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第六十三話【ウンコと一緒に魔王が出た模様】

 はーめーらーれーたー!

 私はフリーダさんとドナベさんの態度の急変を見て、自分がまたもやこいつらに操られていた事に気付いた。

 あいつら、私から『なる早ラスダン行きてぇ』って言葉引き出す為に、わざと消極的な発言をしていたんだ。じゃなきや、こんな風にニヤニヤした顔するはずが無い!

「いや〜、しょうがにゃいにゃ〜、雑炊がそこまで言うのなら、ラスダン見学会しちゃうしか無いよね〜?」

「このゲームの主人公の決定ですもの。NPCの私達は従うしかありませんわぁ〜」

「あ、あんたらー!さっきは進行不能バグが起こる可能性がとか言ってたじゃない!」

「ああ、その事だったら」


(ホワンホワンホワ〜ン)

 その日も雑炊はフリーダの睡眠魔法でスヤスヤだった。最高級ベッドの力と睡眠魔法のおかげで、朝まで目覚めないとの事だった。

「無属性魔法、グラビティレスですわ」

 フリーダが物質の重さを無くす魔法をベッドと雑炊に掛けて、馬車へ積み込む。生きた人はアイテムボックスに入れられないから、面倒だけどこうするしか無かった。

 んで、馬車で一時間弱揺られて着いたのは魔王が復活する予定地のあるラストダンジョン。

「さ、このベッドをエレベーターまで運びますわよ。ドナベさんは…ベッドを持ち上げるのは無理そうですので、雑炊さんが起きないか見張って下さい」

「君、ラスダンにエレベーター付けたの?」

「付けましたわ。便利ですわよ?」

 僕達はエレベーターにベッドを積み込み、最下層へショートカットする。そして、魔王が現れる予定の場所に雑炊の寝ているベッドを持って行き、三時間観察した。

「スヤァ、スヤァ、おっかさんオイモ…(プッ)」

「雑炊に変化は無いよ。今オナラした」

「魔王の間にも異常ありませんわ。バグ無し、ラグ無し、イベント発生無しですわ」

 こうして、この世界に一つのトリビアが生まれた。

『ラスダン突入フラグ発生前にヒロインをラスダンへ突入させても、特に何も起こらない。83へぇ』

(ホワンホワンホワ〜ン)


「と、いう実験をやってるから、雑炊が今ラスダンに行っても何の問題も無い。多分ね」

「人の身体で遊ぶな。そーゆーのは、私自身に許可取ってやれ。二度と私に黙って勝手な事するな」

「二度としないのは不可能ですわ。だって、もう三回実験しましたもの。私達の関係バラした後に一回、トムにハートが出た後にニ回連れていきましたわ」

「やっぱお前、悪役令嬢だよ!」

 やっぱりそうだった!こいつら、とっくに準備完了していて、私の合図待ちの状態だったんだ!

「さあ、行こうか雑炊。自分の意思でラスダン入った場合のデータを取りに行こうよ」

「まさか、今更おっかさんを助けるのを諦めるとは言いませんわよね?」

「ま、待って!行くよ?行くけど、私はまだおっかさんに会う覚悟が…!ハーレムメンバーの好感度だってマックス行って無いし!行くべきタイミングはもう少し先」

「「ハアー!!カップリング妄想全開!!」」

 ピピピピピ!

 うわっ!今まで冒険とか食事とかでちょっとずつしか変化しなかったハートがどんどんピンクに!

「ホーッホッホッホ、私達は転生者になるくらい、このゲームを、ヒロインを好きなのですわよ!」

「僕らが本気を出せば、こんなもんさ!これこそ真実の愛!」

「そんな真実の愛があってたまるか!」

 二人共、私が好きだという思いに嘘は無いみたいだけど…、ナニコレ!?

