学園全体に対してダイエットを宣言する辱めにより、私達はみるみる内に痩せていった。
最初に元に戻ったのはリー君だぅた。皆で倒した次郎を奪い合う様に食べる中、フィジカルが弱い彼はいつも皆の食べ残ししか食べられていなかった。その分、体重の増加も抑えられていたし、戻るのも早かった。
その次に、フリーダさんとブーン様が同時に元に戻った。
『この姿では、お互いを愛する事も愛される事も出来ない』そう思った二人は互いを高め合いリー君が元に戻った半月後には、フリーダさんの語尾が『ですわ』に戻っていた。
タフガイは流石に痩せるのに時間が掛かった。誰よりも多く次郎を食べていた彼は元の二倍の体重になっていたので、彼の筋トレがいかに優れていようとも痩せるのにはどうしても時間が掛かるのだ。それでも、他の仲間に迷惑を掛けれないと奮起した彼は、どうにか三年生になる前にダイエットを完了した。
そして今、おっかさんの測定が行われようとしている。体重計では測れないし、そもそも元の体重が分からないおっかさんをどうやって測るのか?それは、オフィスさっちゃんに空いた穴を使うという方法だった。
「よっこい、しょーいち!」
おっかさんが穴の中へ飛び降り、その直後ジャンプして穴へしがみつき、よじ登って戻る。
「引っ掛からずに、出たり入ったり出来たわ。これはもう、元通りって事で良いんじゃないかしら?」
「頑張ったね、おっかさん。よーし、これで全員元通り!エレベーターまでイクゾー!」
「お待ちなさい」
全員痩せたから、もう私達を阻む物は無いとレッツゴーしようとしたら、フリーダさんに止められてしまった。
「何、フリーダさんトイレ?」
「雑炊さんじゃあるまいし…。そう、雑炊さん。貴女まだ体重測って無いですわよね?」
ドクン、ドクン、ドクン。
「えー?私は見ての通り痩せたよ?タフガイが痩せたぐらいに50キロまで下がったのは見たでしょ?」
「その後、測ってませんわよね?今ここで、測らせて下さいですわ」
皆に無理矢理体重計に乗せられ、針は51キロで止まった。
「デブってるんじゃねえよですわ!」
スパーン!
フリーダさんのビンタで、私の胸がプルンと揺れる。
「元々私痩せてたから、このぐらいが丁度いーの!3キロぐらい誤差じゃない!つーか、胸が育ったの!」
「大魔王に辿り着くかどうかの瀬戸際なのですわよ!そんな胸、見せる相手も居ないんだから、サイズを戻しなさい!」
ひどい。でも、否定出来ねえ。トムとの好感度は多分カンストしてるのに、魔王戦以降コレと言った進展は無いし、ここに居る男子ともフラグ立って無い。私は三年生になっても恋人が出来ていなかった。
「雑炊さん、考えてもみなさい。最後のダンジョンを攻略したなら、貴女はS級冒険者確実。例え貧乳でもモテモテハーレムは間違い無いのですわ」
「こ、こいつ、ドナベさんみたいな説得の仕方を…!分かったよ!ダンジョン攻略の為に後3キロ絶対痩せる!」
成長した胸との涙の別れを済ませ、私はダイエットのラストスパートへ向かう。
でも、その前に3キロぐらいならエレベーター誤魔化せるかもと思った私達は、一度今の状態でエレベーターに乗ってみた。
ブー!
「ほら、やっぱり駄目でしたわよ」
「またまだ!グラビティレス!」
…ブ、ブー!
重力魔法で誤魔化そうとしたけれど、エレベーターは一瞬しか騙せす動く事は無かった。
「雑炊さんって、こういう変な悪知恵は働きますわよね」
「えへへ、褒められてもオナラしか出ないよ」
「ですが、このエレベーターにはそう言った悪知恵は通用しないみたいですわ。私も階段を探したり壁抜けが出来ないか試したのですが、お尻をいくら壁にぶつけてもテクスチャの隙間は見つかりませんでしたわ」
私やフリーダさんが考える様なズルが通用しない。流石は真のラスダンだ。
「では、そーゆー事ですので…痩せろデブ!ですわ」
「ううっ、さらばBカップ」
これ以上皆を待たせる訳にはいかない。私は残り3キロを痩せる為に、美容の師匠に助けを求めた。
「…と言う訳でこちら、私のダイエットのラストスパートを手伝ってくれる友人、冒険者学園のアイドル、エール魔法使いのプリンちゃんだ!」
「よろしくね〜。皆〜、雑炊ちゃんは私が必ず痩せさせるから、もう少し待っててね〜」
三年生になってもプリンちゃんは相変わらずカワイイ。その細過ぎず太過ぎないボデーを維持する努力を真似すれば、私の体型も元に戻る事間違いなしだ。
「プリンちゃん師匠!さっそくレッスンをお願いします!出来れば、胸は痩せない方向で!」
「うん、いいよ〜。それじゃあ、ゴミ回収のボランティアやるから着いてきて〜」
ダイエットの基本はウォーキングと筋トレ。歩き回りゴミを拾うのは普通のダイエットには効果的かもだけど、土鍋を頭に乗せていた頃に毎日四時間走っていた私にとっては、大したダイエット効果は期待出来ない。
だけど、それでも良い。私がプリンちゃんに期待したのは、別の事だからだ。
「ねえ、プリンちゃん?」
周りに誰も居ない事を確認して話し掛ける。
「なおに、雑炊ちゃん?」
「プリンちゃんって、いつ頃からゴミ拾い始めたの?」
