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第七十八話【二つの謎が合体する模様】

 皆の嫌われ者スグニ・マゾクナルと皆の憧れテリウスが同一人物。そんな事を突然言われてもにわかには信じられない。だが、テリウスのパートナーをしていたグロリアが言ってるのだ。スグニとグロリアが契約関係にありそうな事も含め、信じざるを得なかった。

「ぐわああああー!」

 この事実に最初に反応したのは、ブーン様だった。今までテリウスを手本として生きてきた彼は、理想と現実のギャップに耐え切れず、血を吐いて倒れた。

「ブーン様が吐血しましたわ!スグニ、貴方なんて事をしやがったとですわ!今直ぐ訂正しなさい!」

 ドナベさんの正体がゲームの声優だった事でショックを受けていたフリーダさんは、スグニがテリウスというよりデカいショックをぶつけられた事で、一瞬で正気に戻り抗議の声を上げた。

「こんな事になるのが分かってたから、俺様ずっと黙ってたんだけどな」

「うっさいバカ!大体、テリウスは剣使いですわよ!後方回復担当の貴方とは真逆ですわ!よって嘘!はい論破ですわー!」

 それは私も思った。スグニは実力を隠していた感じもしないし、フケ顔だけど何百年も生きてる様にも見えない。そう思っていると、ムッシーが口を挟んできた。

「スグニ、さては君、転生者だね?」

「お、そうそう。俺様、スグニ・マゾクナルなんだけど、魂と記憶はテリウスなんだよ。この身体じゃ、魔法しか使えねえけどな」

 それを聞いたフリーダさんは、少し考え込んだ後、顔を青ざめさせて頭を抱えた。

「あー!これ私のせいですわー!やっちまいましたわー!」

 テリウスとスグニの関係性について心当たりがあるのか、フリーダさんがパニック状態でガクガクしている。

「最悪ですわ…、これは私が始めた物語なのですわ…」

「あ、またフリーダさん壊れた。おい、ムッシー。代わりに説明しろ。どーせ、アンタも知ってるんでしょ?」

「しょうがにゃいにゃあ。えとね、スグニの正体が空白なのは昔話したよね?」

「うん、言ってた。納期がどーとか言い訳して、脇役キャラの細かい所の矛盾をそのままで出したのがスグニだっけ?」

「そのスグニとは別に、もう一人謎のままのキャラが居た。それが、遥か昔魔王を倒した勇者テリウスだ。雑炊、君はテリウスが魔王を倒した後どうなったか知ってる?テリウスの顔は?勇者である事以外のエピソードは?」

「教科書に乗ってないから知らない」

「それって、おかしく無い?例えるなら、フリーダやブーンが後の世に名前しか残らない様なものだよ」

 そう言われて、私は初めてテリウス伝説の違和感に気付いた。彼の伝説は魔王を倒し冒険者学園の基礎を作った事しか語られていない。それだけの英雄なら、もっと語られるし盛られるはずだ。

「テリウスの過去って、何で不明のままなの?」

「スグニと同じ理由さ。ゲーム開発した人が敢えて細かい設定はしなかったんだ。テリウスの人物像はプレイヤーの皆様が各自想像して下さいってね。ま、スグニの場合はキャラへの愛が無かったからで、テリウスの場合は下手に設定したら夢が壊れるからだけど」

 大事にされ過ぎたキャラと、大事にされなかったキャラが同じ扱いを受けるとは、何とも皮肉的だなと私は思った。

「要するに、『冒険乙女カトリーヌン』には、どこにくっつければ良いのか分からない、余ったピースが二つあったんだ。さて、パズルを組み立てていて最後に二ピース余ったならどうする?」

「その二つがくっつく?」

「そう、つまりこーなるのさ」

 ムッシーは、大長編ホンワカパッ波理解クイズで使ったフリップにペンを走らせて、完成した文章と図を私達に見せた。


【勇者テリウスの謎】

・あれだけの実績を残したのに、素顔含め人物像が一切語られていない。

・テリウスの事を好きだったグロリアが、人間の事を下に見ている。

【スグニ・マゾクナルの謎】

・乙女ゲームに出たらダメなレベルのブサイク。

・国の根幹に関わっている公爵家派閥よりも強いコネで学年二位に居た事になってるが、そのコネは謎のまま死ぬ。


「これとこれを〜、合・体!」


【テリウスの真実】

・彼はあまりにも醜くかった為、魔王を倒した後に用済みとなり捨てられた。

【スグニの真実】

・テリウスの生まれ変わり。

・歴史の真実を知る校長は、彼に出来る限りの協力をしていた。その結果が謎のコネによる二位である。

・魔王軍の暗躍から人々を守ろうと独自に調査していたが、前世の様な力は持ってなかった為、触手魔族に寄生されて早々に退場した。


「これが世界の真実って事なのさ」

「余ってたピースを、握力で一つにしただけじゃない!」

 私は心の底から突っ込んだ。突っ込むしかないだろ、こんなん。

「ムッシー、お前今直ぐテリウスのファンに謝れ!つーか、現に今、テリウスファンのブーン様が死にそうになってるぞコラ!」

 テリウスの素顔は歴史に残っていない。だが、テリウスの再来だと言ってもいいぐらいテリウスの剣術を再現していたブーン様が王国一のイケメンだから、私は勝手にイケメンなテリウス像を作っていた。だから、ムッシーが出したこの結論は、私も少なからずショックを受けている。