「好感度って、世界を救う義務感とかじゃ上がらない、本当に相手を好きにならないと駄目って結論が最近出た気がするんですけどー!?」

「雑炊は勘違いしてるよ。僕達は世界を救う為にヒロインを好きになるんじゃなくて」

「ヒロインが世界を救う姿が大好きなのですわー!」

「あんたら二人はそれで良いとして、トムは?今までハーレムルート前提で動いてきたんだから、トムの好感度も上げておかないと…」

 ガラッ。

「フリーダ様、こっちは準備完了です。何時でも出れる、何だ、雑炊も来てたのか」

 私が名前を口にするのを待っていたかの様なタイミングでゲストルームにトムが入って来た。その頭のハートは、ワロエナス撃破の時はまだ四割ぐらい黒い部分が残っていたのに、ほぼピンク一色になっていた。

「トム、たった一日見ない間に何があったの」

「何を言ってるんだお前、今朝あんな事があったばかりだろ」

「あんな事って?」

「…言わせんな、恥ずかしい」

 トムは顔を赤らめて、私から目を逸らす。

「トム、私達今日はここで会うまでは何も無かったよね?」

「あーら、ここには私達以外に誰も居ないんだから、カマトトぶるのはやめても良いんじゃなくて?」

 フリーダさん、一体何を言ってるん?全く身に覚えの無い事を言われて、口をパクパクしている私を無視して、フリーダさんの回想が始まった。

「そう、あれは今朝の通学路での事でしたわね…」


(ホワンホワンホワ〜ン)

 今朝学園前で私は偶然見てしまったのですわ。

「うー、遅刻遅刻ー」

 そう言ってチクワを口に咥えて走る雑炊さんが、曲がり角でトムと激突して、倒れたトムの顔の上にお尻から落下しましたわ。

「キャアアア!トム、何を見てるの!早くどいてよぉ!」

 雑炊さんのスカートの中にトムの顔面がガッチリホールドされてましたわ。

「ど、どけって言われても、俺の上に乗ってるお前がどいてくれないと、動けないんだよ」

「トムのバカ、変態!むっつりスケベ!」

 雑炊さんは必死に足を閉じようとしてましたが、それにより太ももでトムの顔をより強く挟み込んでしまってましたわ。このままでは、私以外にも目撃され、トムは変態として学園中に知られてしまう。そう思った私は、二人の間に割って入り、トムの顔面を何とか引き剥がしたのですわ。でも、ギリ間に合いませんでしたわ。

「おお、我が愛しの君よ!君がそんなだとは思わなかった!やはり、私にはフリーダしか居ないのだ!」

「僕の計算が正しければ、雑炊さんがビッチの可能性100%。お付き合いはこれまでとしましょう」

「せっかく鍛えた筋肉が、そんな使われ方されて泣いてるぞ」

 偶然この時間に登校していた雑炊さんのハーレムメンバーが順番に現れて、別れを告げて走り去って行きましたわ。やったぜ。

「ううー、私のハーレムがー!トム、責任取ってよ!」

「責任取れとか言われても、てか、お前いつの間にあの三人とそんな関係に」

「今はそんな事どーでもいいでしょ!今日からはアンタは私の奴隷!私が冒険に行く時は断らず着いていく事と、今日の事は誰にも言わない事を約束して!」

「ま、まあ、それで良いのなら約束する」

「フリーダさんも、黙っててね!」

「ハイハイですわ〜」

 と言った感じの出来事が、つい半日前にあったばかりですわよね?

(ホワンホワンホワ〜ン)


「劇団フリーダ!」

 私はまたもや、はめられた事実にショックを受けて机に突っ伏した。

「だ、大丈夫か雑炊!?そんなに思い出したく無い程ショックだったのか?」

 トムが見当違いの心配をする。

「…トム、アンタ私のパンツ見たんだよね?」

「見てない!俺は赤いふんどしなんて見てないぞ」

 やっぱり、ボンゴレの変身かよ!今ここで、真実を告げるのは可能だが、それをやると転生者関連全部話さなゃならないし、朝のが変態忍者な事も言わなきゃならんし、死ぬ。トムの心が間違いなく死ぬ。

