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第四十九話【プランBなんて無い模様】

 ヤバイ、ヤバイよヤバイよ。ドナベさんマジヤバイよ〜。私はこの魂焼覇気を便座で突破するつもりだった。これまでのフェイントと便座を組み合わせ、相手に思考負担を限界まで与えて先の先を取り続ける。

 最初強めに行って、後は流れで優勝する。その計画がパーだ。


 コンコン。


 控室の扉がノックされる。ドナベさんかとも思ったが、ドナベさんは自力で移動出来ない。誰だろうか。

「誰?」

「雑炊ちゃん、私だよ〜」

「プリンちゃん?」

 部屋に入って来たのは、クラスメイトで、大会参加者でもあるプリンちゃんだった。

「この魂焼覇気って、学園の人だけじゃ無くて、外部の人も観に来てるでしょ?雑炊ちゃんに似合うの探して来たよ〜」

 私が自分の臭さに気付きオシャレに目覚めた後、テケトーに化粧品を買い漁ってた時期があった。その時に、それじゃダメだと色んな人からアドバイスを貰った。その中で一番親身にアドバイスしてくれたのがこのプリンちゃんだ(二位は寮母さん)。彼女は安くて良いアクセサリーや石鹸を教えてくれ、その見返りとして、私はマラソンの苦手な彼女に走り方を教えたりしていた。

「ごめん、プリンちゃん。試合までの間、集中してたいんだ。私の出番が近付いたら、また来てよ」

「でも、これから私の試合だよ〜」

 何ィ!もうそんな時間が経ってるの?まだ何も思い付いてないのに!

「ほら、行きましょ〜」

「お、おう!」

 プリンちゃんに貸してもらった消臭ポーションを頭からぶっ掛けて、私は会場へ向かった。


「ドナベさん、結果はよ!」

 自分の観戦席に着いた私は、頭に土鍋を乗せると同時に、ここまでの試合結果を聞く。

「雑炊、頭に何か使った?髪質とか匂いが違うけど」

「プリンちゃんに消臭ポーション貰った。そんな事より、ここまでのあらすじ!結果だけ、はよ!」

「大体波乱無く順当だね。第三試合はライバル同士の壮絶なダブルKO。第四試合はエレン先生、第五試合はブーンが対戦相手を秒殺して終わったよ」

 ちくしょう、エレン先生とブーン様の試合が短かったせいで、私の作戦タイムも短く!

「で、今さっきスグニとヒレツの試合が終わったよ。二人共後の試合に向けて魔力温存したいという思いが一致して、相撲で戦ってた。決まり手は、ヒレツの毒霧攻撃へのカウンターディープキッスからのもろ出しでスグニの勝ち」

 決まり手を聞いただけで、酷い戦いだったのだろうと想像出来た。リング周辺にゴミと座布団が散乱している事からも、かなりのブーイングがあったのだろうと推察出来る。そして、そのゴミを拾いながらプリンちゃんが入場して来た。


「第七試合参加者、プリン選手ゴミを片付けながらの入場だ!うちの子も、こんな風に育って欲しかったぞ!」

 元男爵様が失礼な選手紹介をする。

「こらー、男爵さ、じゃなくてゲオルグ先生!プリンちゃんを褒めるのは良いが、一々私を下げんな!それに、最近はちょっとオシャレ頑張ってるんだぞ。便座だって扱いやすさだけじゃ無く見た目も含めて良いと思ってのを選んでるし!」

「雑炊が何か言ってますが、オシャレな女子は便座を持ち歩きません!さあ、対戦相手のボンゴレマル選手も入場だ!東の果てから来た、セクハラ忍術使いとの事ですが、果たしてその実力は!?」

 シノビ服と呼ばれる黒尽くめの服を着た小柄な少年は、リングに入るなりプリンちゃんの大きな胸に視線を合わせ、指を激しく動かし始めた。

「淫・房・桃・写・快・珍・悦・牌・全・裸!!」

「キャー!」

 指と口の動きはカッコ良いのに、口から出たのはセクハラ発言の固まりだった。そりゃ、男慣れしてるプリンちゃんも悲鳴上げるわ。

「君!開始前に対戦相手へ嫌がらせはやめたまえ!」

 レフェリーからイエローカードを受け取るボンゴレ。流石はスケベで有名な東の果てから来た留学生。スグニとヒレツが居なければ、間違いなく学園一の嫌われ者になっていただろう。

「では、双方準備は宜しいか…始めぇ!」

 レフェリーの開始の合図を聞くや、ボンゴレは腕を高速で動かして詠唱を始める。

「スケベ忍法、風遁・スカート捲りの術ー!」

 ボンゴレの魔法が完成すると、プリンちゃんの足元に突風が発生し、スカートをはためかせる。

「キャッ!」

 前を押さえて、スカートの中が見えるのを防ぐプリンちゃん。足に怪我は無い様だし、スカートや靴下も無事な様だ。

 スグニと私が欠闘した時が分かりやすい例だが、風魔法は基本的に攻撃力は弱い。風魔法というものは、他の属性と混ぜる事でようやく実戦レベルとなる玄人向けの属性なのだ。ってドナベさんが言ってた。

「こんな風魔法なんか、私には効かないんだからねっ」

 プリンちゃんはスカートの乱れを直すと、ダイヤが付いた杖を天に掲げた。

「今度はこちらの番だからね〜。皆のエールを力に変えて、悪を貫くホーリーライト!」

「「「プリンちゃんいっけー!!!」」」

 プリンちゃんファンの男子学生の声援と共に、杖に光の魔力がとんどん集まっていく。

「出ましたプリン選手のエール魔法!雑炊には絶対使えない、凄い魔法だー!」

 だから、一言多いんだよゲオルグ先生!


