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第五十一話【魔法の威力は2d6な模様】

 休憩時間は何事も無く過ぎ、二回戦が始まった。

「はあ…ですわ」

 キマイラの方角から出て来たフリーダさんは、戦うのが面倒そうな顔をしていた。

「ふぅ…」

 ケットシーの方角から出て来たタフガイも、面倒そうな顔をしていた。

「二回戦も引っ掻き回してやるのねーん!」

 シーサーの方角から出て来たエレン先生だけ、テンションマックスだった。フリーダさんとタフガイは、エレン先生の方をチラ見して、凄く嫌そうな顔をしていた。

「一回戦第三試合、トリン選手とアチアチ選手が、激闘の末にダブルKOとなりました。よって、公平を期すために、これより左ブロックの一回戦を勝ち上がった三人による三つ巴マッチを行います!」

 男爵さ…ゲオルグ先生のアナウンスが会場に響く。この決定が公平かどうかは意見が別れる所だが、バトルマニア気質のフリーダさんとタフガイが乗り気で無いのが不思議に感じた。

「ドナベさん、エレン先生以外の二人の様子が変だけど、何かあったの?」

「ああ、雑炊はエレン先生の戦いを見て無かったね。彼女の戦闘は、とにかく面倒臭いんだ」

「どゆこと?」

「試合が始まったらすぐ分かるよ」

「始めエェッラッシァァァァィ!」

 レフェリーの合図と同時に、エレン先生はカラフルな小箱を二つ取り出した。何あれ?

「ルーンびっくりキューフ発動なのねん!さあ、何かでるかな何がでるかな〜」

 ルーンびっくりキューブと呼ばれたそれを二ついっぺんに転がすエレン先生。キューブはリング内をコロコロと転がり、やがて停止した。


【火属性】【大魔法】


「火属性の大魔法!即ち…エクスプロージョン!」

 ズガーン!

「ですわー!」

「ぬおおー!」

 エレン先生がキューブの上の面に書かれた文字を読んだ直後、エクスプロージョンが発動し、フリーダさんとタフガイが炎に包まれた。

「雑炊、あれがエレン先生の魔法らしいよ」

「あの人も自分だけのオリジナル魔法持ちかい!私も欲しい!ドナベさーん!私もオリジナル魔法を使いたーい!便座アタックは皆にパクられたから、もっとカッコいいやーつ!」

「あの二つのキューブは、数の代わりに文字が書かれたサイコロでね」

 私の訴えを無視して、ドナベさんによるルーンびっくりキューフの解説が始まった。

「二つのサイコロの片方は魔法の種類、もう片方は威力を決めるんだ。そして、これによって発動する魔法はどんな結果が出ても消費魔力は一定。少なくとも、この大会中使い続けても余裕なぐらいには低燃費らしいよ」

「だったら、一発喰らうのは仕方無いと割り切って、サイコロを壊すなり、リング下に捨てるなりするのが最適解じゃない?」

「だよね。で、雑炊と同じ考えに至り、サイコロを蹴っ飛ばそうとしたのがあちらの彼になります」

 観客席の端っこに、アフロヘアーの少年が座っていた。直径一メートルはあろうかという、それはそれはでかいアフロだった。C組のメガ・シンデルだ。

「何でアフロ?」

「どうやら、あのサイコロは精霊達の遊び道具らしくてね、エレン先生と精霊達の遊びを邪魔すると、ああして強力なペナルティを受けるんだってさ。メガに雷が落ちてアフロになった後、エレン先生本人がそう説明していた」

 なるほど、つまりサイコロを振ってから結果発表までの間横槍は入れられない。そして、強力な魔法が発動したら攻め込めない。チャンスはハズレの弱い魔法が出た時ぐらいと言う訳か。

「…めんどくさ」

 多分、私今フリーダさんと同じ顔をしている。さーて、このめんどくさ満点のサイコロ魔法、フリーダさんとタフガイはどうやって攻略するのかな。

「ハイッ!ハイッ!」

 フリーダさんは魔法が来る度に前転の無敵で回避している。攻撃が来るタイミングは丸分かりだから、ミスさえしなければチャンスが来るまでノーダメでやり過ごせる訳だ。

「ダアッ!ダアッ!」

 タフガイは魔法が当たるタイミングに合わせて両手を顔の前でクロスしている。あれは何だろうと不思議に思ってると、ドナベさんが解説してくれた。

「タフガイがやっているのは、ジャストガードだね。攻撃が命中するタイミングに合わせてガードする事でダメージを大幅にカット出来る」

「完全にカットは出来ないんだ。じゃあ、その内にタフガイはやられるね」

「どうかな、その前にエレン先生がハズレ引く方が先かも」

 ドナベさんがそう言った直後、弱そうな目が出現した。


【氷属性】【支援魔法】


「氷属性の支援魔法、即ち…アイスシールド!ひーん、やっぱり二人共こちらに向かって来たのねん!」

 スドドドド!!

