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第六十一話【パーティ追放な模様】

 B級冒険者向け最難関ダンジョン『人馬の大迷宮』。その名の通り、人と馬の融合したかの様な魔物が大量に発生するダンジョンであり、ドナベさんとフリーダさん曰く『体感での厳しさならラスダンに並ぶ』場所である。

「二人共ー、スグニ連れて来たよー」

「俺様参上!」

 私は、先にダンジョンに入っていたフリーダさんとトムに合流した。

 今回のダンジョンアタックの目的は三つ。私の育成の総仕上げ、攻略対象二名の好感度上げ、そして、攻略対象かも知れないスグニの真偽判定だ。この難関ダンジョンで激戦を突破すれば、強さも好感度もウッハウハって訳。それでもハートが出なければ、やはりスグニはハズレと考えて良いだろう。


「よいですわ、雑炊さん?防御力の高いトムが前衛、範囲ヒーラーのスグニが後衛、そして両翼を私と貴女で固めますわよ」

「おけ!」

 私達はバランスに定評のあるフォーメーションでダンジョンを進む。暫くすると、このダンジョンのメインモンスターの群と出くわした。

「おっwおっwおっwおっw」

 独特の笑い声を発しながら徘徊する下半身が馬の集団、ケンタワロスの群だ。

「あいつらの弓と魔法書、高く売れるんだよねー。ジュルリ」

「雑炊さん、お金に目が眩んで油断や深追いだけはしないでですわ。来ますわよ!」

 ケンタワロスの群は半分はダンジョンの奥へ逃げ、その場に残った半分は魔法と弓で攻撃してきた。足が速く臆病で狡猾で常に集団で動き、遠距離からチクチク攻める。

 ハツキリ言って難敵だ。チクチクとは言うが、入学式時点の私なら一撃で終わるぐらいの威力がある。

「うおおあお!便座シールド!」

 そんな射撃と魔法攻撃を一人で全部防いてくれているトムは結構凄いと思いました。まる。

「雑炊さん!」

「うん!」

 トムが攻撃を受けてくれている間に私達は無属性魔法でケンタワロスを一匹ずつ倒していく。

「マジックボール!」

「ですわー!」

 チュドドーン!

 無属性魔法、それは精霊の力を借りず、己の魔力を圧縮して撃ち出す魔法。属性による有利不利関係なく一定の魔法ダメージを与える為、ケンタワロスの様な高位の魔術師相手にも有効となる。

