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第四十七話【卒業シーズンはコンヤクハキな模様】

「入学して休学して復帰したと思ったら休校になって、何だかあっという間に一年が過ぎたなあ」

 スタンピード事件解決から月日が流れ、何とか年度末には冒険者学園は再開された。それまで自宅学習とダンジョン巡りをしていた生徒も学園に戻って来たが、やはり全員が揃った訳では無かった。

 ある者は命の危険を目の当たりにして、ある者はハコレンと間接的に関わっていたから、ある者は進級や卒業の基準に届いて居なかったから、それぞれの理由で多くの生徒が自主退学していた。

「私もドナベさんと会って無かったら、退学していたかも」

 芋煮会の準備をしながら呟くと、ドナベさんは首を振る代わりに土鍋を左右に揺らし否定した。

「そもそも、僕が来なかったら全く違う流れになっていたと思うよ。この芋煮会の内容も僕の知るものとは違うしね。例えどんな歴史になろうとも、君は実力主義の学園での一年を無事終えた。それは、評価に値する」

「ありがと」

 学生食堂から借りてきた大鍋に具材をドバドバ入れながら、ドナベさんの気遣いに感謝する。

 スタンピードのせいで中断された芋煮会は、学園再開と共に行われる事となり、当初B組でやるはずだったそれは、全校生徒と教師で学園再開を祝う行事となったのだった。

「おーい雑炊、肉と味噌持ってきたぞぉ!」

「はーい、そこ置いといて」

 タフガイが運んできた猫耳ウサギの足と味噌ゴーレムコアを包丁で刻んで、鍋に追加投入。芋煮会の規模が大きくなってしまった分、更に大変になったけど、こうしてA組の生徒と交流出来る様になったのは嬉しい誤算だ。

 あ、そうだ。タフガイにこの間のお礼をしておかなきゃ。

「この間も手伝ってくれてありがとう」

「ハコレンの貴族の屋敷襲撃した時か?アレはどっちかと言うと、雑炊がオレ達を手伝ってくれたんだから、礼を言うんはこっちの方だ」

「違う違う。ほら、先週私が便座で爆走しながら魔物を取りこぼしたのを全部拾ってギルドへ届けてくれた方だよ」

「ちよっと何言ってるか分かんねぇな」

 とぼけるタフガイ。どうやら、自分が助けた事は秘密にしたいみたい。ごっつい見た目の割に照れ屋さん。そんな一面が見れて私は恋愛イベントの進行を実感した。

「大体よぉ、便座で爆走って何だよ?そこから説明してくれよ」

「またまた〜全部後ろで見てた癖に。まあ、タフガイが否定するのならそれで良いよ」

「おう、そーしてくれ。で、話変わるけど、雑炊は今年の魂焼覇気には出んのか?」

「当然!アンタにもリー君にもブーン様にもそれぞれリベンジしたいしね」

 イモの皮を剥きながら、私は参戦をタフガイに宣言する。

「それにしても、芋煮会だけで無く、魂焼覇気まで全校生徒でやる事になるとはなあ。オレは皆と力比べできるんなら、何だって良いんだけどよぉ」

「校長先生も、学園に活気を取り戻そうと必死なんだよ」

 魂焼覇気(こんやくはき)とは、この冒険者学園で毎年卒業シーズンに行われているバトルトーナメントである。遥か昔、卒業パーティで王太子が公爵令嬢に婚約破棄を突きつけたら、拳で黙らされた事件が起源とされている。参加資格があるのは、卒業を控えた三年生だけだったが、長期休学の暗い雰囲気をぶっ飛ばす為に、今年は一年の部と二年の部も特別に設けられたのだ。

 なお、当然の事ながらドナベさんは『僕は知らないよ、こんな展開』と頭を抱えていたが、私の成長と好感度アップのチャンスなのは間違い無いので、あっさりと参加を許してくれた。


 そして楽しい芋煮会はあっという間に終わり、季節は過ぎ去り魂焼覇気当日となった。

「レディースアーンドジェントルマン!長らくお待たせ致しました、これより魂焼覇気一年の部を開催します!」

 マイクを握りしめ司会進行するのは、新任教師のゲオルグ先生。そう、男爵様だった人だ。

 スタンピード事件により逮捕された彼は最終的に加害者では無く被害者として扱われ無罪放免となった。しかし、逮捕に至るまでの行動が人としては良くても貴族としての資格無しと判断され男爵位と領地を失ったのだ。