 フリーダさんは前転姿勢から起き上がり、タフガイは両手を降ろしエレン先生に向かって全力疾走する。

「タフガイさん、まずは厄介なエレン先生をどうにかしますわよ!」

「わりぃ、オレはフリーダさんとは別の考えだ」

 前転の準備姿勢から起き上がって走り出したフリーダさんは、エレン先生に辿り着くのが僅かに遅れた。その僅かな差でタフガイはエレン先生の所まで先に到着し、彼女を持ち上げた。このまま、リング外へ投げ飛ばされて脱落。観客の多くはそう思っただろう。

 だが、タフガイはエレン先生を肩車して、便座の蓋を手渡した。

「先生、分かってるよな?」

「…仕方無いのねん」

 エレン先生は便座の蓋をサイコロの受け皿にして、ダイスロールを再開した。


【闇属性】【小魔法】


「闇属性の小魔法、即ち…ベノムショット!」


 エレン先生がダイスロールの結果を発表し、毒液が周囲に発射される。しかし、エレン先生の真下に居るタフガイは安全圏だった。

「セイッ!」

 フリーダさんは、ベノムショットを氷魔法で撃ち落とす。だが、その隙を突いてタフガイのパンチがフリーダさんの顔を掠めた。そして、この一連の攻防を見て、私を含めた観客達は漸く気付いた。

 タフガイは、フリーダさんと一時共闘して面倒臭いエレン先生を退場させるのでは無く、エレン先生を利用してフリーダさんを倒す事を選んだのだ。

「エレン先生、続けろぉ!」

「わ、分かったのねん!」

 エレン先生に拒否権は無かった。逆らったら、その瞬間リング外へポイだ。


【風属性】【中魔法】


「風属性の中魔法、即ち…トルネード!」

「どおりゃー!筋肉光線ー!」

 エレン先生の周囲に竜巻が発生。フリーダさんはリング内を縦横無尽に走り回避するが、タフガイの手から発射された聖魔法がそれを追尾する。

「くっ!」

 フリーダさんは全てを回避出来ず、風の刃で手足に傷を負う。

「すーっごくめんどいですわ。これはもう、本気を出すしかありませんわね」

 フリーダさんは少し考え込んた後、何かを決意したかの様にキリリとした表情となり、右手を天に掲げた。

「フリーダさん、何かやろうとしてやがんな?なら、次で決めるぞ!」

 便座の蓋の上でエレン先生のサイコロが回る。その間にフリーダさんの右手の周囲の景色がぐにゃりと歪み、右手には大きな杖が現れた。身の丈より大きな杖を手にした瞬間、元々半端無かったフリーダさんの魔力が目に見えて高まって行く。


【全属性】【究極魔法】


「大当たりなのねーん!全属性の究極魔法、即ち…レインボードラゴン!」

「一〇〇%筋肉光線だあっ!」

 虹色の龍が荒れ狂い、タフガイの口からはごんぶとビームが発射される。これで決まった。誰もがそう思った。


 この勝負、フリーダさんの勝ちだ。


「無属性魔法、アルティメットエナジーですわ!」

 フリーダさんの持つ杖から、どの属性の魔法とも違う灰色の光の玉が発生すると、エレン先生の放った龍とタフガイのビームを飲み込みながら二人に向かってゆっくりと進んで行った。

「の、のねーん!」

「がああああ!な、何だこりゃあ!」

 二人は灰色の光の玉によってジワーッと押し込まれて行き、必死の抵抗も虚しくリングの外へ落とされた。不思議な事に、タフガイのパワーでもその場に留まれない程の力で押し出されたにも関わらず、二人共無傷だった。

「し、勝負ありっ!」

 攻撃の正体が分からずとも、三人中二人がリングアウトした事でフリーダさんの勝利がアナウンスされる。これで、フリーダさんは決勝進出が確定した。

「フリーダさーん!」

 観客にお辞儀してリングを降りたフリーダさんに、私は駆け寄った。その目的は、決勝進出のお祝いなんかじゃない。さっき見せたアレについて問いただす為だ。

「フリーダさん、アレ何なの!?」

「あら、やはり気になりましたのね。できれば、決勝戦で雑炊さんに見せ付けてビックリさせたかったのですけれど、出さざるを得ませんでしたわ。実は私、アイテムボックスが使えますのよ」

「そんなん、どーでもいーよ!」

 見当違いの事を話すフリーダさんに、私は怒鳴りつける。

「ごめんなさい、無属性魔法の方でした?」

「杖だよ!つーえ!何で…、何でフリーダさんがおっかさんの杖を持ってるの!」

 あのデザインとサイズ間違えようが無い。フリーダさんが本気を出した時に使った杖は、どう見ても私のおっかさんの杖だった。

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