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第五十話【無限ループって怖い模様】

「聞かせてやろか、いや、聞け!お前がワイの人生に何をしたのかを!」

 あ、これ回想入るやーつ。ポッと出の知らん奴に回想とかされてもなー。…よし、相手が過去語りに集中した所で股間蹴ろう。


(ホワンホワンホワ〜ン)

 ワイの親はハコレンやった。

(ホワンホワンホワ〜ン)


「以上や!」

「勝負始めエエェェ!」

「疾風迅雷やで!」

 大会進行を阻害しない、0.2秒の回想を挟んだ後、ボルトは私に向かって攻撃をした。いや、回想前にはもう距離を詰めていた。

 バギィ!

「あだっ!」

 完全なカウンターを受けてしまった私は、リング外までふっ飛ばされそうになる。

「くっ、届け便座ー!」

 私は腹パン対策にお腹に仕込んであった便座を取り出し、それをリングのコーナーに引っ掛けて何とか場外負けを防いた。

「ボルトだっけ?アンタせこいよ!回想中に攻撃しようとした所を狙い撃つなんて!」

「回想中に殴ろうとする奴が悪いんやカス。恨むんなら、お前の性根の悪さを恨めやカス」

 コイツもドナベさんの言う、『主人公に有利な戦術を選ぶ強敵』って訳?しかも、私と同じ雷魔法使い。…詰んだ!

「一撃で落として終わりにしたかったんやけどな、落ちんかったなら、泣いて謝るまでどついたる。雷の精霊よ、アイツが雷魔法使ったら何かいい感じで同じの頼むわオートシステム・電力共有オン!」

 ボルトが雑な詠唱をすると、彼の全身にスパークが走った。

「今のは、ワイが独自開発した反応式の魔法『電力共有』や。これからワイが雷魔法でダメージを受けたり、お前が自己強化をする度に精霊がワイに強化を重ね掛けしてくれる。この意味が分かるかカス?」

「ハッハッハ、そんな都合の良い魔法ある訳無いでしょ。聞いた事無いしハッタリだね」

 90パーハッタリだ。私が自己強化して殴るスタイルの魔法使いなのを知ってるから、こちらの強化を封じる為にわざわざ説明してくれてるのだ。そうに違いない。

「エレキバンド&サンダーウェポン!」

 私は杖を取り出して素早く強化の二重掛けをする。すると、ボルトの全身から発せられるスパークが一回り大きくなった。

「言うたやん。お前が強化すると、その分ワイも同じだけ強化されるって」

「マジで詰んだ!」

 10パーの方が来てしまった。マズイ。

「ほな、行くでえ」

 ボルトは全身雷と化した状態で襲ってくる。当たれば電撃を受けるし、スビードも途轍もない。

「クッ、サンダーバリア!」

 私が防壁魔法を使うと、ボルトの速度と破壊力は更に増し、バリアを貫通してキックが届いた。

「ギャアアア!」

 私は、打撃と電撃の痛みにのたうち回る。でも、まだやれる。私は立ち上がり杖を構える。

「さっき自分でも詰んだって言うとったのに、まだ諦めへんのやな?ホンマムカつく奴や。諦めて、ワイに勝ち譲れや。トーナメントやし、あんま手の内晒したく無いねん」

「お断りだよ。ねぇ、どうしてそこまで私に執着するの?ハコレン潰したのは私一人じゃ無いんだけど」

 私は、先程一行で済まされた回想について聞き出す事にした。使える魔法の質と量でコイツに勝てないと分かった私は、他の方面から弱点を突く事にしたのだ。

 コイツに弱みがあるとすれば、初対面の私にこれ程敵意を向ける理由にある。

「理由も分からす恨まれたら、ごめんなさいも出来ないよ。私が恨まれる理由ちゃんと教えてよ」

「ほな言うたる。逆恨みや」

 よし、食いついた。ここから、コイツのコンプレックスとか引きずり出してネチネチと…え、逆恨み?

「一学期の頃、フリーダ様が『雷魔法一本伸ばしで頑張ってる子が気になる』って言うたんを耳にしたんや。そしたら、ワイの事やて思うやん?告白するやん?ワイはラブレター書いてクラスの皆の前で告白したんや。その手紙がコレや」

 そう言い、ボルトは手垢まみれのクシャクシャになった紙切れを取り出して読み上げ始めた。


『愛するフリーダ様へ』

 RABU 真実の愛

 RABU 真実の愛

 フリーダ様がワイの事を見ていたのは、結構前から知っとりましたねん。ワイも、フリーダ様の顔と実家の太さにメロリンキューですわ。まだフリーダ様の性格とか全然分からへんけれど、正体が魔族とかで無い限りは余裕で付き合えますので安心して下さい。

 あ、でもフリーダ様はブーン様と婚約してましたよね?親同士の決めた政略結婚。そこに愛はあるんか?無いんやろな。無いからワイの頑張る姿に見とれとったんやろ?

 そ・こ・で・や。夫婦公認の愛人って事で手を打ちまへん?ワイはフリーダ様が求める時に肉体を差し出す。フリーダ様はスッキリして仕事に打ち込める。ブーン様はブーン様て愛人作ったら全員幸せお花畑や!

