、驚いてはいますよ?トムが王家の放ったスパイだったとか、普通ならおどろ木ももの木さんしょの木ですよ?でも、こちとら悪役令嬢が味方で養父がテロリストで母が魔王で殺した妖精が生きててブ男が伝説の勇者で相棒が大魔王という事実を乗り越えて来たカトちゃんですよ?完全に感覚が麻痺して、何にも感じなかったのだ。

「ふーんって…それだけか?もしかして、俺の正体にとっくに気付いてたのか?」

「ううん、色々あったから、トムが国家の犬だったぐらいじゃ何も感じなくなっただけ。でも、悲しいなあ。結局トムも私の友達じゃ無かったんだね」

「確かに、お前を庇ったりしてたのは、捜査に便利だったからだが…今では本当に友達だと思ってる。スカートの中を覗いた責任もあるしな」

「あ、それ私に変身したボンゴレ」

 私があの事件の真相を告げると、トムは顔を真っ赤にして怒った。

「それなら、早く言え!」

「色々あって、あの場では言えなかったの!お互い様って事で水に流そう!」

「分かった分かった。じゃあそれで貸し借り無しな。そんじゃ、卒業式にまた学校でな」

「おけ」

 ムッシーの頭が入った風呂敷を置いてトムが去ると、一連のやり取りを見ていたグロリアが呆れた顔をしていた。

「ホント、ニンゲンって嘘付きだらけよね。特にアンタが関わるニンゲン、大体がとんでも無い秘密を隠してるじゃない」

「グロリアが大好きなスグニだって私に嘘付いてたよ?」

「テリウスは違うわよ。アンタ達が彼自身を見ようとしなかった結果じゃない。確かにテリウスは正体を隠していたけど、聞かれさえすれば正直に話す気だったのよ」

 確かに、スグニの行動の数々を振り返ると、察して欲しいオーラが出まくっていた気がする。まあ、それが私達を不快にして余計に距離を取らせていた訳だけど。

「じゃ、今度こそアタシ帰るから。ソイツと二人きりで色々と話したいでしょ?」

「うん、またねグロリア」

「グロちゃんって呼びなさいよ…」

 トムもグロリアも去ったのを確認した私は風呂敷の結び目を解き、両目を閉じてピクリとも動かないムッシーに話し掛けた。

「ムッシー、アンタが言っていたベストエンドの流れ、大体その通りになったよ」

 私はムッシーに話し掛けるが、ムッシーは何も答えない。

「これで全部終わったんだと思うと、ちょっと寂しいよ。最近特にそう思う様になったんだ。魔王を倒してから最後の隠しダンジョンが見つかるまでの間もそうだったけど、今度はそれに輪を掛けて脱力感に襲われてる」

 ムッシーは私を無視し続けている。

「アンタに振り回されてる間、大変だったけど、凄い人達と友達になれた事には感謝してる。そう、公爵令嬢や辺境伯令息なんて、普通話し掛ける事も出来ない存在だもんね」

 ムッシーは、ただそこに居るだけだった。それでも私は話し続けた。

「でも、全部解決したら皆が私から離れて行った。卒業後の進路で忙しいのは分かるけど…、大人になったら、もうフリーダさんとは二度と会えないと思う」

 ムッシーは微動だにしない。私は飲み物を二人分持ってきて、一方的に話し続けた。

「それでね、ゲームのイベントとは関係無く友達になれたと思った人もちょっとだけ居たけど、その人達も友達とは違う存在だった」

 私はムッシーの唇を指で持ち上げ、ストローを咥えさせた。ムッシーの頭とコップを上手く傾けると、ストローを通して飲み物が口の中へ入って行く。

「寮母さんも卒業したら他人だし、男爵様も貴族の仕事と新婚生活で忙しいから私の相手なんてしてくれないと思う。ムッシーには言って無かったよね?男爵様、エレン先生と結婚するんだって」

 口の端っこからジュースが零れそうになっていたので、テープでストローの周り以外を塞ぎ、鼻の穴にティッシュを詰め込む。ムッシーのホッペタはジュースでどんどん膨らんで行った。

「ムッシー、最後に話し相手になってくれてありがとう。それじゃバイバイ」

 口の中がジュースで一杯になって、ボールの様に丸くなったムッシーを抱えて、私は庭に出る。そして、ドナベさんの土鍋の欠片を埋めた場所の横に穴を掘りムッシーを埋めた。

「ふー、紅茶が美味しい」

 友の埋葬を終えた私は、フリーダさんから分けてもらった茶葉で紅茶を淹れて一息ついていると、ドアを激しくノックする音が聞こえて来た。

「はーい、誰ですか?」

「僕だー!」

 扉を開けると、土だらけの生首が顔を真っ赤にして宙に浮いていた。

「ちょwムッシーw生きとったんかいwワレwうぷぷぷ」

「知ってた癖に!」

「ずっと死んだフリ続けるアンタが悪い」

 そう。ムッシーは、あんな臭い芝居までして死をアピールしていたが、バッチリ生きていた。


(ホワンホワンホワ〜ン)

 あの時、おっかさんの杖をアイテムボックスへ収納するのは間に合わなかった。

 だから、私はムッシーの方を動かす事にした。

「オナラジェットー!」

 ラスボス戦前に食べたオイモ団子のおかげで、勢いよくオナラがムッシーに向かい発射される。

「クッサ〜い」

 ムッシーが入っているドナベさん人形は、とても精巧に作られており、嗅覚もしっかりと搭載されていた。

 ドンッ!