 この世には、努力だけでは習得出来ない奇妙な魔法が数多く存在する。勇者のアイテムボックスもそうだし、ボンゴレの忍法もそうだし、プリンちゃんの『エール魔法』もそうだ。自分のファンに魔力を肩代わりさせる事で、ノーリスクて強力な魔法を放てる。自らの可愛さを磨き続け、戦場にファンが多数居ないと使えないという欠点の多い魔法だが、観客付きの大会ルールならば非常に強力。

「アリガトウゴザイマスッ!」

 チュドーン!

 ボンゴレは、プリンちゃんの杖から放たれた光に自分から飛び込んでいった。一瞬で服が溶けて皮膚に火傷を負い、それでもボンゴレは嫌らしい笑みを浮かべながらプリンちゃんに近付いて行った。コイツ、マジモンの変態だ。

「クックック、面白い忍法だったでゴザルよ。この甲賀煩是丸の忍法に加えても良い、素晴らしい忍法でゴザル」

「びいっ!」

 光の中を大火傷を負いながら歩み、遂にプリンちゃんの肩に手を置くボンゴレ。

「や、やだぁー!離してよお変態!」

「ムホホ、ツンデレ乙でゴザル。後、一応言っておくとこれは拙者がこれからやる忍法に必要なタッチであり、やましい心以外もあるのでゴザルよ〜」

 大ダメージを負っているのは相手の方なのに、プリンちゃんは怯え、そしてボロボロのボンゴレは笑っていた。

「コピー完了でゴザル!では、先程のエール忍法使わせて貰うとしよう。スケベ忍法、妄想再現の術〜!」

 ボンゴレはプリンちゃんの動きをトレースすると、右手に光が集まっていく。

 こ、コイツまさか相手に触れただけで同じ魔法が使える様になるんか!?ただの変態じゃ無かった。こいつは、とんでも無い変態だ!

「皆の者、拙者に応援を!悪を貫け天下布武の一光〜!」

 ポピー。

「ポピーでゴザル?」

 夜道を照らすには丁度よい程度の光がボンゴレの手から放たれ、プリンちゃんの顔を照らす。ただそれだけだった。

「え、えっとぉ。エール魔法は応援貰わないと、この程度なの〜」

「で、あるか。ハッハッハ、ならばこれまで!!」

 ドロン!

 ボンゴレは足元に小さな玉を投げると、それは破裂してリングとその周囲を煙で包んだ。そして、十数秒後にはボンゴレの姿はリング内に無く、『サラダバー』と書かれた紙がその場に残されていた。

「し、勝負ありー!」

 ボンゴレの戦闘放棄と見なされプリンちゃん二回戦進出。

「厄介な方が残っちゃったなあ」

 心情的にはプリンちゃんを応援していた私だったが、本音を言うとボンゴレに勝って欲しかった。逃げ場の無いごんぶとビームをほぼ無限に発射してくるプリンちゃんは、この大会のルールでは相当強い。だから、ボンゴレの変態プレイで心が折れてギブアップしてくれたら良かったのだが、世の中上手く行かないものである。

「雑炊、そろそろ僕達も入場口に行かないと」

「分かってるよ」

 ドナベさんを連れて入場口へ向かうと、疲れた顔をしたプリンちゃんが歩いてきた。

「プリンちゃん、大丈夫?顔色悪いよ」

「魔力は減ってないんだけど…怖かったよ〜」

「医務室行く?」

「怪我も無いから大丈夫。雑炊ちゃんも一回戦頑張って〜」

 ふらついた足取りで自分の控室に入って行くプリンちゃんを見送った私は、入場の指示を受けてリングインする。

「お待たせ致しました。只今より一回戦最終試合を行います。キマイラの方角より、全方面に迷惑と面倒を掛けてすみません、ウチの子雑炊の入場です!」

「どすこいどすこいどすこーい!!」

 結局、新しい戦術は閃かなかったけど、ここで落ち込んでたら本当に終わってしまう。我に秘策ありって顔をして私はリングインした。

「そして、ケットシーの方角からはA組トップ5目前と評される、ボルト選手の入場だ!彼は、入学以来雷魔法を鍛え続けてるそうです。ウチの子も雷が得意らしいし、どちらが勝つのか見ものです!」

 私の対戦相手ボルトは、リングに上がるなり、こちらに指を突き付けた。

「雑炊!ワイはお前だけは絶対に許さへんでぇー!」

「はい?」

 ボルトは凄く怒ってるが、私は身に覚えは無い。正確に言うと、入学してからあちこちに喧嘩売ったり迷惑掛けたりしたけど何やかんやで許されてきていたから、今更怒られても、どの件か分からないのだった。

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