「いやあ、負けた負けた!これは完全に計算外!あの時グロリアにトドメを刺して無かった事で、こんなアホな負け方になるとはね!」
計算外の負け方をした癖に、ムッシーは随分と楽しそうだった。やはり、自分が倒される事前提で動いてたのだろう。
「バリアの破り方もそうだったけど、雑炊は本当に予想出来ない勝ち方をするよね。僕とコピーボスの、ちゃんとした倒し方があったんだけど聞く?」
「そんなの興味無い。私が聞きたいのは、この落とし前をどーやって付けてくれるかって事だよ」
一番平和なルートへ誘う為とは言えど、コイツは多くの人を苦しめた。ハコレンを犯罪に走らせ、男爵様は無職に、デール先生は変態に、おっかさんは無職に、ボルトの家族は無職に、モヒとかも一時的に無職になった。私も一度しか無い青春を台無しにされたし、コイツが送り込んだドナベさんのせいで、私の性格もかなり悪くなってしまった。
「アンタには責任を取る義務がある。どうやって責任を取るつもりなの?」
「フリーダに僕の首を刈らせて、国王に献上する。そうすればベストエンドが開始するはずだよ」
そう言うと、ムッシーは頭を下げて首切りを待つ姿勢を取った。
「さあ、フリーダ。早くやっちゃってよ。君の父を利用し、君を魔族にしようとし、君と偽りだらけの共闘をしていた僕が憎いはずだろ?」
首を斬る様にせがむムッシー。だが、フリーダさんは動かなかった。
「…霧の集合体である貴女に首切りの意味がありますの?仮にそれで殺せたとして、首を持ち帰れるとは思えませんわ」
「あ、そうだったね。忘れてた。それじゃ、はい、アイテムボックス〜」
ムッシーが指をパチンと鳴らすと空間が歪み、そこから女の子が落ちてきた。それは、ドナベさんそっくりの見た目の人形だった。
「よっこらせっくす」
ムッシーは実体化を一度解除し、霧状になって人形の中へ入ると、人形に意識が宿った。
「こんにちは、僕ドナベさんです。なんてね」
命の宿った人形の声と仕草は、正に私の知るドナベさんそのものだった。
「ロストマンは、何かに寄生した場合、その寄生先が破壊されると命を失う。学校の授業とこれまでの戦闘で学んだよね?」
「確かに、その状態なら貴女は死ぬと思いますが…」
フリーダさんが口ごもる。まあ、こんな状況になったら悩むよね。
「さっさとやってよ。僕は女神からこの世界をより良くする使命を受けている。その為なら、命は惜しくは無いさ」
「待って!」
ムッシーの処刑に待ったを掛けたのは、勿論私だ。
「どしたの雑炊。もしかして、僕を助けたいとか思ってる?」
「誰がそんなん思うがボケ!私は不安なの!アンタの言うベストエンドがとんなものなのか、まだ一度も聞いてない!」
「私も同じ意見ですわ。大魔王を倒した先で何が起きるのかを先に言いなさい」
私とフリーダさんに詰め寄られ、ムッシーは仕方ねーといった顔をして、嫌そうに語り出した。
「エンディングのネタバレなんて本当に嫌なんだけど…、この世界でこれからも生きていく君達には必要な情報だよね。分かった、説明するよ。まずは、比較対象としてハーレムエンドがどういったものだったのかを説明するね」
ドナベさんボデーの全身が激しく光った。
「ファイナルホンワカパッ波〜!」
この光と…情報を頭に流し込まれる感覚も…これで最後か…。
(ホワンホワンホワ〜ン)
【武者小路梢のネタバレ全開ルート解説】
ゲームクリアおめでとう!改めてこんにちは、乙女ゲームみたいなこの世界でラスボスをやらせて貰いました、武者小路梢でーす。
さて、まずハーレムエンドの説明をしよう。フリーダはもう知ってるだろうけれど、他の皆の為にね。
このルートでは残念ながらフリーダとサフランは助からない。死の間際に改心して和解出来たから、他のルートより救いはあるけどね。
え?スグニ?お前はどのルートでも同じ死に方だよ。この後に言うベストエンドでもね。ホント、何でお前が生きてるのか、しかもテリウスなのか…。でも、ゲームの世界を現実に移植したらこんな事もあるよね。ハッハッハ。
さて、話を戻そう。ハーレムエンドでは、ヒロインは三人の攻略対象の誰と結ばれたかはぼやかされている。プレイヤーのご想像にって奴さ。まあ、現実的に考えれば、大貴族のブーンは無いだろうし、リーとタフガイならリーを選んだという考察が多かったね。
んで、王国のそこ後だけど、魔王が倒された事で平和にはなったんだけど、ダンジョン資源が枯渇。やり手だった公爵親子も居なくなって国は衰退していく。丁度今、君達が直面している問題を、公爵派閥の力や前世知識抜きで対処しなきゃならないのがハーレムエンドの王国なんだよ。これでも、またマシな方なんだよ?ブーンルートだと、王家と公爵家が全滅してるし、リールートとタフガイルートだとブーンと辺境伯まで死んでるからね。そんで、ノーマルエンドでは、公爵親子が魔族になってる事が分からないまま、表面上は平和なだけ。
雑炊、分かったかい?君達は今、とても恵まれている状態なんだ。ここに居る全員が今も生きているのは、僕のおかげと言って良いんだよ。えっへん。
さて、ハーレムエンドやそれ以下のエンドについて説明したから、いよいよベストエンドだ。
このルートは、ハーレムルートの条件達成に加えて、フリーダが魔族化する前に病気を治す、魔王を正しい手順で倒しサフランを救出するという二つの条件を達成しなきゃならない。
フリーダの方は転生者が入り込んだ事で本編前に病気が完治して、サフランの方も本編中盤で魔王戦に突入して条件達成しちゃったよね。で、これらを達成したら暫くして最後の隠しダンジョンが出現する訳だ。そこで待ち受ける大魔王を倒してめでたしめでたしさ。ヒロインと関わってきた、全てのキャラが幸せな人生を送ったと語られ、王国も魔界の資源で更に潤った。どうだい?ベストエンドこそが、唯一にして最高のエンドだろ?
