「クックック、お主らが揃いも揃ってアホじゃったおかげで、ワシにも勝ちの目が出て来たぞい。貴様らを皆殺しにした後は一般女性として潜伏してくれるわ!」
魔王め、思ったよりセコいぞ!だけど、コイツの言ってる事は正しい。私とフリーダさんとドナベさんが『魔王ってどんな見た目なの?』と事前に確認していれば、こんな悲惨な事態にはならなかった。これは、おっかさんの生死から目を背けていた私の責任だ。思い込みで魔王をおっかさんだと思い込んでいたフリーダさんとドナベさんも悪いけど。
「調子に乗るなよ魔王!こっちは最強の悪役令嬢と彼女が認めたパーティが揃ってるんだよ!そのメンバーに、ついさっき、私がウンコしてる間に瞬殺された癖に偉そうしないで!」
「最強のパーティとは、そこで倒れておる奴らの事か?」
私が事実を告げると、魔王は笑いながら後ろを指差した。そちらを見ると、頼れる人々が全員倒れていた。
「フリーダさん!トム!それに、A級プロ冒険者の人達も!何で倒れてるの!」
「クックック、ワシは寄生能力を持った魔族である事は既に知っておろう!ワシの治療に全力を注いでくれたお礼に、奴らにワシの霊体を少しずつ分割し寄生させたのじゃ!警戒しとったお主は無理じゃったが、他の奴らは手術に集中しておったから簡単に取り付き、体力と魔力を奪う事が出来たのじゃ!」
「命を救って貰っておいて、やる事がそれか…!」
魔王の汚い戦術に、私が歯ぎしりしながら怒りを吐き捨てる。が、魔王はそれでもこちらを嘲笑い続ける。
「何じゃ、卑怯じゃと言うのか?ワシじゃって、強者の矜持を持ち、正々堂々と勝負したい思いはあったわい。じゃが、人間の国の支配を任せたシュビトゥバは音信不通じゃし、新しく将軍に任命したケンタワロスの女王は最初の任務で死ぬし、もうワシ自身が出るしかねえなと予定を繰り上げて出陣したら、使い捨てマジックアイテムの一斉射撃で秒殺されるし…ううっ、ワシが何をしたと言うのじゃー!」
魔王がこんなに早く現れたのは、そういう事だったのか。確かに、ここまで計画失敗続きなら、おっかさんのボデーが馴染む前に出てきても仕方無いのかも知れない。
「おっかさんをヒドイ目に遭わせた張本人だから同情はしないけど、魔王も大変だったんだね」
「そう思うなら、このまま全滅して欲しいのう。ワシはここを出たら人間のフリしてスローライフするんじゃ。もう、魔王軍はガッタガタじゃからな」
「そんな事、絶対させない!ここに居る皆は、私が守る!」
私は便座に飛び乗り、ヒットアンドアウェイスタイルで魔王に立ち向かう。フリーダさんと争った魂焼覇気決勝と同じ、時間稼ぎの戦闘スタイル。確か、おっかさんと魔王の分離手術を始めた時に、援軍を呼びに行ってくれた人が居たはず。それが戻ってくるまで…。
「魔王ボンバー!」
チュドオオオオン!
魔王の右手から炎魔法が発射され、私が入っていたトイレに直撃。ウンコに引火したのか、どえらい爆発を起こして隣にあるエレベーターも崩壊させた。
「増援の目、潰えたー!」
「バーカバーカ!お主の企みなぞお見通しじゃー!これで援軍は当分来ぬ!見た所、お主一人なら重傷のワシでも勝てそうじゃ。覚悟せーい!」
そう言い、魔王は両手をグルグル回して私達を殴ってくる。
「魔王百裂拳じゃー!」
私も、おっかさんの杖を振り回しながら、便座機動術で対抗する。
「どすこいどすこいどすこーい!」
「そんなふざけた攻撃が魔王に通じると思うたかー!」
ポカポカポカ!
「うわっ、魔王のパンチ地味に効く!」
若作りアラフォーが手をグルグルしてるだけに見えだが、腐ってもラスボス。前転でもダッシュでも絶妙に避け辛いタイミングで手を出してくる。それに、触れた途端身体から力が抜けて行く。人間に寄生する力を、戦闘にも利用しているのか!
