「ドナベさん!ドナベさんだよね?何ふざけた事してるの?生きてたなら連絡してよ!後、本物の大魔王はどこ行ったの?というか老けたよね?その年でその服装はどうかと思うよ?」
嬉しいやらムカつくやら、意味不明だわで私は感情のままに一気に質問した。
「雑炊、君は本当に馬鹿だな。繋がりの無い質問を一度に何個もされたら、たまったもんじゃ無いよ」
この喋り方、間違いなくドナベさんだ!
「それじゃあ、一つ一つ確認するよ。取り敢えず、ドナベさんなのは間違い無いんだよね?」
「違う。僕、ドナベさんじゃ無いです」
「嘘つけー!」
「嘘じゃ無いよ。僕はドナベさんじゃ無い。ドナベさんが僕だったんだよ」
「んじゃあ、アンタはドナベさんでしょ!AがBてあるのなら、BはAである。よって、コイツはドナベさん。そうでしょ、フリーダさん?」
「それはちょっと違いますわ」
フリーダさんまで、おかしな事を言い出した。
「雑炊さん、ごるびん師匠の事を思い出して下さい。ごるびん師匠は私ですわ?」
「うん」
「では、私はごるびん師匠ですわ?」
「それは、ちょっと違うんだと思う。ごるびん師匠はフリーダさんが生み出した架空のキャラクターだから…あっ」
「そーゆー事ですわ。大魔王さん、貴女がドナベさんという存在を送り出し、雑炊さんと引き合わせたのですわよね?」
フリーダさんの確認に対し、ドナベさんはすげえドヤ顔をしてそれを肯定した。
「大・正・解!まあ、死体を着ぐるみにしていたごるびん師匠と僕とでは色々と違うんだけどね」
「違うってのなら、その辺説明してよドナベさん」
私は懐からサングラスを出して自分の顔に掛けながら聞く。私の横では、フリーダさんがブーン様達にサングラスを渡していた。
「皆、何してるの?」
「おっかさんも、コレ掛けて」
「これサングラス?何で私のだけ皆のとデザインが違うの?」
私がおっかさんに渡したのは、ボール紙と輪ゴムと半透明のフィルムで作った手作りのサングラスだ。
「おっかさんの顔に合うサングラスが冒険マートには売って無かったから、フリーダさんに手伝って貰って自作したんだ」
「あら、そうだったのね。でも、何で私のメガネだけ左右の色が違うの?」
「作り方を教えてくれたのはフリーダさんだから、後でフリーダさんに聞いてよ。ほら、もうすぐ始まるから、早く掛けて」
「始まるって何が…」
「大長編だよ、ホンワカパッ波〜!」
ペカーーー!!!
おっかさんが手作りサングラスを掛けるのを待って、ドナベさんはいつものを発動した。
ペカカーー!!
うん、知ってた…。このダンジョンをクリアしたらドナベさんと再会出来るのかもと思った私達は…、こうして対策を準備していた…。
べカー!
まあ、大魔王として待ち構えてるのは…想定外だったんだけど…。
ペカカカー!ペッカー!
後…、今回光強すぎ…。
(ホワンホワンホワ〜ン)
『冒険乙女カトリーヌン』は、僕の人生そのものだった。そんな僕の心残りは勿論、このゲームの真のエンディングを誰も見つけられなかった事だった。
プログラマーのミス、プレイヤー達の勘違い、そしてストーリー原案者が徹底して攻略情報を伏せた事。これらが重なり、ハーレムルートエンドが一番良いエンドだと世間に広まってしまった。
僕は叫びたかった。悪役令嬢は仲間になると。おっかさんは助けられると。王国騎士団は公爵家とハコレンを野放しにしていた無能じゃ無かったと。大魔王が居るダンジョンは没データなんかじゃないんだと。世間に言いたかった。
でも、言う事は出来なかつた。それは、ネタバレ禁止の契約を会社と結んでいたからでもあるけど、真のエンディングへの道は、君達自身の目で見つけて欲しかったからだ。
まあ、そんな期待を抱いたまま僕の人生は終わっちゃった訳だけど、僕の気持ちは天に通じたんだ。『冒険乙女カトリーヌン』そっくりの世界に転生する事になったのは本当に嬉しかったよ。
名作だけど数々の問題を抱えたゲームをそのまま持ってきたかの様な世界だ。当然普通に進めていたら、ベストエンドにはならないよ。僕を転生させた女神は、お助け妖精グロリアの代役としてヒロインを導いて欲しいと頼んできたけど、僕はそれを断った。
「では、どのポジションからヒロインを助けたいのですか?」
女神のその問いに僕はこう答えた。
「魔界の魔族に転生させて欲しい」
