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第七十話【次郎はある意味最強だった模様】

 ボヨヨ~ン。

「おっかさん、大丈夫?」

「大丈夫よ、問題無いわ」

 私は幸いにもおっかさんのお腹の上に落ち、おっかさんは厚い脂肪で落下ダメージを無くして、親子揃ってノーダメージだった。

「一体何が起こったんだろう。おっかさんの体重に床が耐え切れずに遂に床が抜けたのかな」

「多分違うわ。カトちゃんも聞いたでしょ?ダンジョン解放の条件が達成されたって。私のオフィスが、そのダンジョンの入口だったのよ」

 私は先程のアナウンスの内容と、ドナベさんの最後の言葉を思い出す。エクストラダンジョンの名は『冒険の終着点』、ドナベさんの最後の言葉は『冒険の終着点でまた会おう』。

「これって、つまり…」

「どうしたのカトちゃん?」

 私は直ぐにピンときたが、ドナベさんの事を知らないおっかさんは分かっていなかった。

「取り敢えず、上へ戻ろう。ここが魔王撃破する事前提の隠しダンジョンなら、ラスダンより強い敵が…」

 ズシーン、ズシーン。

「ほら、噂をすれば来た!おっかさん!私達が落ちた穴から帰るよ」

「待って、あれは…」

 足音を響かせてこちらにやって来たのは、おっかさんに引けを取らない巨体のゴーレムだった。その全身からはモヤシとキャベツがはみ出し、ニンニクと醤油の香りをプンプンさせている。

「ゴァァァァァァ!!」

 コストもレシピも無視して作られた禁断の存在。ゴーレム族幻の最強。次郎ゴーレムが、逃げようとする私達の前に立ちはだかった。

「「いただきマンモスー!!」」

 私とおっかさんは逃げ帰ろうとしていた事を一瞬で忘れ、次郎に飛び掛かった。

「ペロペロペロペロ」

 私は次郎の足にしがみついて、膝裏を舐め回す。

「むーしゃむーしゃむーしゃ」

 おっかさんは次郎とがっぷり四つに組み、そのまま頭にかぶりつく。

「ゴァァァァァァ!」

 無論、次郎もこのまま食われてなるものかと暴れる。おっかさんのツノを掴み、合掌捻りで投げ飛ばすと、膝の裏にしがみついていた私をハエの様に叩き潰した。

「ゴア〜」

 私達を撃退した次郎は、ホッとした顔で来た道を戻ろうとする。だが、私達は起き上がり、彼を逃さなかった。

「次郎君、どこいくのぉ?」

「おのこしは許されないんだよ」

「ゴアっ!?」

 私は首と背骨がおかしな事になってるし、おっかさんはツノが折れていた。にも関わらず、次郎目掛けてかぶりつく。この時の私達は完全に食欲に取り憑かれていた。皮膚が裂け、骨が折れ、胃袋がパンパンになっても次郎完食を諦め無かった。

「ゴ…ア」

 決着は多分一時間後ぐらい。仕事で痩せてきていたおっかさんがリバウンドして、私も過去一デブったが、次郎はゴーレムコアのみを残し、完全に動かなくなった。

「勝った!さあ、帰ろう。三時間ぐらいゴロゴロしてから!」

「そうよね〜、眠くなってきちゃったもんね〜」

 私達はここの危険性をすっかり忘れて、床でゴロゴロしていた。すると、地響きが聞こえて来た。

 ズシーン、ズシーン。

 ズシーン、ズシーン。

 ズシーン、ズシーン。

「ゴア!」

「ゴア!」

「ゴア!」

 次郎×3襲来。しかも、それぞれ具材がマシマシされてたり、カレーの臭いがしてたり、水気が無くてカッチカチだったりする、カスタム次郎達だ。

「やべえ、喰いきれねえ!じゃなくて、勝てる気がしねえ!おっかさん、逃げるよ!」

 我に返った私は、おっかさんのお腹を蹴飛ばして起きる様に促す。

「ムニャムニャ、もう食べられない〜」

「そうだよ!食べ切れない次郎がこっち来てるから、今度こそ帰ろう!」

「わ、分かったわ。とうーっ!」

 おっかさんと私は、落ちて来た穴へ向かってジャンプし、地下五階の床にしがみついた。だけど、下腹がつっかえて脱出出来ない!

