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第七十六話【大魔王はあの人だった模様】

 大長編を見終わった私達は、サングラスを外し、ゴミを片付けてドナベさん…じゃなくて大魔王と再度向き合う。

「過去一長いホンワカパッ波だったけど、おかげでアンタが何者か良く分かったよ」

「本当に分かってる?怪しいな〜?雑炊とタフガイとサフラン。僕が何者かちょっとフリップに書いてみてよ。あ、他の人に答え聞くのは無しね」

 私・タフガイ・おっかさんの三人は、渡されたフリップに答えを書いて、『せーの!』で一斉に出す。

【私の答え】

 ドナベさんのお母さん。リー君の使い魔術みたいなので、ドナベさんの目を通して私達の事を知っていた。

【タフガイの答え】

 理想の為に仲間や娘の命が失われるのを、何とも思ってない最低な奴。

【おっかさんの答え】

 私の二十代を返せ。大体お前が全部悪い。

「うんうん。全員ちゃんと理解してる様で何より。そう、僕が人と魔族の争いの元凶にして、魔族の総大将だ!さあ、僕を倒してベストエンドへと歩みたまえ!」

「ぶん殴りたいのは山々なんだけどさ、もう少し良い方法無かったの?」

 私は、大長編を見ていて気になった点について聞いてみた。

「ドナベさんのお母さん、アンタなら魔族と人間の争いを止める事が出来たんじゃないの?お互いの欲しい資源を物々交換すれば、誰も死なずに皆幸せになれた。アンタにはそれが出来たんじゃ無いの?」

 私がそう言うと、大魔王はポカンと口を開けて固まった。

「そ、その発想は無かったなあ。いやー、僕ってばゲームのベストエンド実現に固執していて、それ以外の決着なんて考えもしなかったよ。まあ、過ぎた事は仕方無い。切り替えていこうじゃないか」

「あ、アンタねえ…!」

 この大魔王という人物がどういった奴か、大体分かってきた。ゲーム感覚で人生送ってるし、大事な所でポカするし、味方に黙って悪巧みするし、間違いなく、ドナベさんの本体だわ。

「さあ、さっさとやってしまおう。僕をぶっ殺せばベストエンドだよ。カモンカモン」

「言われねえでも、おめぇみてぇな奴、反省するまで殴ってやんよ!」

「待て、タフガイ!」

 嫌な予感がしたのだろう。ブーン様はタフガイを止めようとしたが、タフガイは全力で大魔王に拳を振り落とした。

 ガキィィィン!

「手が痛ええええ!!」

 大魔王の顔面にタフガイの右ストレートがクリーンヒットしたが、ダメージを受けたのはタフガイの方だった。

「ドナベさんの無敵ぶりを忘れたのかい?彼女に付与していたやつを更に改良した効果が僕には掛かっている。普通に戦っても僕にダメージは入らないよ」

「ホーッホッホッホ!ならば、その魔術を解除するまでですわ!リーさん、例のアレをやっておしまい!」

「もうやってます!でも、解除出来ません!」

 リー君のアレとは、私との対抗戦で見せた魔法封じの事だろう。リー君は冷や汗を大量に出しながら、魔法封じの魔法を発動し続けるが、大魔王の様子に変化は無い。

「リー君、その魔法は僕に効かない。そもそも僕は魔法を使うのに精霊の力を借りてないから、いくら精霊の力を支配しても無意味なんだよ。さあ、皆考えて、考えて!知恵と勇気で僕を攻略してベストエンドへ辿り着いてよぉ〜」

 大魔王は自分からは攻撃せず、『バリア突破してみろ』とこちらを挑発してくる。どうやらこのクソ女は、自分を倒してベストエンドにして欲しいと懇願しながらも、ラスボスとしての仕事はキッチリやる様だ。骨の髄までゲーム脳である。