君達がご存知の通り、魔族はダンジョンというトンネルを作り人間界へ侵略行為が出来るが、人間側には魔界へ行く技術は無い。だから僕は、人間界側から真のラスダンへ行く手段を作るんじゃ無くて、魔界側から人間界のヒロイン達を導く事にしたんだ。
魔界に住む一般魔族に転生した僕は、前世の知識を活かして人間界で採れる資源の有効利用方法を提案し、魔界の人々の信頼を勝ち取り、平和的に大魔王の座を手に入れた。元々居た大魔王?団子屋やってるよ。
大魔王となった僕は、パメラ・シュビトゥバ・ワロエナスの三人に指示を出し、原作の流れに沿う様に動かした。僕が大魔王になる事で起こる歴史のズレを無くし、ベストエンドのルートを維持する為だ。
原作通りに進めるという計画は途中までは上手く行ったよ。人の身でありながら魔界へ到達寸前だったサフラン・ライス…、雑炊のおっかさんを食い止めたパメラは彼女と融合して魔王となり、シュビトゥバは人間達を仲違いさせる策略を実行し、ワロエナスは各地のダンジョンへ戦力を分配し、本編の設定通りに世界は進んで行った。
だが、イレギュラーが発生した。今から八年前、シュビトゥバが公爵家乗っ取りに失敗した。そう、フリーダ。転生者である君のせいでね。君が偶然流れ着いたのか、僕のやりたい事を理解出来なかったアホ女神がテコ入れする為に呼んだのかは分からない。ただ、このままじゃあ原作をなぞりベストエンドへ行くのは、ほぼ不可能だと僕は確信した。
こうなったら、僕自身が出向くしか無い。でも、僕にはこの魔界での仕事が沢山ある。なので、僕は僕をもう一人作る事にした。女神が最初に僕にやらせようとした仕事、妖精グロリアの立ち位置からヒロインを導くという仕事を、もう一人の僕にやらせる事にした。
そこからは時間との戦いだった。リミットは本編開始の日。それまでに、妖精グロリアの代役として僕の分身を作り出し、あの寮へ配置する。勿論、他の魔族連中に秘密でだ。彼らの殆どは、僕が人間に負ける為に動いているとは思って無いからね。
僕の分身は、ロストマンとミミックを合成して完成させた。まず、ロストマンを鼻から吸引し、一年程寄生させる。身体を乗っ取られない様に注意しながらね。んで、僕の記憶やら人格やらを学んだロストマンをミミックにペッと吐き出して、一つのモンスターにする。最後に、行動に大幅な制限を掛ける事を条件に、人間界の連中ではダメージ一つ与えられない存在へと作り変えて、どうにか完成だ。
「やあ、僕。生まれて間もない君には酷な話だが、ちょっと人間界でヒロイン導いてここへ連れて来てくれないかな?」
僕の若い頃をモデルにした見た目のそいつは、秒で内容を理解し、二つ返事でオッケーしてくれた。
「任せたまえ、僕。確認だけど、ベストエンドの話はしちゃダメなんだよね?」
「ああ、それをするとフリーダの行動が完全に読めなくなる。それに…」
「プレイヤー自身の手で確かめて欲しい!だよね」
「それな!うふふふ」
僕は、分身が僕の気持ちをちゃんとトレース出来ている事に安堵し、二人で笑った。
「だからさ、君はハーレムルートへ導く様な流れを作って、そこから彼女達の意思で悪役令嬢とヒロインの共闘になる様に導いてやってよ?」
「それは本当に大変だ。リセットもロードも無しの本番一発勝負でそれは、難易度SSだね」
「まあ、細かい修正は君に任せるよ。んじゃ、寮まで連れて行くから」
僕は分身と一緒にそっと魔界を離れ、ゲーム本編開始地点のオンボロ寮へとやって来た。この時が一番手に汗握ったね。なんせ、行きも帰りも誰かに見つかったら即アウトなんだから。それでも僕は、ハコレンと交渉していたシュビトゥバや、寮母さんや、君達公爵家派閥の目を掻い潜りあの部屋に土鍋をセットする事に成功した。
「それじゃあ頑張ってね僕。君の活動は視覚と聴覚を共有して僕に伝わるから」
「待って、僕にはこの世界で生きる為の名前が必要だ。本名や大魔王を名乗るのは色々とマズイだろ?」
「ああ、忘れてた。それじゃあ君の名は…、土鍋に住んでるからドナベさんで」
「おけ」
こうして、やれる事をやり尽くした僕は魔界へ帰り、ベストエンドルートに入る事を祈りながら、ドナベさんの活動結果をここから見ていた訳さ。
(ホワンホワンホワ〜ン)
「長いよ!」
私は率直な感想を述べた。フリーダさんがアイテムボックスからポップコーンを出して皆に配ってくれたから、何とか最後まで集中して聞けたけど。それが無かったら、絶対私とおっかさんは寝ていたと思う。