「もうっ…!この話はヤメにしよう…!お互い辛いだけだから…」

 私はそう言うのが精一杯だった。

「プププー、フリーダの奴、中々やるじゃないか」

 私の頭の上の土鍋がバイブレーションしている。ドナベさんが必死に笑いを堪えてるからだ。

「もう、分かったよチクショー!やってやる、やってやるぞ!」

 私は気持ちを切り替えて、ラスダンへ行く覚悟を決めた。


 フリーダさん家から割と近く、馬車で四十五分の距離にラスダンは存在した。ゲームだと、山奥に隠れ幻術で普段は入口も見えず、近づこうとすれば公爵家に属する精鋭冒険者から排除されるその場所は、こちらの世界だと入口までの道路が整備され、辺境伯管理の下で完璧な管理をされていた。

 そんでもって、地下ニ階までは一般冒険者にも公開されており、地下五階に存在する魔王復活予定地ではA級冒険者パーティが三交代制で見張っており、魔王は復活次第撃退出来る様になっているそうな。

「雑炊さん、トム、着きましたわよ。ここが、関係者以外立ち入り禁止の『魔王の間』ですわ」

 地下五階最深部。そこには、魔王復活予定日の書かれた看板が立て掛けられ、地面にはチョークで魔王出現予測地点のラインが引かれ、その地点に向けてA級冒険者が常に目を光らせ、使い捨ての爆弾型マジックアイテムを構えていた。

「何と言うか…魔王も哀れだよな。人間による研究が進んで、出現と同時に倒される運命だなんて」

「そうだね」

 魔王と私のおっかさんの関係を知らないトムが、私に語り掛ける。多少カチンときたが、何も知らされて無いトムに当たっても仕方無い。私のモヤモヤは、後で魔物にぶつけるとしよう。

「フリーダさーん、私達はここでどれぐらい待機してればいーの?」

「今日は三時間程、このフロアで待機して欲しいですわー。トイレはエレベーター横にありますので、自由に使ってかまいまけんわー」

 今回このダンジョンに来たのは、原作の手順色々はしょって私がここへ来たら魔王戦が始まるのか否かの確認だが、私達の関係を一からトムに話すと面倒この上ないので、魔王出現予定地監視のお仕事という事になっている。

「トム、ひょっとしたら今日魔王が現れるかもしれないから、何時でも戦える様に身構えておいて」

「まだ一年半ぐらい先の話だし、戦うのはプロの人達の仕事だろ。仮に出てきても俺如きが戦力になるかよ」

「それでも、他の魔物が出るかもだから、注意はしておいて」

「分かってる。一応魔王の出る場所らしいからな」

 そんな話をしていると、ちょっとお腹が痛くなってきた。

 ピーゴロゴロ。

「は、はうあ!」

 マズイ、ちょっとどころじゃ無い。とても三時間我慢出来ない。

「トイレ行ってくる!フリーダさんどこ?」

「フリーダ様はプロ冒険者と話してるみたいだし、俺が伝えておく。漏らす前に行ってこい」

「そんしゃ、連絡ヨロシク!」

 私はエレベーター横のトイレに入ると、少しでも早くトイレを終わらせる為に全力で踏ん張った。

「しゃあっ!」

 チュドオオオオン!!

「ファッ!?」

 私が踏ん張った瞬間、ダンジョンの奥の方から爆発音が響いて来た。そこからやや遅れて、冒険者達の悲鳴が聞こえてきた。

「フリーダ様、魔王出現です…、いや、魔王なのかこれ?」

「取り合えす無力化しました!」

「フリーダ様の言ってたのと違う気が」

「雑炊さーん!どこですわー?」

「雑炊ー!今直ぐトイレから戻って来ーい!」

 何か明らかに外の様子がおかしい。魔王が出たにしてはそんなに慌てて無さそうだけど、現場が混乱してるのは確かだ。

「ドナベさん、私のウンゴは?」

「カッチカチだよ」

「それは不幸中の幸い!」

 私は尻を拭かずに現場に舞い戻った。私がラスダン最深部でウンゴしたら魔王っぽい何かが出た。その因果関係は不明だが、ここまで来たら逃げる訳にもいかない!取り敢えず見に行って確認する!

「フリーダさん、遅くなってごめーん!」

 私が魔王の間に辿り着いた時、目にしたソレは紛れもなく…!


 魔王との決戦まで、後一年と半年ちょっと→なう!


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