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第六十四話【母と再会と裏切りな模様】

 私が現場に来た時、既にその人物は拘束されていた。

 フリーダさんとトム、それからA級パーティに取り囲まれていたのは、身長三メートルはある大柄でツノの生えた存在。デール先生と融合したでかツノに似ているが、こちらは目が二つあり、ツノも二本あった。

 そして、その巨体の胸元からは女性の上半身が生えていた。

「カトちゃん…?」

 こちらに気付いた女性が私に気付き、語り掛けて来る。

「おっかさん」

 最後に見た時より、痩せているが、間違いようが無い。私の母、サフラン・ライスが魔物と結合した状態で目の前に居る。

「『この人』は貴女の母で、間違いありませんわね?」

「…うん」

「はあ!?」

 フリーダさんの質問に私が頷くと、トムが信じられないという顔でこちらを向いた。

「お前の母ちゃんが、何で魔王復活予定地から出て来るんだよ?」

「後で説明する」

 私は、トムへの説明を後回しにして、これが何なのかフリーダさんに確認する。

「フリーダさん、『コレ』が魔王なの?」

 おっかさんと結合した生物を指差して聞くと、フリーダさんは頷いた。

「私の知っている魔王は、この肉体の胸部に女性の顔が浮かび上がっていた姿をしてましたわ。それは、この二人が完全に融合した姿と言って良いですわ」

「じゃ、じゃあまだ完全に融合してない今なら」

「切り離せば助かるかもですわ。何で今、不完全な状態で出て来たかは知りませんが、チャンスですわ。ですが、それには、ここに居る皆様の助けが必要ですわ」

 事情が分からず、何をして良いのか分からないトムやプロ冒険者の人達にフリーダさんが指示を出していく。

「ユースさんは、このまま拘束を続けて下さい」

「はいっ!」

「ポンチョさんとジュレさんは、この二人を切り離す手術をお願いします」

「ははっ!」

「分かりました!」

「マレードさんは、他のパーティに連絡を」

「行ってきます!」

「オーレンさんは、手術が終わるまで、そこで踊り続けて下さい」

「お任せ下さい!精霊に感謝を捧げ、手術の成功を祈ります!はーっ!」

 A級パーティの人達に指示を出し終わったフリーダさんは、魔王とおっかさんにリザレクションを掛け続ける。おっかさんと魔王の結合部分は切断と縫合を繰り返しながら、少しずつ剥がされていく。

「雑炊さん、お母さんに語り掛けてあげて。トムは出番が来たら合図しますので待機」

「う、うん!」

 私は拘束され手術を受けているおっかさんの顔を見ながら話し掛ける。

「おっかさん、聞こえる。私だよ。娘のカトちゃんだよ」

「カトちゃん…そこに居るの?私は、今どうなっているの?」

「ウガオオー!ウガオオー!」

 おっかさんに私の声は届いている様だか、相当苦しそうだ。そして、魔王も苦しみながら必死の抵抗をしているが、拘束を破る事が出来ないでいた。

 おっかさんも魔王も不完全ながら結合をしているから、引き剥がすと両方の命に関わるのだろう。私は必死でおっかさんに呼びかけ続ける。少しでも、生きる気力の足しにする為に。

「おっかさん、ここに来るまでに色々あったんだよ?本当に色々!会えて嬉しいよ。話したい事がいっぱいあるんだ。けど、まずはおっかさんにここを乗り越えて貰わないといけないんだ」

「カトちゃん…、優しい子に育ったのね。この人達はカトちゃんのお友達?」

「ウガ…、ガ…」

 私の声で安心したのか、フリーダさんのリザレクションが効いているのかは分からないが、おっかさんの状態は僅かに落ち着いている気がする。魔王の方も回復しているが、分離が終わるまではどちらも生かし続けるしか無い。

