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第八十話【『冒険乙女』のエピローグな模様】

 魔界から戻った私達は真っ直ぐ王宮へ向かった。

「本当に上手く行くのかな…」

 風呂敷に包んだ大魔王の首を、落とさない様に抱えながら私は呟いた。

「物語の強制力と、ムッシー様の言葉を信じるしかありませんわ。それに、失敗しても既にハーレムルートより良い展開は確定してますわ」

 そう言うフリーダさんは、私以上に緊張している様に見えた。無理も無い。これから対面するのはこの国のトップであり、それと交渉するのがフリーダさんなのだ。

「フリーダ・フォン・ブルーレイとその仲間五名、入りますわ」

「六名よ、アタシを忘れないでよ」

 私の頭の上でグロリアが、『台本通りに』文句を言う。ベストエンドの再現度を少しでも高くする為、グロリアは最初から私とずっと契約していたかの様に、頭の上に乗って貰っている。

 ギイイイイイ。

 重いドアが開き、部屋の奥に国王陛下の姿が見えた。立派な椅子に座ってはいるが、大魔王の玉座に比べると安っぽく見えるなと思ってしまった。

「フリーダよ、魔王の上に大魔王が居て、お主らがそれを倒したというのは本当か?」

「はい、こちらの妖精に選ばれし者、カトリーヌン・ライスと共に魔界への道を進み、敵の総大将を討ち取りましたわ。首と降伏の文書をこちらへ」

「は、はい」

 私は風呂敷に包んだムッシーの頭部、それと魔界の人達に書いてもらった降伏の意思を記した文書をフリーダさんに渡し、それがそのまま国王へと渡された。

「ふむ…」

 国王は降伏条件に目を通した後、風呂敷を広げムッシーの頭を確認した。

「これが大魔王の首か。余には人形の頭部にしか見えぬ」

「間違い無く、私達が倒した大魔王の首ですわ。何度も変身を繰り返し最後にその姿となったのを、ここに居る全員が目撃しましたわ」

 全員が頷くのを見て、国王はそれ以上の追求を止めた。

「フリーダよ、よくやってくれた。思えば、ここ十年近くお前に助けられてばかりだな。世間では、余に代わりお前が女王として君臨すべきとの声も多く聞こえる。どうじゃ?余の息子と結婚し王妃にならんか?」

 フリーダさんが王妃に。その提案が出たと言う事はベストエンドが順調に進んでいる証拠だ。私は息を飲み、フリーダさんの返事を待つ。

「陛下、私には既に婚約者がおりますので、王太子殿下の妻になる事は出来ませんし、この国の主権を簒奪するつもりもたりませんわ。陛下がそこにあってこそ、私は民の前で力を尽くす事が出来ましたわ」

「だが、公爵家の人気は最早王家を超えておる。余は国を乱したくは無いのだ」

「ならば、私と婚約者を引き裂き、無理矢理王太子殿下と婚約させたら、それこそ王家は人々の信頼を失いますわ。私を王家に組み入れたいのなら、私と婚約者の間に出来た子を、次世代の王族と結ばせれば良いのですわ」

「…そうだな。そうするしかあるまい。では、お主らが結婚する時は、余が盛大に祝ってやろう」

「感謝いたしますわ、陛下」

「陛下自らの祝福、このブーン・フォン・アークボルトも感謝の極みでございます」

 国王はフリーダさんを息子の嫁にするのを渋々諦めた。これから数十年は王家は人々から舐められるのが確定したが、王国内の大きな問題の殆どを公爵家が解決してしまっていたから仕方の無い事だろう。

「さて、フリーダと共に魔界まで出向き大魔王を倒した者達よ、お主らにも褒美を与えよう。好きな望みを言うが良い」

「それじゃあ、ここは年長者の私から」

 おっかさんが前に出て、国王に願いを言う。

「今回の功績は、爵位を貰えてもおかしく無いぐらいの大手柄ですが、ここに居る者達は私を含め貴族なんて柄じゃ無いのばかりです。そこで、お願いがあるのですが、一昨年にスタンピードに関与し爵位を失ったゲオルグ元男爵に再び爵位を与えて貰えないかなって…ダメ?」