 反面、魔力消費が半端なくキツい。普段私達は精霊さんの助けで魔法が自由に使えてるんだなあと再認識させて貰える魔法。それが無属性魔法である。

「ヤバスw」

「ヤバスw」

「オワタw」

 私とフリーダさんのマジックボールを受けたケンタワロス達は、何人かは力尽き、残りも大ダメージを負って撤退していく。

「よし、敵は撤退したな。ヒールレイン!」

 目の前の敵が去ったのを確認して、スグニが範囲回復魔法を使う。

「スグニ、出来れば戦闘が終わってからじゃなくて、戦闘中に回復して欲しいんだけど?トムが辛そうだったよ?」

「悪い、俺様の回復に敵を巻き込んじまうから、こーするしかねーんだわ」

「でしたら、もう少し後ろに下がって使えば良いのですわ」

「へーい」

 陣形を僅かに修正して、スグニを皆より少し後ろへして先へ進むと、新たな敵が現れた。

「草ァ!」

「ありえん(笑)」

 右手に剣、左手に盾を持った半人半馬の集団が、独特の笑い方をしながら向かってきた。

「ケンタハイワロス、略してワイハが出たよ!」

 ワイハはケンタワロスの兄貴分であり、見た目通り接近戦を得意とする。次々と突撃してくるワイハに対し、壁がトム一人では間に合わない。

「フリーダ様!雑炊!俺では二人止めるので精一杯だ!」

「十分だよ、それっ!」

「セイッ!」

 トムの横を通り抜けて来た相手には、電撃の網と地を這う氷をお見舞いする。ワイハは魔法防御が低いから、こいつらには属性魔法で攻略だ。

「よし、回復魔法ばら撒くぞ」

「お待ちなさいスグニ!そこで使ったら、トムと切り合いしているハイワロスも回復しますわ!」

「ハイハイ、もうちょい下がりますよ」

 回復を受けたトムが残りのワイハを倒して戦闘終了。ここまでは順調だ。

「なんかさ、フリーダさんが事前に言っていた程の難易度じゃないかも」

「それは、パーティで来ているのと、このダンジョンの対策をしているからですわ。前情報無しに雑炊さんがソロでここに来たならと想像してみるとよいですわ」

 私は、フリーダさんに言われた通り、一人で情報無しでここへ来た時の事をシミュレーションしてみた。…あ、最初のケンタワロスの群でチクチクされて死んだ。

「助けてくれー!」

 そう、ちょうどこんな感じに悲鳴を上げて、惨たらしく殺されていただろう。

「カトちゃーん!助けてくれー!」

 悲鳴は脳内イメージじゃなかった。私達から離れ過ぎていたスグニを狙って、ケンタワロスの別働隊が背後から攻めて来たのだ。

「ねぇどんな気持ち?今、どんな気持ち?」

 他のケンタワロスより一回り大きい、女性型のケンタワロスが、スグニを捕まえこちらを煽ってくる。

「あれは、ケンタワロスの女王ワロエナスですわ!このダンジョンには居ないはずですのに!」

「そうだよ!このダンジョンに居るのは、普通のケンタとワイハの二種類だけで、女王はラスダンの隠し部屋にしか出ないって話じゃないの!?」

「ケンタワロスの生息地なんだから、女王が居ても何もおかしくも無いだろ。そんな事言ってる場合か!来るぞ!」

 トムは直ぐに戦闘態勢に入ったが、私とフリーダさんはなまじゲームの攻略情報を知っていたから動揺してしまった。トムが居なかったらちょっとヤバかったかも。

「フリーダ様、あのケンタワロスの女王について知ってるなら、どんな攻撃をするか教えてくれ」

「ワロエナスは男冒険者を魅了し、自分の背に乗せて戦力としますわ。あの様に」

 ワロエナスはスグニに微笑みかける。恐らくああして男を魅了して無理やりパートナーにするのだろう。

「フリーダさん、今気付いたけど、弓部隊と風魔法の組み合わせって結構ヤバくない?」

「ヤバいですわね」

 私達はスグニの風魔法を使えば弓を無力化し、ケンタワロスの機動性を封じる事も出来たと今更気付く。そして、スグニが洗脳されて敵になった場合、追い風と範囲回復を得たケンタワロス側が圧倒的有利となってしまう事実に辿り着き、大いに焦る。

 マズイ!まさか、スグニが人望なさ過ぎてパーティ壊滅の危機となるなんて!

「大・草・原www」

 ペカァァァァァ!

 ワロエナスがとびっきりの笑顔をスグニに向ける。洗脳が終わる前にスグニを奪還したいが遠すぎる。もう駄目だと思った時だった。

「…こいつ無理、生理的に」

 女王は北部に住むキツネみたいな顔になると、捕まえていたスグニをポイッと投げ捨てると、両手と前足でスグニを殴りだした。

「痛ぇー!お前ら見てないで、早く俺様を助けてー!」

「…何か、フリーダ様の説明と違くね?」

「おっかしいですわねー?ワロエナスは男なら誰でも乗せるビッチのはずですわ」

「ただ単に、ワロエナスの守備範囲以上にスグニがブサイクなだけじゃない?」

 私の名推理に、フリーダ様とトムは『それだ!』と頷いた。

「何でも良いから、俺様を助けて…」

「ハイハイ。それじゃ、やるよ!マジックボール!」

 まずは、無属性魔法で普通のケンタワロスを倒しておこう。そう思ったのだが、ケンタワロスは殆ど倒せていなかった。スグニがヒールレインを使っていたからだ。

「スグニ!アンタ何してんのよ!」

「回復しねーと、俺様が死ぬんだよ!」

 めんどい、ガチで面倒臭い状況だ。こちらから範囲攻撃をするとスグニを巻き込むし、時間を掛けて各個撃破しようにも、スグニが雨を降らせてるせいでケンタワロスが回復し続けて倒しきれない。ええい、だったらこうするしか無い!

