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第五十三話【相方のパチモンを余裕で殴れる模様】

「はいはい、リザレクションリザレクションですわ。ふう」

 戦いで崩壊したリングは、フリーダさんのリザレクションで修復された。リングは洗いたてのパンツの様にキラキラしていたが、観客の顔は暗いままだ。それはそうだ。生徒も教師も卒業生のスカウト目的で来ていた冒険者も、フリーダさんとブーン様の決勝戦を見に来たのだ。それが見れなくなってしまった。スグニとかいうセコい勝ち方しか出来ない雑魚のせいで。

 この空気を何とかするには、ブーン様に匹敵するニューアイドルがスグニをぶっ倒して決勝戦に進むしか無い。

「そう、この空気を変えるのは私しかいねえー!」

「誰もお前に期待してないぞ!ケットシーの方角から勘違いした女、雑炊の入場だー!」

 私がリングインすると、先に入場していたプリンちゃんがバツの悪い顔をして杖を構えていた。杖の先には、既にとんでも無い魔力が集まっていた。

「「「プーリーン!プーリーン!プーリーン!」」」

 どうやら、試合前から大量のエールを受けて、魔力が溜まりきっているみたいだ。

「皆〜、まだ駄目〜。審判さ〜ん、これやっぱりアウトですよね〜」

「フライング行為なので、ペイッしなさい」

 ペイッ。

 プリンちゃんの杖に溜まっていた魔力は、空の彼方へペイッされた。しかし、再び杖に魔力が集まっていく。

「やだ〜、また勝手に溜まっちゃう〜」

「プリンちゃん、そのエール魔法一旦解除する事出来ないの?」

「まだ研究中なの〜。一度発動したら、その日の間はずっと強制的に発動しちゃうの〜」

「ほへー、オリジナル魔法羨ましいって思ったけど、案外不便なんだね」

 私はこの大会で見た、オリジナル魔法の使い手達を思い返す。フリーダさんの無属性魔法はオリジナル魔法なのか分からないから除外するとして、勝手に自滅したボルト、効果がランダムで戦術に組み込めそうにないエレン先生、相手の攻撃を受けるか触るかしてやっとこさ劣化コピーするボンゴレ、そしてこの使い所が限定的過ぎるプリンちゃん。

「マニュアル化されている通常魔法って、ありがたい存在だったんだなあ…」

「そうだね〜」

 私とプリンちゃんは、同じ結論に達して頷きあった。


 そして、十分後。会場には私とプリンちゃんとレフェリー、後は観客一人だけとなった。エール魔法の判定に引っかかっている観客を一時退場させる事になったのだが、

「俺の命、プリンちゃんに預けるぜ!」

「可愛い性格の良いのと、臭いブスのアホなら、普通前者応援するだろ」

「てか、雑炊が勝ったら、準決勝がスグニ対雑炊になるじゃない?そのカードもう欠闘で見たからプリンちゃんに勝って欲しい」

「ホーッホッホッホ、雑炊さんにはより大きな障害を乗り越えて成長して貰いたいのですわ。だから、プリンちゃんがんばえ〜ですわ」

「俺様は、カトちゃん応援するけどな」

「プリンちゃーん!ワイの仇を討ってくれやー!」

 と、いった感じで会場全体がプリンちゃん派だったので、エール魔法が反応しなくなったのはほぼ全員が会場を出た後だった。お前ら、後で覚えてろよ。

「フレーフレー、カートーちゃん」

 ガラガラの観客席で、スグニの応援が虚しく響く。

「フレーフレー、カートーちゃん」

「その応援、無い方がマシだからやめて」

「はい」

 私が精一杯の塩対応顔で拒絶すると、スグニはシュンとなり応援ボイスも途絶えた。

 静かになったのを見計らって、審判が両手を上げて開始の準備をする。

「では、今の内に…始めェゲリラッパァァァ!!!」

 ドドドドド。

 地面を揺らしながら、観客がこちらへ戻って来る。それに呼応して、プリンちゃんの杖に少しずつ光の魔力が集まっていく。この勝負、時間との戦いだ。プリンちゃんの魔力が溜まるより先に、決着をつけないと負けが確定する。私にはボンゴレの様なスケベ心で相手の攻撃を耐える力は無いし、リー君みたいに精霊を支配して相手の魔法発動を封じる事も出来ない。

 だから、こうする!

「どすこいどすこいどすこーい!」

 私はプリンちゃんにしがみつき、彼女のスカートに手を回して、そのままリングの端まで押していく。

「どーよ、プリンちゃん?その杖にフルチャージされるまでにこのまま押し出してやる!」

「うわ〜ん、こんなに密着されたら、魔法発動しても私にまで被害が〜…こうなったら、やるしかないわねっ!」

 グググ!

「うおっ、な、中々やるじゃない」

 どんくさくて、体術は全く得意ではないと思われていたプリンちゃんだったが、杖を捨てて組み合い勝負に乗ってきた彼女は中々にパワフリャだった。さっさと押し出して勝とうとしたのだが、低身長で胸の大きい彼女は相撲の才能があった。

 リング中央でがっぷり四つとなった私達。このままじゃあ、魔力温存の為に相撲で戦ったとこぞのバカ二人と同じになってしまうが、当然ここからの流れは違う。

「サンダーウェポン!」

「きゃあ〜!」

 私は両手に雷属性を付与させる。私の両手はプリンちゃんの腰を掴んだままなので、当然プリンちゃんに電流走る。

「負けないわよ〜、ホーリーウェポン!」

「ほげー!」

 プリンちゃんも負けじと、自分の両手に聖属性付与。私に浄化の力走る。

「どすこいどすこいどすこーい!」

「えいえいえーい!」

 お互い痛みに耐えながら、一歩も引かない。ええい、ならば精神攻撃よ!