 テリウスにさほど興味の無かった私ですら、ショックなのだ。ブーン様やフリーダさんの心中を想像すると、涙が止まらない。

「どうだい?皆納得して貰えたかな?」

「納得出来ないし、したくない」

 私は率直な意見を言った。

「仮に、テリウスがブサイクだったから歴史に戦闘記録しか残らなかったのが真実だとしても、この時代に生まれ変わりが現れるなんて、ご都合主義過ぎるよ」

「でも、生まれ変わりの前例がそこに居るだろ?」

 ムッシーは、頭を抱えたままのフリーダさんを指差して言った。

「フリーダさんが、自分のせいって言ってるのって、もしかして…」

「そう!僕と彼女が転生者としてこの世界に来たから、この世界では『転生してる奴が他にも居ました』って展開はアリって事になったんだよ!原作には転生の術とか微塵も出てこないから、スグニがテリウスの生まれ変わりと言ったらご都合主義だって叩かれてただろうけど、この世界には前例が二つもある。現地転生と異世界転生の違いはあれど、転生ネタはアリになったんだよ」

「成る程、つまり、えーと」

 私は腕を組み、考え込む様なポーズで一歩一歩スグニに近付き、射程に入ったと同時にビンタした。

 スパーン!

「お前がブサイクなせいで、全てがややこしくなったんだよ!」

「いでー!カトちゃん、さっきの話で、何で俺様が悪いってなるんだよ?」

「お前がもう少し見た目に気を使ってたら、フリーダさんや私と、もっと早く腹を割って話す事が出来て、ドナベさんや男爵様も助かってたかも知れなかったんだよ!反省して!」

「いや、俺様公爵家とハコレンのどちらが魔族と繋がってるのか探ってたから、表だって協力するのは、どっちみち先の話に…」

 スパーン!

「あだー!」

「言い訳すんな!お前、大会でブーン様に切り刻まれていた時、どんな事頭の中で考えてたんだよ!」

「俺様の剣術だけでも、この時代に伝わっていて嬉しいと思ったぞ。ブーンは見込みがある。このまま育てば、前世の俺様超えるんじゃね?」

「オゲエエエエエ!」

 スグニに褒められて、ブーン様が吐いた。

「スグニ、お前もう黙れ!何も喋るな!」

「話を振ったのは、カトちゃんじゃねえか」

「アンタ達、いい加減にしなさーい!」

 すっかりグダグダになってしまった場の空気に喝を入れたのはグロリアだった。

「アンタ達、今は全ての元凶との戦いの真っ最中でしょ!アタシはゲームとかの話は分かんないけど、あのドナベさんの本体を倒すチャンスなんだから、さっさとトドメを刺しなさいよ!」

 グロリアの言う通り、戦況は完全に私達優位に傾いていた。と言うのも、ムッシーによる解説やその後の私とスグニのどつき漫才の最中も、ヒールレインは降り続けており、ムッシーは虫の息、コピーボスは全滅、私達は完全回復していたからだ。使い所が無いと散々言われていたスグニの魔法が、ラスボス戦でここまでぶっ刺さるとは思わなかった。

「そうだった。これ戦闘の最中だったよ。フリーダさん、もう、コイツから聞く事無い?」

「…ええ。大変ショッキングな事を聞かされた分、倍にして返しますわ。殺してやる、絶対に殺してやりますわ、スグニ・マゾクナル」

 フリーダさんが、スグニに殺意を向けた。気持ちはすげー分かる。

「おいフリーダ、俺様はお前らの命の恩人なんですけど?まー、そんな冗談言えるぐらい元気になったなら大丈夫そうだな。行くぞ、お前ら。多分これが俺様達の最後の戦いだ!」

「仕切るな」

 もうビンタする気力も失せた私は、言葉だけで突っ込む。だが、スグニの言葉自体は間違ってはいない。

 ここまで来たら、もうムッシーから聞く事は無い。そう結論付けた私達は、武器を手に取りジリジリとムッシーに詰め寄る。

「いや、ちょっとタンマ。君達、ここはお互い身体を休めて仕切り直しと行かないか?魔界観光ツアーとかやって、皆で温泉入ろうよ…ダメ?」

 ムッシーの虫の良い提案は無視された。もう、あんな厳しい戦いは二度とゴメンだ。そんな思いを込めて、弱りきった彼女をフルボッコにする。

「うわー、やーらーれーたー」

 こうして、ムッシーは無力化され、ラスボス戦はグダグダなままに終わったのだった。

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