「雷の精霊よ、標的を痺れさせ動きを封じよ、パラライズ!」

 バチィィ!

 私はパラライズを使い、スグニの動きを封じた。

「カトちゃん…俺様口以外動けないんだけど、誤爆だよな?距離遠いし」

「アンタを狙って撃ったんだよ」

 縋る様な目で問い掛けるスグニを私は全力で拒絶した。

「このままじゃいずれ全滅するかもだから、この状況を生み出した奴に責任を取らせるしか無いじゃない」

 私はケンタワロスの群に背を向けて走り出す。

「あの荷物持ちが囮になってる隙に、このダンジョンが脱出するぞー!」

「了解ですわ勇者様!ここで手に入れたお宝は三等分ですわね!」

 私の意図に気付いたフリーダさんがノリノリのセリフを吐きながら後に続く。

「オデ、新しい荷物持ちは女がいい」

 トムもノリノリで演技に参加して撤退。ポカーンとしているケンタワロス達の視界から消えた私達は、出口では無くケンタワロス達の背後に回る為に便座を取り出す。

「皆!便座は持ったな!」

「「おう!!」」

 私とフリーダさんは、地面スレスレの空中ダッシュで地面に置いた便座に乗り、超スピードでダンジョン内を突き進む。ダッシュと便座滑走が出来ないトムは便座に正座した状態でロープで牽引する。私達を追跡して来たケンタワロスを引き離し、フロアをぐるっと回って背後取りをやり返してやった。

「こんちゃーす、便座宅急便でーす。ワロエナスさん、敗北を届けに来ましたので、ここにサイン下さーい」

「ファッ!?」

 うん、そりゃ驚くよね。目の前から逃げた相手が秒で真後ろに現れたんだもん。頭の良いケンタワロス族でも、いや、頭が良い魔物だからこそ訳が分からなくなるよね。

 私は相手の数を再確認する。やはり、ケンタワロスの人数は半分以下になっている。逃げる私達を追いかけてこの場を離れたのだろう。普通の冒険者パーティ相手ならそれで正解。だけど、こちとらこのゲームのヒロインとゲーム知識持ちの悪役令嬢とオマケ二名様だ。

 私達三人がスグニを置いて逃げ去った時、お前らが取るべき行動は、『スグニだけを連れて自分達の住処に撤退する』だった。でも、お前達はそれをしなかった。仲間の無念を晴らしたかった、少しでも物資を取り返したかった、スグニがブサイク過ぎて払った代償に見合わないと思ってしまった、そんな所だろう。だから負けるんだ。

「ケンタワロスの女王とその配下、お前達はクッソ面倒な相手だったよ。でも、これで終わりっ!」

 ワロエナスの傍に居た護衛は現在五人。その内二人はスグニにしがみつかれて動けないでいた。動ける護衛の一人をトムが壁際へ押し込み、フリーダさんが特大のマジックボールで残りの二体を無力化する。そして、守る者が誰も居なくなった女王に私が突撃し、おっかさんの杖で脳天フルスイング!

 グシャァ!

「ア、アリエナス…」

 そう言ってワロエナスは力尽きた。非常に高い指揮能力と洗脳力、そして洗脳した冒険者の力までも使う強敵だったが、タイマンになればそれなりの魔物でしかなかった。暫くすると、私達を追いかけてきた集団が到着するが、女王の死体を見ると、笑顔を引きつらせて逃亡していった。

「カトちゃん、何で、俺様置き去りにしたの?ねぇ、何で?」

 戦闘終了後、当然スグニに問い詰められた。

「だって、スグニってブーン様の剣術のフルコース受けてもギリ無事だったじゃない。顔が好みじゃ無かったせいでワロエナスの洗脳も効かなかったし、十分ぐらいはリンチされても大丈夫かなって」