「おっかさん、お腹引っ込めて!」

「二人同時に穴へ飛びついたからこうなるのよ!カトちゃん、ちょっと下に降りて!」

「ふざけんな!今降りたら、確実に次郎三人前に殺されるわ!おっかさんが降りてよ!」

 上半身は地下五階、下半身はエクストラダンジョンの状態で、親子で醜い争いをしていると、ヘルメットを被りロープを手にしたフリーダさんが駆けつけた。

「何してますの、貴女達は?…クッサですわ!臭いし、太ってるし、ボロボロですし、本当に何がありましたの!?」

「あっ、フリーダさん助けて!」

「私の下半身を、次郎がツンツンし始めたわ!直ぐに引き上げてー!」

 私達はフリーダさんに引き上げられ、リザレクションで怪我を完治させて貰った。体重は戻らなかった。


「…ふむふむ、どうやら解放された隠しダンジョンというのは、この穴の先で間違い無いみたいですわね」

 私達に何が起こったのか説明を聞いたフリーダさんは、状況を理解して頷いた。

「魔王の撃破、魔物辞典の完成、サフランさんの生存、どれが条件なのかは分かりませんが、これは私がプレイしていたゲームでは、存在はしていても発見はされなかったダンジョンですわ」

「存在は分かっているなら、発見されたんじゃ無いの?」

「ゲームを作った会社が、まだプレイヤーが見つけていない隠しダンジョンがあると発表したものの、当時どのプレイヤーもそこへ辿り着く方法を見つけられ無かったのですわ。なので、このダンジョンは私が過去に見つけたものとは違う、本当の意味での隠しダンジョンなのですわ」

 大体分かってきた。噂話とか伝説の類だったって事か。

「私達の世界で言う、勇者テリウスみたいなもの?先代魔王を倒し、冒険者学園を作ったけど、その素顔は伝わって無いし子孫も見つかってない。だけど、確かに居たって事だけは伝わっている」

「そうそう、そんな感じですわ。そして、そのダンジョンが今ここに出現した。その名は『冒険の終着点』」

「ドナベさんが最後に言っていたのと同じだよね?」

 あの時は、死ねばあの世でまた会えるというのをカッコ付けて言っていただけと思ったけど、伝説の隠しダンジョンと同じ名前がドナベさんの口から出ていた事はとても偶然とは思えない。

「恐らく、ドナベさんはこのダンジョンの出現を予感してたのですわ。そして、私達に攻略して欲しいと願っているのですわ」

「だとしたら、ドナベさんはまーた面倒な事を私に押し付けようとしてたのか。まあ、丁度暇を持て余していた所だし、攻略してみますか!いいよね、フリーダさん?」

「ええ。このダンジョンが王国にどの様な利益、或いは危機をもたらすのかを確かめねばなりませんわ。こちらからも、お願いしますわ」



 こうして、エクストラダンジョン『冒険の終着点』への挑戦が正式に決まり、原作で攻略対象だった三人が集められた。

「ここに集まりしメンバーは、私が考えた最高の六人ですわ。ただ強いだけでは無い、ドナベさん絡みのダンジョンを攻略するのですから、彼女に関する情報を共有出来るメンバーを揃えたという訳ですわ」

「た、頼もしさしか無い!」

 前衛はブーン様、タフガイ、おっかさん。後衛はフリーダさん、リー君、そして私。

「やった!夢にまで見たけど実現出来なかったハーレムパーティが遂に完成した!要らない奴二名いるけど!」

「雑炊さん、声に出てますわよ」

「カトちゃん、私は良いけど、お友達にそんな事言っちゃ駄目よ。フリーダさんが呼び掛けなきゃ、このイケメンボーイズは揃わなかったんだからね」

「うん、フリーダさん、おっかさんメンゴ!」

 多少チームワークはギクシャクしてるが、きっとダンジョンで冒険してる内に上手く回るだろう。この六人で、エクストラダンジョンを制覇する。

「イクゾー!」

 私達は次々と穴へ飛び込み、ダンジョンのゴールへ向かい突撃した。

「撤退ー!」

 三十分後、次郎の食べ過ぎで全員デブになった私達はロクに動けなくなり、泣く泣く撤退した。次郎強すぎ!

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