「うむ、その願い、必ず叶えよう」

「しゃあっ!勇気出して言ってみて良かった〜!この王様気前いいわよ。君達も遠慮せず言ってみなさい!」

「分かりました。では次は僕達が」

 おっかさんに続き、リー君とタフガイが前に出て願いを言う。

「陛下、私からの願いはただ一つです。これからもラオ商会との取り引きをどうか宜しくお願いします」

「王様!オレはよぉ、仕事の少なくなった冒険者達の為にでっけえ運び屋とメシ屋を作りてえんだ!」

「よかろう。では、妖精と妖精に選ばれし少女よ、お主らも好きな願いを言うがよい」

 遂に私達の出番が来た。まずは、グロリアが私の頭から飛び上がって願いを言う。

「アタシは、自由が欲しいわ!前に魔王を倒した時は、色々言いくるめられて、狭い引き出しの中に何百年も封印されちゃったから、もう好きに生きたいの!」

 グロリアが願いを言った途端、国王は苦い顔をした。自分の先祖が彼女を騙して利用していたも同然だったと告白された様なものだったからだ。

「妖精グロリアよ、そなたは今やこの世界に唯一かもしれぬ妖精族の生き残り。可能であるならば、その知識を我々の為に役立てて貰いたいと…」

「うん、それ無理。アタシはもうニ回もこの国を救ったんだよ?全てのニンゲンが嫌いって訳じゃないけど、少なくともこの国とはもう関わりたくないの」

「わ、分かった。そなたと王国の関係を白紙としよう。世界のどこへなりとも行くがよい」

 せめて妖精だけでも確保して、国のトップとしての威厳を保ちたいという国王の目論見はあっさり崩れ去った。

「えー、妖精に選ばれた少女よ、願いを言うが良い。出来れば、余にも利益がある願いだと嬉しい」

 すっかりやる気を無くした国王に私は願いを告げる。

「陛下、私の願いは友の弔いです。先程見せた大魔王ですが、実はその人形は元々は私の愛用品で、それに魔王の意思が入り込んだ物なのです。ですから、その首を私の手で弔いたいのです」

「…良い。危険が無いと判断がされれば、お主に返却すると約束しよう」

「ありがとうございます。陛下のご厚意に感謝します!」

 こうして、今回の事件の報告と、国王へのお願いは無事に終わった。ムッシーが提示したベストエンドよりも欲張ったおっかさんの願いが通るかが心配だったけれど、原作以上に立場の弱まっていた国王は容易く私達全員の願いを聞いてくれた。

「皆様、長らくお付き合い下さりありがとうございましたわ。それでは、これにて解散!」

 お城を出た私達は、一旦フリーダさん家に行き、今後について軽く話し合った後解散となった。


 リー君とタフガイは親の仕事の引き継ぎ、フリーダさんとブーン様は結婚までの段取り、おっかさんは男爵領の人達と交渉で忙しくなる一方、やる事の無い私は寮でムッシーの首が届くのを待つ日々を過ごしていた。

「よし出来た。ハート型オムライスの完成だよ!食べてみて!」

 新作料理をグロリアに見せると、彼女は微妙な顔をした。

「何でオムライスそのものがハートの形してるのよ。アタシは、オムライスにケチャップでハートを描くのをイメージしてたんだけど」

「注文と違ったのが出来ちゃったのはメンゴ!でも、味に自信あるから、食べてみてよ」

「…ホントだ。美味しい」

 もう二度と会わないと言っていたグロリアだったが、大魔王との戦い以降、毎週末に寮にやって来ては私の料理を食べていた。

「カトちゃんはもうすぐ卒業よね?この寮を出たらどこに住むの?」

「男爵様が男爵に戻れそうだから、入学前に住んでいた家にまた住めそうなんだ。暫くはそこに居ると思う」

「ふーん、引っ越ししたら寂しくなるわね」

「ここからは遠いけど、いつでも遊びに来てよ。グロリアは、友達だから何時でも歓迎するよ」

「人の事殺しかけておいて、友達とか…、まーアンタだからいいけど。じゃ、ごちそうさま。また週末ね」

 いつもの様にグロリアが帰ろうとした時、ドアがコンコンとノックされた。

「誰だろ、スグニかな?」

「テリウスなら、まだ魔界のはずよ」

 スグニがグロリアを迎えに来たんじゃないなら、本当に誰だろ?何にせよ開けて対応しなきゃ。

「はーい、どなたですか?」

「俺だ」

 扉を開けると、見覚えのある風呂敷を持ったトムが立っていた。

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