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第七十一話【次郎ゴーレムを求める模様】

「不味い事になったな」

「いや、うめぇだろ」

「違いますよタフガイさん。ブーン様の言う不味いは、状況が良くないという意味ですよ」

「そっか、うめぇからまじいんだな?」

 攻略対象三人が揃った貴重な会話シーンなのだが、今はちっともキラキラして見えない。どっちかと言うと、テカテカして見える。

「ブフゥー、流石は最後に現れたダンジョンという事か。フリーダが編み出したダンジョン攻略戦術が通用せぬとはな」

「全員食欲に負けただけなのを、カッコ付けて言うな!」

 スパーン!

「ブフォ!」

 私はデブと化したブーン様の後頭部にビンタした。普段なら絶対こんな事やらないんだけど、今のブーン様なら殴ってもいいやって思えた。

「で、エクストラダンジョンの最初のフロアで躓いちゃったんだけど、誰か解決策ある?」

 私は最強の六人からデブシックスと化した肉達に意見を求めると、リー君が真っ先に手を挙げた。

「魅了防止のアクセサリーを装備して潜るのはどうでしょつか?」

「採用!」

 公爵家が人数分の魅了防止アクセサリーと、それに加え呪い防止のアクセサリーも用意してくれた。それを装備して、いざダンジョンアタック。

「駄目だー!」

 次郎をうっかり食べてしまい、全員満腹になって帰還。

「バステ対策しても、次郎食べちゃうよ!何でー!」

「カトちゃん、お母さん言いそびれてたんだけど、私魔王やっていたからか、魅了・毒・呪いは元々殆ど効かないのよね。だから、次郎を食べたくなるのはバステ関係無いと思うわ」

「先に言え!」

 スパーン!

 おっかさんをビンタすると、全身の肉がブルルーンと揺れた。

「と、言う訳でリー君の案では駄目でした」

「僕の力が及ばす、申し訳ありません」

「他に意見のある人ー?」

「ハイでぶわ」

 ドレスがピチピチになってるフリーダさんが挙手した。

「予め、ヘルシーな野菜とかで満腹状態にしておいてから、ダンジョンに突入するのでぶわ!」

「採用!」

 私達はスムージーを飲みまくった。飲んで飲んで、吐くまで飲んで、お腹タプタプでこれ以上何も入らない状態でダンジョンに。

 ピーゴロゴロ。

「ちょっとタンマ!トイレ行ってくる!」

「私も」

「オレも」

「僕も」

 結局全員下痢して、空っぽになった胃袋に次郎詰め込んで帰った。

「野菜だけ食べてたら、炭水化物と油も欲しくなるよね」

「でぶわね。一体誰でぶの?こんな誰でも失敗すると分かる下策を提案したのは」

「お前じゃー!」

 スパーン!

 私のビンタを受けて、フリーダさんはビヨンビヨンと左右に揺れ続けた。

「雑炊さん、貴女他人の意見に乗っかってばかりでぶわ。貴女は何か案はありませんの?」

「実はある。そして、実行中だよ。もうすぐ、その効果が現れるはず」

「勿体ぶらず、教えるのでぶわ」

「ま、取り敢えずいつも通りダンジョンに入ってみてよ」

 私の策に從い、私含む六人は入口の穴に身体を押し込んで入る。

「皆ー!おっかさんを引っ張れー!」

「んきゃあー!」

 おっかさんは、最早自力では穴を通れないので、先に入った五人でおっかさんを引っ張って、何とかダンジョンの中へ入れた。

 そして、全員が中へ入って辺りを見回すが、いつもと様子が違う。

「次郎の臭いがしねぇぞ!足音もしねぇ!」

 このフロアから次郎の気配が無くなっていた。それに真っ先に気付いたタフガイが私の方に振り向く。

「雑炊、おめぇが言ってた策って、これかぁ?」

「うん。次郎を見たらどんなに抵抗しても食べてしまうなら、そもそも次郎が存在しなければ先に進めるんだよね」

「でもよ、どつやってやったんだよ?」

「なーに、簡単な事だよ。おっかさんの魔界に居た頃のおぼろげな記憶を元に書かれた魔物辞典では、次郎ゴーレムは量産ラインには乗らなかった試作機って書いてあったよね?」