「プリンちゃん、今回は勝ちを譲ってくれないかな?私とフリーダさんには色々あってね、察して引いてくれない?」

「それは駄目、私だって負けられない理由があるんだから〜」


(ホワンホワンホワ〜ン)

 東の果ての国は甲賀の里にで拙者は生まれたでゴザル。この里で学ぶ忍法は、王国とは違った特徴を持ち、その中でも拙者の扱うスケベ忍法は他のどの様な術とも異なるモノだった。

 相手へのスケベ心が限界突破した時、その相手の能力をコピーする忍法を持つ拙者は、里の皆、特に女子から嫌われて甲賀の里を追放となったのでゴザル。

「我が息子、甲賀煩是丸よ。貴様の実力は認めるが、里を乱す者をこれ以上置いておけん」

「ガビーンでござる」

「異国の冒険者学園は、実力あれば誰でもウエルカムらしいから、そこ行け」

 こうして、拙者はこの学園の生徒となったのでゴザル。拙者の目的は勿論、強い忍法を持つ女子をコンプリートする事でゴザル。プリン殿も、フリーダ殿も、そしてお主も拙者のターゲットでゴザルよ、ニンニン!

(ホワンホワンホワ〜ン)


「ちょっと待てい!その話、どう考えてもプリンちゃんじゃなくて、ボンゴレの回想じゃない!…ハッ、そういう事か!」

「ニーンニンニン、その通り!、一回戦でドロンした時に、本物のプリン殿と入れ替わったのでゴザルよ!そして、雑炊殿のコピー条件も満たした!」

 オーマイゴッド!目の前の対戦相手はプリンちゃんではなく、変装したボンゴレだったのだ!

「では、ドロン!」

 プリンちゃんの姿をしたボンゴレが煙に包まれる。そして、煙が晴れた時に現れたのは、私がいつも鏡の前で見る顔だった。

「ニーンニンニン、完コピ成功でゴザル…む?」

 ボンゴレは直ぐに違和感に気付いた様だ。私に変身したはずの自分が、私より背が高くなっているからだろう。

「ゴザ?ゴザ?」

 慌てて自分の姿を確認するボンゴレ。彼の髪は水色で、学園の制服ではなく、パーカーを着ていた。

「誰でゴザルかこれー!?」

 ボンゴレは、ドナベさんに変身していた。私と密着していたという事は、ドナベさんと密着していた事に等しい。そんで、ボンゴレのコピー魔法が発動する条件は良く分からないが、ドナベさんの方をコピーしてしまったのだろう。

「マズイな、僕の姿になった敵を雑炊は攻撃出来ない」

「死ねオラー!」

 頭上でドナベさんが何か言ってたが、私はフルパワーでボンゴレを殴った。

「ゲハー!痛いでゴザル!反撃したいけど、この身体で何が出来るのかサッパリ分からんでゴザル!ここは誰?拙者はどこ?」

「知るか、死ね!これは、プリンちゃんにセクハラした分!」

 ドゴォ!

「ゴザー!」

「これは、観客達を騙した分!」

 ドゴォ!

「た、タンマ!タンマでゴザル!後数分あれば、この身体の力と知識を理解出来そう…」

「そんで、これは毎日訳分からん特訓させられた分と、肝心な話をはぐらかしてきた分と、友達作りさせてくれなかった分だぁー!!」

 ドゴォ!ドゴォ!ドゴォ!

「アリガトウゴザイマス!」

 怒りの連打を受けて、ドナベさん…じゃなくてボンゴレは何故か感謝の言葉を述べながら白目を剥いて気絶し、暫くすると全裸で大火傷をした青年の姿に戻った。

「勝負ありぃ!」

 勝ちがコールされるのを聞いた私は、観客席のスグニを指差す。

「次、お前な!」

「ああ、全力で棄権するぜ!」

 スグニは親指をビシッと立てて、私に応えた。

「棄権!?アンタ、ふざけてんの?」

「大真面目だ。俺様、ブーンに斬られた傷が全然治らねえし、魔力もスッカラカンだ。万が一お前に勝てても、『ブーン様の仇討ちですわー』って、フリーダになぶり殺しされるのが確定してる」

 スグニは服を捲り、血が滲んだ包帯グルグル巻きの胸元を見せ付ける。うわっ、グロ。

「つー訳で、決勝進出おめでとうカトちゃん」

「逃げんな!ちゃんと私と戦ってよ!この学園は実力主義なんだから、優勝さえしてしまえば友達ぐらいいくらでも作れるって!立て、立つんだスグニ!フリーダさんに頼んで、そんな怪我治して貰って、私と戦ってよ!」

「成る程、そうやってフリーダの魔力を少しでも削るのが目的か」

 ドクン、ドクン、ドクン。

「な、何を言ってるの?私は、アンタともちゃんと決着をつけたいだけで」

「でも、カトちゃんは欠闘て得た権利で、俺様が近づかない様に命令出来るだろ?お前が出てけって言ったら、俺様は何も出来ずに試合放棄するしかねえんだよな?」

「…そーだよ、その通りだよ!スグニが勝ち上がった時から、その勝ち筋は思い付いてたし、勝負に持って行く展開次第じゃ、フリーダさんにリザレクション使わせられるかもって考えてたよ!」

 私が目論見を白状すると、観客全員からドン引きした目で見られた。

「うわーん!また、嫌われちゃったー!」

「嫌われる様な戦い方ばかりやってるからだろ。ま、そんな訳で俺様は抜ける。俺様の分まで、フリーダに殴られてくれ」

 こうして私の魂焼覇気の戦績は、一回戦は相手の自滅、二回戦は相手の戦術ミス、準決勝は不戦勝で勝ち上がりとなった。

 ああ、皆の視線が痛い。

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