「入学してから直ぐだよ〜。私には皆の為にこれぐらいしか出来ないから〜」
「そんじゃあさ、私の住んでるオンボロ寮の近くでも、ゴミ拾いをしていたの?」
「えっ…?」
私が確信を突くと、プリンちゃんはそれまでの笑顔が消え去り押し黙った。
やはりそうだ。ドナベさんがグロリアを握り潰してゴミとして捨てた時、誰かがグロリアを拾い命を救った。それが誰かはグロリアは教えてくれなかったけれど、私の推理が正しければ
それはブリンちゃんだ。
「プリンちゃんはあの日、見たんでしょ?私が死にかけの妖精を捨てるのを」
「え、そ、それはっ」
「怖がらなくて良いよ。ただ確認したいだけだから。プリンちゃんは私が捨てた妖精を拾って治療した。そして、彼女の頼み
を聞いて私に接近したんでしょ?」
誰がグロリアを助けたか?そのヒントとなる要素は三つ。回復魔法の使い手、グロリアが心を許す様な存在、そして私に不自然に近付き様子を伺っていた人物。光魔法を得意として、聖女の如き優しさを持ち、嫌われ者だった私に突然近付いてきたプリンちゃんは全ての条件を満たしていた。
「ブリンちゃん、私はただ答え合わせがしたいんだよ?ブリンちゃんみたいな子が性格クソだった私に近付いたのは善意だったのか、それとも他人に言われてやっていたのかを知りたいだけなんだ」
私はゴミ捨て場の影へ移動し、他の人には見えない様にしながら、プリンちゃんに問い詰めると、彼女は涙を流し語り出した。
「うん…、私…貴女が鬼気迫る顔で、女の子の人形を捨てる所…見ちゃった」
「やっぱりそうなんだ。ブリンちゃんがグロリアを拾って治したんだ」
「ち、違うわよ!私は捨てる所を見ただけ!貴女の顔な怖くて、気付かれない様にそこから逃げたの!人形を拾ってなんかない!」
プリンちゃんは顔を伏せて本気で怯えてる様だった。これは、もしかして外してしまったのかな?
「始業式で暴れるし、頭に土鍋乗せていつも一人でブツブツ何か言ってるし、貴女の事本当に怖かった!そして、休学から戻って来たら急に馴れ馴れしく近付いてきて、本当に気持ち悪かったわよ!」
プリンちゃんが私を見る目は、私が一年生の頃にクラスメートから向けられていた視線と同じ、いや、それ以上の嫌悪と恐怖に満ちていた。
「えっと、じゃあ何で私に優しくしてオシャレを教えてくれたりしたの?嫌いなら無視すれば良かったじゃない?」
「怖かったの!断ったらあの人形みたいにされるんじゃないかって!だから、話を合わせるしか無かったの!それに、貴女ハコレンの一斉検挙で自分の父親を公爵家に売り渡したりしてたでしょ?何時私が貴女のターゲットになるか毎日が怖かったのよ!」
どうやら、プリンちゃんから見た私は、人形や土鍋に名前を付けて可愛がっていたと思ったら、次の瞬間にはそれをボロボロにするサイコパスとして映っていた様だ。これはマズイ。誤解を解かないと。
「待って、プリンちゃん。私は普通の女の子だよ」
「普通の女の子は便座を持ち歩かないし、短期間で300キロ太ったり痩せたりしないし、母親が三メートルあったりしない!それに、貴女しょっちゅう自分はヒロインでアンタらはモブって言っていたじゃない!」
グハッ!過去のやらかしがここに来て致命傷に!いや、違う。あの日、グロリアを捨てる所を目撃された時点で、ブリンちゃんは絶対に友達にはなれない運命だったのだろう。
「プリンちゃんは、私が怖くて愛想よくしてた、そういう事だったんだね。ごめんね、でも、危害を加える気は無いから安心して」
「安心出来ないわよっ!ボルト君の実家が潰れた様に、いつ貴女の行動が飛び火して私や家族が犠牲になるか、貴女自身にも分かって無いから恐ろしいのよ!もう無理!私にはフリーダさん達の様に貴女と付き合う事は出来ない!只の妄想癖の強いお花畑女なら、適当に付き合えたけど、今の貴女は私なんて簡単に殺せるんでしょ?だから、お願いだからこれ以上絡んで来ないでよ…。お願いします…」
フリーダさんと仲良くなれて、私はちょっと勘違いしていたみたいだ。プリンちゃんもこっち側だと勝手に思って接していたけど、彼女は珍しい才能を持っているだけの普通の子。この世界を外から見ているフリーダさんやドナベさんとは根本的に違うんだ。私なんかと仲良くなろうとする奴は、この世界の常識の外にある奴か、こちらの顔色を伺ってる奴か、私の事を何一つ理解せずに絡んでくる奴だけなんだ。
「雑炊さん、どうかこれっきりにして下さい。お願いします…。私、人形盗んだりしてませんし、人形をボロボロにして捨てたのも誰にも言ってません。信じて下さい」
プリンちゃんは、化け物を見るような目でこちらを見て、私に頭を下げた。
「う、うん。今まで無理させてごめん。有難うね」
その後、当然ながらダイエットへの協力は打ち切り。プリンちゃんは私と二人きりになるのを避ける様になったが、誰か他の人が居る時は、何事も無かったかの様に話し掛けてくれる。それは、保身の為の行動かも知れないが、今も話し掛けてくれる事は素直に嬉しかった。
「ぴえん」
私はトイレで泣いたり吐いたりする事が増えた。それを見て笑ったり咎めたりするドナベさんも、既に居ない。そんなこんなで、気が付いたら3キロ痩せていた。