「ブヒブヒ」

 身も心も豚になりかけているおっかさんが頷く。

「つまり…次郎の総生産数はそんなに多く無い!私達が食べ尽くして絶滅したんだよ!」

「それのどこが策だぁ!」

 ボカッ

「ピギー!」

 タフガイの裏拳を喰らい、私の顔面が陥没したが、顔の脂肪にめり込んだだけだったので、数秒で元に戻った。

「偉そうに言ってたけど、結局はただのゴリ押しじゃねえか」

「お待ち下さいタフガイさん。問題はそこじゃありませんわ。雑炊さんの言ってる事が確かならば、私達はもう二度と次郎を食べる事は出来ないのでぶわ」

 フリーダさんの発言に場が凍りつく。次郎を知ってしまい、次郎の為に冒険していたと言って良いまでになっていた私達にとって、次郎レスは耐え難い現実だった。

 そんな中、一人のデブが立ち上がった。勇者テリウスの再来と呼ばれし豚、ブーン様だ。

「皆、こんな時こそ前を向くのだ。我々は冒険者。魔物という試練を乗り越えて豊かさを手にして来たチャレンジャーだ」

「ですがブーン様、その試練は最早存在しないのでぶわ」

「だからこそ、今は前に進まねばならん。この先にあると信じ進むのだ。そう、魔界にしか存在しない魔物が出るこのダンジョンの果ては魔界に通じている可能性が高い!ならば、次郎ゴーレムの生産工場もそこにある!」

 ブーン様の演説により、私達の目に光が戻る。このダンジョンが魔界に繋がっているなら、次郎の製造元も見つかる。その気付きは私達に夢と希望を与えてくれた。

 別次元に存在し、こちらから行く事が出来ないとされてきた魔界への侵入が出来るかも知れないという部分こそが本当に重要な部分なのかも知れないが、ジロリアンと化した私達には次郎しか見えなかった。

「イクゾー!」

「「「オオオオオ!!!」」」

 ブーン様を先頭に、ブタシックスは走り出す。目指すは次のフロアへの階段だ。


「うわあああっ!次郎を喰い尽くしたデブがダンジョンを練り歩いているーっ」

 私達の進軍に気付き、狼タイプの魔物が立ちはだかる。

「確かアレは…、あった。『無い袖ウルフ』だ」

 次郎喰いまくる日々の間に製本化されてた魔物辞典を開き、目の前の魔物について確認する。


【無い袖ウルフ】

 人間の服を着て人間社会に溶け込もうとしていた袖ウルフ族の異端児。人間の服なんか着るのを辞めて、完璧な犬として己を鍛え続け最強の袖ウルフとなった。だが、同族が皆服を着ているせいで、フルチンの変態と呼ばれている。


「食用じゃない普通の魔物だよ」

「ならば、消すのみですね。レインボードラゴン!」

 リー君の手がら無詠唱で七色の竜が発射される。次郎を倒しまくり喰いまくったリー君は、このダンジョンに入る前とは比べ物にならないぐらい成長し、全精霊の力を借りた最強攻撃魔法を連発出来るまでになっていた。

「ギャゴーン!」

 完璧な犬こと無い袖ウルフはその実力を見せる事無く死んだ。いや、彼はその死によって私達及び、次郎との実力差を示す指標となったのだ。

「次郎ゴーレムなら僕の魔法に二発耐えたのに、こいつは一撃ですか。どうやら、次郎ゴーレムは少数生産なだけあって、このダンジョン内でもかなり強い魔物だったみたいですね」

「ならば、臆する事は無い。進むぞ!我らの次郎を取り戻すのだ!」

「メシイイイ!」

「ブォーフォフォフォ、次郎で鍛えた私達を止めたければ次郎を持ってくるのでぶわ!」

「ブヒブヒ」

 ダンジョン入口で最強格の雑魚を配備するという戦術に苦戦した私達だったが、それを突破した事て、今までに無い力を手に入れた。さあ、お遊びはここまでだ。これまで足踏みしていた分、一気に突破してやろう。


 …ゴールに次郎があると信じて!


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