 斬って治してをひたすら繰り返し、結合部分は少しずつ細くなって行き、やがて、へその緒ぐらいの細い筋繊維で辛うじて繋がっている状態となった。

「今ですわ!手の空いている者全員で引き剥がすのですわ!」

 フリーダさんの合図でトムと数人のプロ冒険者が魔王を身体を掴み、私と残りの人がおっかさんを支えて逆向きに引っ張る。

「「「せーのっ!!!」」」

 プチン。

 細くなった結合部分はあっさりと千切れ、二人は完全に分離された。

「やった!」

「まだ終わってませんわ!彼女の回復をし、魔王を再度拘束を!」

 まだ油断出来ないけれど、ここまでくればもう少し!そう思った時だった。

「リザレクション!」

「え…?」

 あってはならない事が起こってしまった。フリーダさんがリザレクションを使ったのだ。魔王の方に。

「…フリーダさん?」

「雑炊さん安心して、これでもう何の心配もありませんわ」

「いや、何を」

 フリーダさんは、洗脳を受けている様には見えない。最初からそうするつもりだったかの様に、魔王を回復していた。

 フリーダさんが裏切って魔王側に付いた?いや、今さらそんな事するはず無い。というか、この事態に対し他の人もドナベさんまでも、誰も止めようとしていない。

これは、つまり、まさか!

 今何が起こっているのか理解した私は、拘束され苦しんでいるおっかさんを指差して叫んだ。

「皆ー!私のおっかさんはこっち!フリーダさんが治してるのは魔王!」

 私は全員が勘違いしている事を指摘したが、彼らは皆私の事を可哀想な人を見る様な目でこちらを見ただけだった。

「雑炊さん、何を言っているのですわ?まさか、その魔王に洗脳されて混乱しているのですわ!雑炊さん、良く見て!貴女がおっかさんと呼んでいるそれは、身の丈三メートル超えの化け物ですわよ!」

「だーかーらー、この三メートルある筋肉の塊が、私のおっかさんなんだよ!」

 私がそう言った瞬間、場が静まり返った。フリーダさんも漸く自分の勘違いに気付き始めた様だ。

「ほら!杖がジャストフィットしてるでしょ?」

 私がおっかさんの横におっかさんの杖を置いて証明すると、フリーダさんは顔を真っ青にしていた。

「フリーダさん、今直ぐおっかさんにリザレクションを!」

「た、確かに杖のサイズから考えたらそうですが…、どちらが人間かと言われると明らかにこっちが」

「魔族は人間に寄生して支配するんだよね?なら、胸に貼り付いていた奴の方が魔族の可能性が高いでしょ!取り敢えず、その女にリザレクションするのは止めて!私、そんな女、見た事無い!」

 フリーダさんは私の説得を聞き入れ、回復魔法を中断した。だが、少し遅かった。

「はーっ、完全復活だー!」

 弱々しい女性の演技をしていた魔王は立ち上がると、その本性を露わにした。

「クックック、いかにも!ワシが魔王じゃ!ダメ元で人間のフリしてみたら、寄生した奴の娘以外全員騙されて、正直驚いておる!」

「そーだよ!フリーダさん、ここまで魔王対策パーペキだったのに、何で最後にこんなミスしちゃうんだよ!」

 私が聞くと、フリーダさんは顔を真っ赤にして小さな声で返答した。

「だって…、魔王とサフラン・ライスが融合した姿は知ってても、それぞれ単体の姿なんて知らなかったですわ…」

 フリーダさんが恥ずかしそうに呟くと、それに続きドナベさんも土鍋の中から同調した。

「ゲーム内では君のおっかさん単体の立ち絵が存在しなかったんだよ。プレイヤーが知ってるのは、胸に女性の顔が貼り付いた巨人だけ。だから、当時のプレイヤー達は、君のおっかさんを救おうとしながら巨人の方ばっか攻撃して倒してたんだよ」

 ゲームではどうやってもおっかさんは助からなかったとフリーダさんは言ってたけど、プレイヤー達の勘違いだったんだ。

 だったら、ゲームの中にも本当はおっかさんが助かる道があったんだと思う。いや、あったんだ!そして、この現実でもおっかさんは助かるんだ!助けられるんだ!今、ここで魔王を倒せば!そう思い込むっきゃない!ここで怯んだら、一生後悔する、いや、ここで一生が終わるんだから!


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