「こ、この魔王、ケンタワロスの女王よりは幾分強い!まずいよ、このままじゃ私も倒されて全滅する!」
「クックック、頼むから増援が来る前に倒れるんじゃ!お主が歯向かってくるから逃げれんし、いつ新たな敵が来るかヒヤヒヤしとるんじゃい!つーか、何でワシが人知れず復活する為に用意したダンジョンが人間の支配下にあるんじゃー!」
コイツを逃がしたら今までの全てが無駄になると焦る私。
いつか来る増援に怯え、焦る魔王。多分、私も魔王も絶好調時の半分以下の力しか出せていない。
「皆〜起きろ〜!誰か〜来て〜!」
「起きるな〜!来るな〜!」
私達は真逆の願いを叫びながら戦い続けた。魔力と体力が徐々に削られていく感覚。これが、ラスボス戦という奴か。こんなんが、ラスボス戦なのか。
「ハア、ハア、キツい…本当にキツい。スタミナには自信あったんだけどなあ」
「のじゃ、のじゃ、キツいのじゃ…はよ倒れろ。何じゃ、こやつのしぶとさは」
お互い決定打が撃てず疲れていく。でも、魔王は便座で飛び回る私を捉えるのに手こずって疲れてるだけだが、私の方は本気で体力の限界が近い。死ぬ寸前まで元気一杯の主人公体質な私が息苦しいと感じてるって事はマジヤバいって事だ。
「誰かっ、ここに居る奴でも、ここへ向かってる奴でも誰でも良いからー!」
私は最後の力を振り絞り、魔王に歯向かいながら叫ぶ。しかし、やはり誰も助けは来なかった。
「無駄じゃ、誰も間に合わん!お主は頑張ったが、運はワシに味方したのよ!」
私にトドメを刺そうと、命を吸い取る拳が迫る。
「サフランの娘、死ねよやーっ!」
ガギン!
「…のじゃ?」
私を狙った拳は、近くにあった硬い物にぶつかり、金属を叩いた様な音が響き渡った。私の頭に固定されていた土鍋が、自力で動き、私を守る盾となったのだ。
「あーあ、思わず加勢しちゃったよ。これ、ルール違反だからやりたく無かったんだけど。雑炊もフリーダも情けないから」
助けは来た。否、彼女は最初からそこに居た。戦えない存在だと思い、頭数に入れて無かった存在が、初めて戦闘に介入したのだ。
「何じゃ、お主?どこから現れたのじゃ?」
「こんにちは、僕ドナベさんです」
魔王の問い掛けに対し、彼女は私と出会った時と同じ様に名乗った。
「ドナベさん!戦えたの?」
「それも含め、説明しなきゃだけど、今は戦闘中。それでも、伝えなきゃいけない時は」
来るぞ、アレが久しぶりに来るぞ!
「最近普通の回想ばかりで影の薄くなってたホンワカパッ波〜!」
最近使って無かったせいで溜まってたのか、ドナベさんの両目から凄まじい光が発生し、私と魔王の目を眩ませる。
「何なのじゃー!また、ワシの知らん何かなのじゃー!もー、やだー!」
そうだよ魔王…、お前の知らない不思議な力だよ…。お前も…、脳を焼かれてしまえ…。
(ホワンホワンホワ〜ン)
グオオオ…、我は魔王…、魔物達の救世主なり…。そうか…、ここはゲームのヒントや…、裏話をするコーナーなのだな…。
ならば…、我は魔王とは何かについて話してやろう…。
このゲームを最後までプレイした者なら…、魔族が人間世界の資源を狙っている事は知っているな…?つまり…、人も魔族もやっている事は同じ…、魔族とは冒険者…、魔王とは魔族側の勇者なのだ…。
ここまで言えば分かるな…?そう…、我は魔王と呼ばれてはいるが…、魔族社会のトップでは無い…、文明発展の為に未踏の地へ挑み貴重な品や情報を持ち帰る…、そんな危険な仕事をしている雇われの存在でしか無い…。
それ故に…、例え魔王を倒しても…、いずれ新たな魔王が現れるという事だ…。お前達が魔族の侵攻を終わらせたいのならば…、挑んでみるがいい…。真なる魔族の王の下へ行く手段を見つけ…、真の黒幕に勝利したならば真の決着が訪れるかも知れん…。
(ホワンホワンホワ〜ン)
「うおおお!な、何じゃ、さっきのクソ渋い、イケボのつよそーな魔族は!?」
「このゲームのラスボス。来年の三月まで出撃を我慢し、雑炊のおっかさんの肉体を完全に支配した君だよ」
「マジでっ!?ワシ、後一年出陣我慢してたらあんなのになれてたの?だったら、人間界に出て来なかったら良かったのじゃー!」
魔王は、自分が強くてカッコよくなれる機会を失った事で、かなりのショックを受けていた。おっかさんのカッコよさを褒めて貰ったみたいで、私も鼻が高い。
「くっそー、ここ数年間、やる事為す事失敗だらけじゃ!せめて、この戦いだけは勝ってやるのじゃ!結局、お前が誰かは知らんが喰らえー!」
魔王は、不快な物を見せられた恨みを込めてドナベさんを殴る。だが、魔王の拳はドナベさんの身体を通り抜けてしまう。知ってた。
「な、何でワシの攻撃が当たらんのじゃー!」
「僕には、戦闘中の当たり判定が設定されて無いからさ」
「意味が分からんのじゃ!」
魔王はすっかりドナベさんの方に注意が向いている。このチャンスを逃す手は無い。私はおっかさんの杖を使い、最大級の魔法を詠唱する。
「雷と闇の精霊よ、この地を無限の稲妻で覆いつくせ」
「しまった!こいつの事を忘れてたのじゃ!」
魔王が私の魔法から逃れようとするが、既に私の詠唱は終わっている。
「ダークサンダー!」
ゴロピカドカーン!
黒い稲妻が杖から発射され、魔王の身体を貫いた。