 そして、公爵家別館で水責めを受け続けているデール先生と入れ替わる様に、一年C組の教師に就職し、元男爵様はゲオルグ先生となったのだ。

「それでは、予選を勝ち抜いた十六名の選手…入場ッ!!」

 私を含む予選通過者が、ケットシーの方角の出入り口から闘技場に次々と現れる。

「伝説を作り続ける公爵令嬢は当然参戦!この女を止めれる奴は居るのか?フリーダ・フォン・ブルーレイ!」

「その対戦相手となるのは真逆の苦労人!C組から這い上がって来た男がどこまで最強公爵令嬢に食い下がれるか!トムトム・トム!」

【第一試合・フリーダさん対トム】

 皆フリーダさんが勝つだろうと思っている。私もそうなんだけど、トムには是非とも頑張って少しでもダメージを与えてから散って欲しい。

「デカァァイ!説明不要!大人顔負けのフィジカルモンスター!タフガイ・マキシマムだあ!」

「対するは、ラオ商会の御曹司リー・ラオ!運命とはなんて残酷なのか!一回戦で親友同士の争い勃発だ!」

【第二試合・タフガイ対リー君】

 互角とされる二人だが、狭いリングで戦うならタフガイが有利か。

「第三試合に登場するのはこの女だ!スグニがB組落ちした後の熾烈なA組五位争いに名を連ねた、三属性の魔法使いトリン・マクスウェル!」

「対するは、同じくA組五位の座をトリンと争い続ける燃える炎の爆炎フレイム!アチアチ・ホットモット!」

【第三試合・知らんやつ対知らんやつ】

 興味無い。どうせこの二人の優勝だけは無いだろうから、この試合の間に色々準備しておこう。

「第四試合に挑むのは!学園一の無気力男!周りが辞める中、退学届けのやり方知らなくて今も学園に在籍してます!メガ・シンデル!」

「そして、何やってんだお前ー!B組教師エレン・チャーミーまさかの参戦だ!」

【第四試合・ギリ知ってる奴対エレン先生】

 メガは確かC組に居た…気がする。コイツどうやって予選突破したんだろ?そして、一年の部が急遽追加されたせいで、ルールに『教師は参戦不可』の一文を付け忘れた結果、エレン先生が参加しちゃった。ええんか?

「皆様お待たせしました!もう一人の優勝候補、ブーン・フォン・アークボルトは第五試合に出ます!この試合は絶対見逃すな!」

「対戦するのは『キャ~!ブーン様素敵ー!抱いてー!』です」

【第五試合・ブーン様対知らんやつ】

 対戦相手の名前はブーン様ファン達の声援で聞こえなかった。まあ、どうせ負けるだろうが、哀れ。

「第六試合の…皆さん落ち着いて!会場にゴミを投げないで下さい!ゴミを投げないで下さい!スグニ・マゾクナル、入場と共に頭にゴミを投げつけられております!」

「あーっと、対戦相手のヒレツ・カーンもゴミを投げつけられております!何て人気の無いカードなんだー!」

【第六試合・スグニ対ヒレツ】

 ヒレツは四月の対抗戦で個人戦のルールを無視して五人て固まって動く戦術を実行した奴だ。そして、その五人組に囲まれボコられたのがスグニである。つまり、入学直後からの因縁あるライバルとも言えるのだが、勝手にやってろとしか思えない。

「ゴミ掃除しながら入場して来たのは、校内ミスコン準優勝のプリン・フォン・モエモエだあ!男子人気ナンバーワンのピング髪の男爵令嬢!」

「対するは、セクハラクソイケメン忍者!この学園に来たのは高位貴族と付き合う為と豪語するはこの男!ボンゴレマル・コーガ!」

【第七試合・プリンちゃん対ボンゴレ】

 人の顔と名前を覚えるのが苦手な私でも、しっかりと覚えれるぐらいキャラが強いB組生徒の二人だ。プリンちゃんの事は良い意味で、ボンゴレの事は悪い意味で印象に残っている。

「そして、最後にやって来たのは汚い方のピング髪男爵令嬢!いや、男爵令嬢では無いし、育ての親の私も今はただの教師だ!汚い平民!雑炊が来てくれたー!」

「迎え撃つは、トリンやアチアチと並んでA組上位常連!雷速の貴公子、ボルト・フォン・アンペアが試練の如く立ちはだかる!」

【第八試合・私対知らんやつ】

 私と同じ、雷魔法一本伸ばしで鍛え続けているらしい。今の自分がどのぐらいかを知るには丁度よい相手かも。

「以上、十六名によるトーナメント形式で一年生最強を決定します!優勝者には校長先生より豪華景品をプレゼント!」

 景品も欲しいし、好感度も欲しい。でも、何より絶対に勝利が欲しい。フリーダさんはトーナメントの反対側。戦うとしたら決勝だ。勝ち進むのも大変なのは分かっている。でも…勝ちたいなあ。

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