「重力魔法で押し潰しますわ!」

「効かないよ」

「アイテムボックスを貴様に密接させ、零距離で斬る!」

「残念、今の僕は身体の芯から無敵なのさ」

「その服、似合ってないわねえ。年考えたら?」

「これは、僕の正体を君達に分かりやすくする為に、敢えてしてるの!」

 あ、おっかさんのファッションチェックがちょっとだけ効いた。そーいや、ドナベさんには精神攻撃が有効だったなあ。試す価値はあるかも。

「大魔王、次は私が相手だよ!」

「来たね雑炊。さあ、ヒロインは僕のバリアをどうやって攻略するのかな?」

 私はスタスタと大魔王に向かって歩を進め、目の前に立つ。そして、そのままじーっと睨みつける。

「…雑炊、君は何がしたいんだい?」

「大魔王こそ、私を殴らないの?さっきから、カウンター攻撃しかしないし、殆どその場を動かない。いや、動かないんじゃなくて動けないんでしょ」

 私は大魔王の横を通り過ぎ、玉座に脱いだ靴下を叩きつけた。

「オラァ!」

「ちょっと、やめてよ!」

 大魔王は口で注意するばかりで、私を直接止めようとはしなかった。

「ふふーん、やっぱりドナベさんと一緒で、自分からは攻撃出来ないみたいだね。お前ら、やっちまいな!」

 私は玉座にお尻をこすりつけながら仲間達に嫌がらせを命ずる。

「エントリーナンバー一番、フリーダ・フォン・ブルーレイ!大魔王の玉座の隙間にポップコーンのカスを挟み込みますわ!」

「エントリーナンバー二番、ブーン・フォン・アークボルト!玉座の背もたれに私の直筆サインをしてやろう。油性だ!」

「なら僕は、猫の使い魔に延々と引っかかせます」

「オレはシンプルにハナクソ付けるぞ!」

「じゃあ私は、脱ぎたてのストッキング被せるわね」

 全員で大魔王の玉座にイタズラを仕掛ける。大魔王はプルプル震えながら耐えていたが、私がパンツを乗せようとしたタイミングで遂にブチ切れた。

「お前らいー加減にしろよー!」

 チュドーン!

 玉座周囲一帯に大爆発が起こり、私達六人は全員部屋内のあちこちにふっ飛ばされた。だが、縛りを破ってしまった為に玉座はひび割れてあっという間に砕け散り、大魔王も足元から消え始める。

「おのれ雑炊!とんでも無いやり方で僕のバリアを攻略しやがって!ちゃんと正攻法の攻略方法を用意してたのに無駄になっちゃったじゃないか!まあ、面白かったけど」

「身体が消えつつあるのに、随分余裕じゃない」

「あったり前田のクラッカーだよ。大魔王戦はバリアを破ってからが本格的な戦闘開始さ!君達が散々馬鹿にしたこの見た目も、オーバーボデーに過ぎない。見せてやるよ、僕の本当の姿を」

 アラフォードナベさんスタイルの魔王は玉座と共に消え失せ、彼女が立っていた場所に黒い霧が集まっていく。

「この霧は…ロストマン?」

「そうさ。死体に乗り移らないとマトモに戦闘すら出来ない、最弱のモンスター。それが僕の正体だ。でも、極めればこうして霧の密度を高めて人型にだってなれる」

 そこに現れたのは黒髪の女性だった。元が霧だったとは思えないぐらい、ハッキリとした輪郭を持ったそれは、魔族だと言われなければ普通に人間界に溶け込めそうだった。

「で、ですわっ!?」

 フリーダさんも、ロストマンが他の生物に寄生せずに人型を保ってる事に驚いている。…いや、あの驚き方は何か違う。そう、まるで有名人に出会った一般ピーポーみたいな驚き方をしていた。

「では、改めて自己紹介するとしよう。大魔王というのも味気ないしね。こんにちは、僕…武者小路梢です」

「勝てる訳ねえですわあああー!!」

 バターン!

 ロストマン形態の大魔王が名乗った瞬間、フリーダさんが今までに見た事無い絶望フェイスで膝から崩れ落ちた。


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