「そうですわよ。あのまま、正面から削り合いを続けていたら、勝てたとしてもかなりの損害が出てましたわ。ならば、裏に回って一気に女王の首を取りに行くのが正解ですわ」

「お前らの言い分は分かった。でもよ、ケンタワロスに囲まれて孤立してたのが俺様じゃなくてトムだったらどうしてた?」

 捕まってしまったのがトムの場合、そんなの答えは決まっている。

「仲間に死の危険が迫ってるのに、置き去りにする訳無いじゃない!」

「例え話でも、そんな事言うものじゃありませんわ!スグニ、トムに謝りなさい!」

「え?俺様が悪いの?」

「お前が悪いって訳じゃ無いが、俺とお前では囮にした場合の意味が大きく変わってくる」

 私達の考えが理解出来ず困惑しているスグニの肩をトムがポンと叩き、分かりやすく説明を始めた。

「いいかスグニ、俺は前衛タンクでお前はヒーラーだ。だが、魔物に囲まれて一人取り残された場合なら、自動回復魔法を持っていて、後衛の割にタフなお前の方が確実に長持ちするんだ」

「そ、そうか?」

「そうなんだよ。俺が同じ状況になったら、盾での防御には限度がある。間違いなく、雑炊が回り込む前に死ぬか重傷になっていただろう。後、俺はフツメンだから女王の洗脳一発でやられていたかも知れない」

「それは、そうかもな…」

 トムの説得で徐々に納得していくスグニ。そこへ、トムのダメ押しの言葉が続く。

「スグニ、お前は凄い奴だよ。アタッカーとしてはゴミ性能で顔が悪いから人望も無い、その一方で物理と魔法両方を受けられ、低コストで回復し続ける強みがある。敵まで回復しちまうから普段前線に出せないが、非常時のタンク役とアンデット戦なら誰よりも信頼出来る!」

「へへっ、何か悪い気がしねえぜ」

「スグニ!お前は間違いなく雑炊から信頼されている!お前ならどんなピンチも耐えられるし、仮に死んでも戦力はほぼ低下しない!そんな厚い信頼に見事お前は応えたんだよ!」

 トムの力説を受けて、私達からの正しい評価を理解したスグニは、ポロポロと大粒の涙を零した。

「カトちゃん。俺様、嫌われてる訳じゃ無かったんだな…」

「私はアンタを嫌いだよ?でも、好きの反対は嫌いじゃ無くて無関心って言うじゃない?私は、ううん、私達はアンタが大嫌いだから関わらない為に貴重な時間を割いて、アンタの事を調べて上手い使い道を見つけた訳」

「そ、そうか。嫌いってのは無関心より上か。良い言葉だな。…うん?」

 スグニは納得仕掛けるが、暫くすると私の言葉の真意に気付いた。

「それ、全身全霊で拒絶してるから、結局俺様の好感度無関心より下な気がするんだけど?」

「あっちゃー、バレたか」

「…残念ですわ。気付かなければ皆幸せでしたのに」

「ドンマイ。きっと世界のどこかには、お前を好きになる奴も居ると言いたいが、ワロエナスに拒否されてたから厳しそうだな。まあ、頑張れ。他人に迷惑にならない範囲で」

 スグニは大号泣した。お互いどう思ってるのかハッキリと分かった貴重な時間だった。でも、これだけ絆を深めたのに、ハートは出なかった。つまり、コイツも攻略対象では無かったって事だ。


「あー臭い臭い!久しぶりにめっちゃ臭い汗かいた!服は洗ってお風呂へゴー!」

 冒険を終えた私は、寮のお風呂で入念に身体を洗う。

「ゴシゴシー、ゴシゴシー、頭をゴシゴシー。土鍋もゴシゴシー」

 自作のシャンプーソングを歌いながら鏡を見て入念に頭を洗う。

「ゴシゴシー、ゴシゴシ?」

 鏡に映る私の頭に違和感を覚え顔を近付ける。顔はいつも通り、ピンク髪の美少女だ。お風呂の鏡は見た目五割増だから信頼するなってプリンちゃんが言っていたけど、今重要なのはそこじゃ無い。

 私は違和感の正体、頭の上を確認する。鏡に写った私の頭には、いつも通りドナベさんの入った土鍋があり、その上には真っ黒なハートが浮かんでいた。

「「アリエナス」」

 私とドナベさんの声が完全にハモった。

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