以上、武者小路梢のネタバレ全開各ルート解説でした〜。皆、ここまでプレイしてくれて本当にありがとうね〜。
(ホワンホワンホワ〜ン)
「…って事さ」
ムッシーの話を聞いた私は、何とも言えない気持ちになった。人間にとって、コイツのやって来た事は間違いなくプラスだ。今更、コイツが嘘を言うはずも無いし、さっきの解説は信じても良いだろう。だけど、この終わり方を一番良いとは到底思えない。
「ムッシー、何でドナベさんそっくりのボデーなんて保管してたの?そして、そんなのの首を斬れなんて、正直しんどいんだけど」
大魔王がどんな奴なのかは、ここまで乗り込んだ私達しか知らない。更に言えば、元々の大魔王はダンゴくれたお婆ちゃんだ。
「首を斬れって言うなら、もっと斬りやすい、醜い怪物にしてくれない?」
「そんなの、つまらないじゃないか!」
ムッシーはドナベさん人形の目をカッと見開いて叫んだ!
「ラスボスの正体が、ずっと前から出ていたアイツだった!それがいいんジャマイカ!僕があの団子屋のババアから大魔王の座を奪ったのは、それも理由なんだよ!そうだよね、フリーダ!」
ムッシーは、同じ転生者であるフリーダさんに共感を求める。
「ムッシー様、これゲームじゃ無くて現実ですわよ?ここまで上手く行ったのなら、ベストエンドをなぞる必要はありませんわ。貴女が人間との争いの責任を取りたいのなら、魔界を治める形で取るのを勧めますわ」
ムッシーは私にとっては友人とほぼ同一の存在だけど、フリーダさんにとっては多分前世での憧れの人だったんだろう。私以上に、彼女を手に掛けるのには躊躇してしまうのも無理はない。
「ムッシー、私もフリーダさんと同じ意見だよ。この結末は認められない。簡単に死んで逃げるなんて許さない」
「やれやれ、さっきベストエンドの話をしたばかりだろう?全員を救うには、僕の首を持ち帰り国王に献上するフラグが必要なんだよ」
「ムッシーはゲームの設定にこだわり過ぎて、視野が狭くなってると思うよ。この世界って、アンタが思う程、ゲームと同じじゃないと…」
私がそう言った時だった。
「ゲームなんだよっ!」
ムッシーは今まで以上に人形の顔を歪ませて叫んだ!
「この世界がゲームとは違うだって?君達にとっては、そうだろうね!でも、僕にとっては人生を捧げたゲームなんだよ!代表作だったんだ!面白いけど不完全なその代表作をリメイクして問題点全部解決するチャンスが来たんだよ!」
私は、ドナベさんが言っていた言葉を思い出した。ゲームには納期とか色々あって満足する形では発売出来ないものだって。ムッシーは、それが悔しかったんだろう。
「分かってくれないなら、もういいよ!ここでオリチャーを発動させる!『自ら死を選ぼうとする大魔王に対し、ヒロインと悪役令嬢は戸惑い、命を救おうとする。それに逆ギレしな大魔王は、剣を奪い自ら命を断つ』これで行こう!」
「ブーン様!剣を閉まうのですわ!全員の!」
「分かった!」
ムッシーの自害を防ぐ為、フリーダさんとブーン様は全員の武器を次々とアイテムボックスへと吸い込んでいく。だが、一歩遅かった。
ムッシーは私に飛び掛かり、手にしていたおっかさんの杖に向かって自らの頭を振り下ろした。おっかさんの杖はあまりにも大きいから、アイテムボックスへ入れるのが遅れてしまった。
「やっぱさ、最後は君の手で…」
ドンッ。
杖と人形の頭が交差した後、重い音がして、ムッシーの頭が地面に落ちた。