 そんな風に考えとりますんで、よろしゅーお願いします。

 RABU 真実の愛

 RABU 真実の愛

 突然超目上の存在からの愛を受けて戸惑っているワイことボルトより。


「グワーッ!」

 ボルトがラブレターを読み終わったをと同時に、私は吐血した。

「オロロロロ!」

 ドナベさんは吐いた。後で土鍋の中洗ってやらないと。

 観客席の人達は、距離があったからダメージは少ない。それでも保健室へ駆け込む者、皮膚を掻きむしる者、耳を塞ぎ自分の大声で少しでも中和しようとする者、恋人の肩を抱き支える者等の様々な被害が出ていた。

「これを放課後に、一年A組全員が見ている場で読んだんや。読み終わった瞬間、ブーン様に殴られタフガイに窓から落とされリーの操る鳥に全身啄まれたんや」

「当たり前だよ」

「翌日学校へ行くと、誰もワイに話し掛けんし、机の距離も離されとった。雑炊もC組ではワイみたいに孤立して休学しとったなら、この気持ち分かるやろ?」

「全然分からん!私が休学したのは別の理由だよ!」

 というか、この学園の男子、攻略対象以外ロクなの居ないな!

「そんな訳で、A組で針の筵になってしまったワイは何とかして精神を落ち着ける必要があった。そこで目を付けたんが、勘違いの原因になったお前って訳や。ワイはお前に責任転嫁する事で今までマトモな精神を保てたんや。お前は悪くない。せやけど、ワイの精神安定剤としてここでくたばってくれや」

「本当に最低だね。後、親がハコレン云々はどうしたの」

「そっちは後付けの理由や。ワイの親父が逮捕されて無職やのに、お前の親父が先生になっとるのにはムカついとるが、それで恨むのは八つ当たりになるやろ?親の敵討ちって名目は便利やから人に聞かれた時の理由として用意しておいたが、人としてそんな事で恨むのは筋違いやん。ワイにもプライドがあるねん」

 コイツ、男爵様とは別の意味で話が通じない。

 男爵様の場合は、集中力が足りなすぎて謝罪の最中に明日の晩御飯をどうするかの話をしたりするが、コイツは自分第一過ぎて他人を思ったつもりの言動でも全部迷惑になるタイプだ。

「もういい、十分アンタの逆恨みの理屈は分かったよ。その性格だと、生き辛そうだね。カワイソスだよ」

「せや、ワイが可哀想なんや。同情するんなら、勝ちくれや」

「それは出来ない。もう、怪我を治すだけの時間は稼げたから」

 私はボルトに蹴られた場所を見せ付ける。そこの傷は綺麗に塞がっていた。

「それ、無詠唱でやったんか?雷魔法だけでか?どうやったんや?」

 私の治療法に興味を持ったボルトがやり方を聞いてきた。彼が知らないのも仕方無い。雷魔法は、攻撃と自己強化に特化した属性とされているからだ。

「これね、まず傷口は焼いて塞いた。骨が折れてたのは、体内電気の流れを大きくして骨の再生を促し、神経を太くして再接続したの。内出血は、電熱を纏った爪て皮膚を切って汚れた血を外へ出して」

「ほーほー、雷魔法にそんな使い方もあるんか。これ、お前が自分で考えたん?」

「そーだよ。雷魔法でも、こうすればいくらでも回復が出来るんだよ」

 嘘である。突然の魂焼覇気に対応すべくドナベさんから教わったその場しのぎの応急手当である。こんなやり方では、失った血液は戻らないし、骨や神経も無理やり繋げ痛みを誤魔化して動かしてるだけだ。だが、壊れていても動くのなら、相手から見て治ってるならそれで良い。


 そして、今のやり取りで確認できた。この勝負、私の勝ちだ。

「雷魔法の新たな可能性やな。おおきに。この知識は、二回戦以降に役立ててやるわ」

「それは、出来ないよ。お前はもう、死んでいる」

「なんやと?怪我治してみせたからって、調子乗っ取ったらあかんぞカス。忘れたんか?お前が自己強化する度にワイにはオートで強化が入り続けるんや」

 勿論それは覚えている。それを理解した上で、私は会話で時間稼ぎしながら怪我の治療をしたのだ。

「お前の回復魔法、自己強化の応用やろ?せやから、ワイにも同じだけの強化が入る訳や」

「そうみたいだね。でも、アンタは今までそれに気付いていなかった。一度発動してしまえば、条件を満たせば自動で効果を発動し続ける魔法。それは凄いと思うよ。けど、それは危険なんだ」

「一体、何を言っとるん…グワーッ!」

 突然ボルトは苦しみ始めた。身体のあちこちが異様に盛り上がり、ボコボコと蠢いている。

「な、何や?ワイの身体に何をしたんやカス!」

「どうやら始まったみたいだね。知らなかったの?強化魔法って重ね掛けし過ぎると逆に弱くなったり身体を壊したりするんだよ」

「何やてー!?いや、確かにそんな話は聞いた事あるわ。けど、普通はそうなる前に魔力切れの方が先に来るから、現実にそんな事起こるはずが…あ!」

 ボルトの漸く気付いた様だ。自分の作った新魔法と私の使っている治療魔法もどきを組み合わせると条件をクリア出来る事に。

「どうやら、アンタの作ったシステムって、どんなに小さな強化魔法にも反応して発動するみたいだね。そして、ダメージを受けても強化魔法が発動するんだっけ?」

「そ、そうや。ワイの作った魔法では、雷魔法でダメージを受けた時も強化が発動して、待て!止まれ精霊!グワーッ!」

 強化の重ね掛けで傷つく事で強化魔法発動の条件が満たされ、その強化魔法でまたダメージを受けて、強化魔法が発動しダメージを受けて、強化魔法でダメージを受けて強化魔法が発動する。

「誰でもええ。助けてくれやー!助けて…たふ…」

 べシャア!

 ボルトは身体が風船の様に膨らんだ後、身体のあちこちの皮膚が破裂して萎んでいき、血塗れになって動かなくなった。

「勝負ありィィ!勝者雑炊!これにて一回戦を終了、三十分の休憩を挟んで二回戦を行います!」

 レフェリーが勝者とこの後の予定を告げると、観客達は各々休憩へ向かい、私も控室へ戻った。

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