 顔を背けたムッシーは、おっかさんの杖から少し離れた所へ倒れ込み、頭から地面へ落ちた。結構痛そうな音がしたが、頭と胴体は繋がってるし、無事に生きている様だった。

「雑炊、ホントに君は、ここぞという時に変な攻略法を見つけるよね」

「ムッシー、死んで逃げるなんて、私が許さないんだから」

「…勝ったのは君達だ。好きにすれば良いさ。でも、僕が入った人形の首を持ち帰らないと、ほぼ間違いなく色々と不具合が起こるよ?」

「うん、それは困る。ちょっと待って。王国もドナベさんも助かる方法考えるから」

 ムッシーを助ける方法を考えている時、私はふと、去年の事を思い出す。そう、おっかさんと魔王の分離手術だ。肉体を分離したら死ぬ存在を救った実績が、私達にはあるじゃないか。

「ムッシー、アンタの今の体って頭に脳味噌、胴体に心臓や他の臓器が有るってイメージで合ってる?」

「うん。だから、人間同様、首を切ると生命維持のパーツが足りなくなるし、必要なコードが切れちゃうし死ぬって訳さ」

「だったら、大事なパーツとコードを全部頭へ移してから首を切れば助かるじゃない!フリーダさん、おっかさんの手術の時みたいな流れでお願い!」

「がってんですわ!」

 こうして、ムッシーの肉体改造手術が行われた。リー君がムッシーのボデーを切り裂き、必要なパーツを外へ出し、フリーダさんがリザレクションを連続でかけ続けて、手術中の命を維持させる。

「ゲゲゲー!死ぬ!コレ絶対死ぬ!助けて雑炊!」

 腹を開かれ、パーツを次々と取り外されていくムッシーは助けてと悲鳴を上げ続けているが、ここで手術を中止したらそれこそ本当に死んでしまう。私達は心を鬼にして、手術を続行した。

「おっかさん、そのコードを鼻の穴へ突っ込んで。タフガイは、心臓と肺のパーツを口の中へ」

「グエー!」

 ムッシーの悲鳴と共に、両目が飛び出す。

「あ、ボデーのパーツを無理矢理口の中へ入れたら、目玉が飛び出しちゃった。ブーン様、右目押し込んで下さい。私が左目を押し込みますから。グロリアはムッシーの口から中に入って内側から引っ張って。スグニ、アンタは全員の回復を継続」

「ちょっと!僕、ヒールレイン浴びるとダメージ入るんですけど!?フリーダのリザレクションは部品だけに掛けられてるから問題無いけど!」

 ムッシーの悲鳴が響き続ける事数時間、全員体力の限界を迎えながらも、何とか手術は終了した。

「手は尽くしましたわ。生命を維持する為のパーツは全部頭に移しましたから、理論上は首を切り離しても死なないはずですわ」

 フリーダさんの言葉を信じて首を切り離すと、その途端にムッシーの目から光が消えた。

「なんて事よ!アタシ達の手術が失敗して、ドナベさんの中の人が死んじゃったわ!ざまーみろ!」

「イキテマス」

 ムッシーの無事を確認した私達は、彼女の首を風呂敷に包み人間界へ帰る準備をする。だが、皆とは別行動を取る者も居た。

「俺様はこの魔界に残るわ。ゲーム本編では俺様とっくに死んでるって話なんだろ?」

「それじゃ、アタシも」

「グロちゃんはカトちゃんの傍に居てやってくれ。ゲーム本編とやらに少しでも近付けるなら、そうした方が良いだろ?そんじゃ皆、俺様の事は校長によろしくな」

 こうして、スグニは魔界に残り、グロリアは私の頭に乗り帰還。死んだフリをしているムッシーの生首を国王に渡して今に至るのだった。

(ホワンホワンホワ〜ン)


「いやー、大変だったよ。研究室のトップが公爵家の人だったから、死の偽装は楽だったけど、それはそれとして研究材料として昨日までみっちり調べ尽くされてたんだ」

「それはお疲れ様。話変わるんだけど、お願いが一つあるんだ」

「ん、何?君は勝者であり、命の恩人で、おもしれー女だ。どんな願いも聞くだけ聞いてやるよ」

「アンタの事…、ドナベさんって呼んでいいかな?」

 私がそう言うと、ムッシーは一瞬キョトンとした顔をした後、笑い出した。

「うぷぷぷ、君もしかして僕を友達代わりにしようとしてる?かわいそー」

「オラァ!」

 どぐちゃ!

 私の右パンチでムッシーの顔面が陥没した。

「痛いよ〜。実体があるからマジで痛いんだけど?」

「知っとるわ!いい?こちとら、アンタと付き合い続けたせいで普通の友達ゼロ人で卒業しそうなんだよ!私にはトムとプリンちゃんが居るからと余裕こいてたら、相手は友達だとか思って無かったみたいだし、全部アンタのせいなの!責任取って友達になれ!」

「でも、僕は武者小路梢であって、ドナベさんじゃないよ?」

「いーや!アンタはドナベさん!フリーダさんがフリーダ・フォン・ブルーレイ公爵令嬢なんだから、アンタもドナベさんなの!」

「いや、それとこれとは話が…」

 否定しようとして、ムッシーは思い留まり考え込む。

「そう言えば、僕は今までずっと前世の名前を使ってたよなあ。フリーダが日本人名を名乗って無い様に、僕もこの世界の日の当たる所で生きる為の新しい名前が必要なんだ」

「それを私があげるって言ってるの。アンタの名前はドナベさん。私が昔一緒に暮らしていた友達とソックリだから、あの子の名前をアンタにあげる」

「…うん、それはありがたい話だ。こんにちは、僕ドナベさんです。どう?」

 ムッシー、いや、二代目ドナベさんの挨拶は本当に初代とソックリだった。

「似てる似てる。そんな感じでこれからもよろしくね、ドナベさん」


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